今日的な「リテンション・マネジメント」(人材流出引き留め策)
解説:福田敦之(HRMプランナー/株式会社アール・ティー・エフ代表取締役)
人材難が進み、「人材格差」が「企業格差」になってきている現在、優秀な人材を採用すると同時に、いかに自社にとって必要な人材を引き付け、引き留めていくかが(リテンション)、多くの企業に求められてきている。その際問題となるのが、人を引き留める場合、「金銭的な報酬」だけではなく、それ以外の要素の影響が大きいことである。人材難の昨今にあって、この点が対応をより複雑にしている。今回は今日的なリテンション対策を行う際、優秀な人材を引き留めるために、どのようなマネジメントが必要なのかを解説していく。
なぜ、リテンションが必要なのか
人材の流動化時代、優秀な人材の争奪戦が激化
昨年来のサブプライムローン問題に続き、9月には米国証券大手のリーマン・ブラザーズ破綻のショックの影響もあって、景気の先行きに不安感が増してきている。とはいえ、団塊世代の大量退職や少子化の進展もあり、労働力の不足は明らか。そのため、企業の採用意欲は依然として高い水準にある。さらに人材の流動化が進み、よりよい仕事や待遇、成長の機会を求めて転職する「自発的な転職者」が増えてきているのが最近の傾向である。
ただし企業側からすると、これは人材の流出ということになる。特に、優秀な社員ほど魅力ある企業への転職を考えていく。逆に、そうではない社員は魅力なき企業に残るという状況を生み出し、まさに優秀な人材の奪い合いが人材流動化時代の特徴と言える。
計り知れない「離職」による「損失」の大きさ
いずれにしても、人材の流出によって企業が被る「損失」は少なくない。実際問題として、社員が流出した際の会社が被る損失には、以下のようなものが想定される。
(1)「採用」に関するさまざまなコスト負担
人が抜けた分、まずは後任の人材を採用するために、求人広告費や人材紹介会社の紹介料といった直接的な費用がかかる。さらに、採用選考、試験、面接など採用業務に関する諸々のコストに加え、入社後に行うオリエンテーションやOJTなどでは現職の社員を拘束することになるので、時間コスト・間接コストも相当かかってくる。何より、本来業務に割けるはずの時間が減ってしまうことが大きな損失である。
(2)「機会」の損失・「生産性」の低下
採用難の下では、辞めた後にすぐに人が採用できるわけではない。その間の「空白期間」による機会損失が生じる。いくら周囲の人たちがカバーしても、結果的に残業することになってしまっては、「時間外手当」が発生してしまう。さらに、後任の人が就いたとしても、その人が前任者と同じようなパフォーマンスを発揮できるようになるには、それなりの時間を要する。定型的な業務ならアルバイト・パートや派遣スタッフに任せられるが、そうではない仕事だと簡単にはいかないだろう。一定期間、生産性が低下することは避けられない。
(3)「顧客」の流出
扱う商品やサービスにもよるが、社員が転職すれば顧客も一緒に新しい会社に移る可能性が高い。事実、営業系の職種では、本人に顧客が相当付いているケースが少なくない。投資顧問会社などでは、有力なファンド・マネジャーが転職すると預かり資産の解約・流失が次々と起き、経営に深刻なダメージを与えた事例が数多くある。
(4)「企業機密」の流出
企業機密が流出するというリスクもある。「改正不正競争防止法」の施行により、本人・相手会社とも刑事罰が強化されることになったものの、実体として十分な対処はできていないようだ。それこそ、転職する技術者が技術ノウハウを転職先へ「持参金」として持ち出すといったケースがある。加えて、裁判で「クロ」にできることは稀のように聞く。また、営業部門では顧客リストを退職社員が持ち出すこともある。
(5)「職場活力」のダウン
人が辞めることによる組織のモラールやモチベーションの低下という側面についても、看過できない損失がある。優秀な人が去ることで、職場全体の活力が削がれてしまうのだ。実際、キーパーソンが辞めることで職場の士気が低下したり、風土が変わってしまったりすることがよくある。さらには、退職社員が元の同僚や部下をごっそり引き抜いたり、連鎖退職が発生したりするケースも少なくない。
人の採用から定着へとテーマが移ってきた
このように、離職による損失の大きさは計り知れないものがある。手塩にかけて自社で育成し、知識や経験を身に付け、ノウハウやスキルを磨いたせっかくの人材が、より有利な条件を提示した他社に引き抜かれるようなことになれば、それは即、大きなダメージとなっていく。
また、企業間の競争は一段と激しくなっており、人材難は当分続くと見られる。その結果、外部労働市場で優秀な人材を採用することの「難易度」が非常に高くなった。優秀な人材は、ますます売り手市場になっていく。
だからこそ、自社にとって大切な人材の流出を防ぐこと(リテンション)が、人事マネジメント上、極めて大きな問題となってきている。人の採用から定着へと、まさに人事の重要なテーマが移ってきたのだ。
リテンションの考え方~人は何に「モチベート」されるのか
「金銭的報酬」には限界があることを知ろう
では、人材の流出を防ぐにはどうすればいいのか?一般的に、優秀な人材を引き留めておくには、「報酬」が重要であると誰もが思うだろう。この報酬だが、基本となる月例給与のほかに、実績に応じて支給するボーナスなどの短期的なインセンティブや、ストックオプションなどの長期的なインセンティブがある。年功主義から成果主義の流れの中で、さまざまな処遇のあり方が言われている昨今であるが、まずは確保したい人材に対して、どのような報酬制度を適用することがリテンションとして有効なのかを考えておく必要がある。
例えば、一時的に支給されるボーナスなどと異なり、ストックオプションは長期的な視点に立ったメリットが大きい。もちろん会社の業績が上がらなければストックオプションはただの紙切れだが、IPOを目指し、ハイリスク・ハイリターンを狙う人にとっては、達成できたときの醍醐味がとても魅力的に映ることだろう。ただ、ストックオプションが意味を持つのは、会社が成長期にあるか、これから大きな成長が見込まれるような状態にある段階までである。成熟期や衰退期に入った会社では、導入するメリットは少ない。
ここで考えて欲しいのは、単に金銭的な報酬だけで優秀な人材を引き留めるのは困難だということ。というのも、より多くの報酬を提示する他社からのオファーがあった場合、金銭面だけに頼った対応では、簡単に引き抜かれてしまう。なぜなら、報酬とは下記に示すような「衛生要因」だからである。そして積極的態度とは、自発的な状況からでなくては生まれにくいものなのである。
衛生要因:不満の防止はできるが、「積極的態度」を引き出すには効果が低い
↑
↓
動機付け要因:組織構成員の「積極的態度」を引き出すのに効果的である
「人はパンのみに生きるにあらず」と言われるように、そもそも金銭的な報酬には限界がある。考えてみると、1990年代後半からの「成果主義」導入以後、人事評価は能力給や成果給、業績連動型賞与、コンピテンシーなどが主流となり、高い「成果」を上げる優秀な社員は、今まで以上に高報酬が得られるようになった。しかし、近年はその反動が大きく出ている。仕事にゆとりがなくなったと感じる社員が増加し、多くの企業は高報酬を約束しても人材流出に歯止めがかけられていないのが現状ではないだろうか。もはや成果主義と単なる高報酬だけでは、リテンションとして十分な効果が得られないことは明らかである。
「成果主義」に否定的・懐疑的な社員
事実、成果主義を社員はどう見るかとの調査結果では、「社員のやる気」「部下や後輩の育成」「仕事のゆとり」などについて、多くの社員は否定的・懐疑的な感想を持っていた(労政時報調べ)。
また、給与レベルは世間並みであっても社員がいきいきと活躍している会社がある一方、驚くほどの高給でも社員が次々と辞めていく会社も少なくないことは、「成果主義」が必ずしもリテンションに有効ではないことを物語っている。
特に、金銭的な報酬の仕組みしかなく、社員を大切にする「動機付け」の仕組みのない会社がいったん業績不振になったような場合、人材流出と業績悪化が悪循環を招き、回復不能の状態に陥った例も少なくない。
今日、重要なのは「非金銭的報酬」
それよりも今日、リテンションにおいて重要なのは「非金銭的報酬」だと考える。転職する人材の多くは、今以上の報酬を求めて転職しているとは限らない。むしろ、仕事のやりがいや専門的スキルが向上できる組織、成長を実感できる職場、充実した福利厚生、ワークライフバランスが実現されている環境など、各人が「働く価値」を見いだせる企業を求めて転職を考えている。
だから人材の社外流出を防止するには、社員が何を求めているのかをよく知ること。そして、離職要因を一つひとつ分析し、取るべき対策を考えていく。その中で、自社にフィットした施策を整備し、導入していくことが大切である。
結局、お金に代表される衛生要因(不満足要因)が解決されても、それは真の動機付けにはならない。もちろん、一定水準以上の待遇が確保されていることは必要条件ではあるが、そこまでのことだ。人間の高次の欲求を満たすには、動機付け要因を用意し、改善していく必要がある。そして、それが「リテンション」対策の大きな柱となってくる。
動機付けとなる「非金銭的報酬」は何か?
次に、具体的なイメージを持ってもらうために、非金銭的な報酬にはどのようなものがあるのかを考えてみよう。
(1)経営トップが社員への「感謝」を示す
まずは、経営トップの社員へのメッセージである。社員とは収益を上げるための手段ではなく、会社経営のためのよきパートナーと位置付けること。そして、会社の発展を社員と共に喜び合い、社員の日頃の努力や素晴らしい成果には心からの感謝を表していくことである。何よりも、経営トップが社員に対する感謝の精神を忘れてはならない。
(2)仕事と生活の「調和」が図れている
近年、ワークライフバランスの重要性が言われている。リテンションという点から考えると、仕事と生活の調和を図ることによって社員の「充実した人生」を支援し、社員満足度の向上に努めることの意味は大きい。ワークライフバランスを実現するには、「在宅勤務」「モバイル勤務」「勤務地限定制度」などの場所にとらわれない働き方、「育児介護休業」「フレックスタイム」「時差勤務」「短時間勤務制」「裁量労働制」など時間にとらわれない働き方などが代表的である。さらに、「育児介護休業」や「有給休暇取得促進」などもこれからは重要となってくるだろう。
(3)企業文化・職場風土・労働環境がいい
会社は、1日の生活の中で最も多くの時間を過ごす場所である。だからこそ、働く環境をよくすることはとても大事である。例えば、社員が自分のアイデアや意見を自由に発言できることや、社員相互間に相手の努力や成果を素直に認め、感謝し合う連帯感があるといったこと。また、会社の立地条件も通勤だけでなく、ショッピングや終業後のエンターテイメントなどに便利であること、オフィスが清潔で1人当たりのスペースが十分確保されているとことなどをもっと考えていい。さらに、過重残業・サービス残業の防止体制やストレスの多い職場での心のケア(カウンセリング)などが整備されていることなども求められてくる。
(4)「キャリア開発」に熱心である
上昇志向の強い社員は、給与の高さよりも自分のキャリアがアップして、より高い業務や仕事に就けるかどうかに関心が高い。会社が社員の能力開発やエンプロイアビリティ強化のために支援(教育機会や経費・時間の供与)していく、あるいは「社内公募制」や「社内FA制」などを導入して社員のキャリア・アップに力を注いでいくことは、大きな動機付けとなる。
「働く環境」は魅力的であるべきだが、それは各社で異なる
今日的なリテンションを考える際、ここで記したような非金銭的な「働く環境」が整備されているかどうかが重要なポイントとなると思う。だから一度、どのような会社や組織で働いてみたいか、皆で腹を割って話し合ってみてはどうか。
さしずめ私なら、優秀な人材にとって働き続けたいと思う会社とは、まず経営に透明性があること。明確な企業戦略の下、その会社が何を目指しているかが明らかで、自分の職務がそれにどのようなインパクトを与えられるのかがはっきりと分かること。そして、自分の貢献が正当に評価されるという保証が大切だと考える。というのも、自立性が発揮できる自由と柔軟さを備えていること、チャレンジできるチャンスがあること、活力にあふれていて将来に希望が持てることなどは、きっと彼らには魅力的に映ると思うからだ。
つまり、働く環境が具体的に施策として示され、それを働く人たちが享受できていることが、とても重要となってくるのである。ただし、気を付けてほしいのは、優秀な人材の定義は事業特性や各企業の置かれた状況で異なるということ。また、そこで働く人たちの特性によっても異なることである。人事部としては、自社における優秀な人材を定義すると同時に、彼らが何によってモチベートされるのかを的確に把握し、自社なりの「リテンション施策」を講じることを第一に考えていくことだ。
自社なりの視点で「社員調査」を行う
周知のことと思うが、優良企業と呼ばれるところでは定期的に、社員の意識調査、満足度調査などを実施している。社員の勤労意欲を与える「因子」を洗い出し、絶対水準や相関関係を分析していく。さらには、退職者へのインタビューを行っている企業もあるという。
その意味でも、リテンション対策を講じるには、まずは自社なりの視点で「社員調査」を行うことが前提条件となる。その際の「因子」の考え方としては(1)人間関係、(2)待遇面、(3)担当業務、(4)将来設計・キャリアプラン、(5)労働環境といった具合に、働く環境というもの大きく分けてとらえ、その中から不満を覚える原因を具体的に絞り込んでいくことである。と同時に、動機付けされる要因も明確にしていく。
つまり、優秀な人材をモチベートする要因は何なのか、あるいは辞めたいと思う離職予備軍はどのようなことに不満を持っているのかなどを明らかにしていくことで、自社における人材流出の根本的な原因や、勤続意欲を支える要因が見えてくる。そして、それをベースにして費用対効果の高いリテンション対策を講じていくことである。
リテンション対策の実際
リテンション対策の「考え方」
繰り返すが、本来は各企業によって優秀な人材像は異なるので、そこから導き出されるリテンション対策も異なってくる。各社各様が本来の姿だと思う。ここでは、昨今のさまざまな状況を踏まえた上で、一般的なあり様としてのリテンション対策の考え方を述べてみたい。
(1)職責に「権限」を与え、評価していく
社員は、いかにして成し遂げた仕事に関与したかが明確で、そこでの働きぶりを評価されているという実感を得たいものである。そして「権限」を与えられると仕事に満足し、組織へのコミットメントも向上していく。
(2)働きに応じた「報酬」
昨今では「お金」だけで働くことは少なくなっているとはいえ、「必要条件」として重要な要素であることに変わりはない。まずは世間相場、競合の現状をよく知ること。その点をクリアした上で、自社なりの工夫を考えたい。そこで重要となってくるのは、働きに応じた報酬(ペイ・フォー・パフォーマンス)という考え方。パフォーマンスの「定義」は難しい部分もあるが、実現できれば企業の発展に寄与すると同時に、自社に必要な人材の定着を図っていくことが可能となる。
(3)「異動」の機会を提供する
優秀な人材ほど、自らの知識やスキルを向上させたいという思いが強い。それに報いていくには、単なる昇格だけではなく、横へと異動する機会も必要になる。何よりもキャリアパスをはっきりさせることで社員は安心感を持ち、将来へのロードマップを得ることができる。
(4)「能力開発」の機会を提供する
優秀な人材は、先端的な知識に触れることをしきりに望む。今日、いろいろな形での教育やトレーニングの機会やツールを提供することは不可欠な要件と言えよう。
(5)「フィードバック」を行う
どのような評価をされたのか、またその理由は何なのか。これができていない企業は意外と多い。機会あるごとにフィードバックを行い、社員の納得感を醸成し、同時にガス抜きを行うことはとても重要である。これによる組織への「帰属感」効果は大きい。
(6)周囲との「コミュニケーション」を促進する
関係構築、チームビルディングなどのマネジメントのトレーニングを行うことにより、組織内の風通しをよくしていく。その際、さまざまな道具や演出をもって、職場でのコミュニケーションを図っていく工夫を考えていこう。皆でこのような対人関係スキルを向上させていくことは人間関係を円滑にするだけでなく、組織に対する信頼感の向上につながっていき、離職の減少へとつながる。
「職種」による違いがあることを知る
そして、「職種」によってリテンションとなる要因が違うことも忘れてはならない。実際、技術職と営業職とではモチベートされるものが大きく異なる。例えば、技術職の場合を考えると、
- 自由に使える「開発予算」が与えられる
- 取り組むテーマを、自分で好きに選ぶことができる
- 勤務時間の一定割合を、自分の好きなことに使える
といったことだろうか。一方、営業職の場合、
- 短期で支払われる「業績連動型の給与」がある
- 勤務形態が自由である
などが考えられる。こうした職種ごとの特性に対してきめ細やかな対応を施していくことも、リテンションという意味で非常に重要である。さらには、「階層」などによる違いも同様と考えていい。要は、いろいろな「スペック」ごとに、施策を用意しておくことである。
「安心」と「挑戦」で定着を図る『サイバーエージェント』
ところで、2007年10月に本サイト内の「となりの人事部」で「若手社員の定着対策」をテーマに、ITベンチャーとして有名なサイバーエージェントを取材した。その際、人事本部・本部長である曽山哲人氏から、非常に示唆に富む考えを聞かせてもらったことをよく覚えている。それは人材の定着において、「安心」と「挑戦」が非常に大切だということ。とかくベンチャー企業は挑戦が先行しがちだが、「格差」が問題となってきている現在では、安心して日々の生活が送れないと、挑戦するのは難しいという。
絶え間なく挑戦を続けていくためには、社員が安心して働ける環境を同時に提供していく必要があるということで、同社では他社ではあまり見られないユニークな「福利厚生制度」を用意している。(*内容は取材当時のもの)
【リフレッシュ特別休暇制度】
(1)休んでファイブ
心身のリフレッシュ、そしてさらなるチャレンジを目的に、2年勤続するごとに5日間の特別休暇が取得できる。
(2)休んで1ヵ月
継続勤続年数丸5年を経過した社員を対象として、1ヵ月間の特別休暇を付与する制度。1ヵ月というまとまった休暇を取得し、心身ともにリフレッシュしてもらい、さらなる意欲向上、パワーアップを図ってもらう。
【家賃補助制度】
(3)2駅ルール
勤務しているオフィスの最寄駅から各線2駅以内に住んでいる正社員に対して、月3万円の家賃補助を支給する。
(4)どこでもルール
社日より継続して5年以上勤務した正社員に対して、月5万円の家賃補助を支給していく。入社5年というと、結婚とか育児などが視野に入ってくる年代。住む場所や環境も変わってきており、こうした面での支援も重要である。ちなみに、住んでいる場所は問わない。(3)(4)を合わせて、従業員の約7割が利用している。
【コミュニケーションアップのための制度】
(5)部活動支援制度
社内の各種クラブ活動、同好会など部署を横断した集まりに対して、補助金を支給する。現在、ゴルフ部、フットサルクラブ、麻雀部、フラワーアレンジメント部、テニス部など多種多彩の部活動が行われている。社員間のコミュニケーションアップのための制度で、1人当たり月間で1500円を補助している。
処遇コースを「自由に選択」できる『サイボウズ』
もう一例紹介しよう。同じく「となりの人事部」で今年9月に取材したサイボウズ。使い勝手のよいグループウエアで高い評価を得ていることで有名だが、人事制度も非常に斬新である。近年の就労志向の多様化に対応して導入した処遇制度がそれだ。成果を重視する従来の制度「PS」を維持しつつ、年功を重視するコース「DS」を新設し、処遇体系を複線化したのである。これにより、人材の定着と活用を図っていくという。
「DS」は、勤務年数や日々の勤怠をベースに評価を行う人事制度で、基本的に個人の成果は評価しない。そのため、成果重視型ほど大幅に昇給はしないが、勤怠よく真面目に勤務すれば、スムーズに安定して昇格することができる。そして、対照的な「PS」「DS」2つの人事システムをハイブリッドするのではなく、それぞれ独立した制度として並列にし、自分の意志で「自由」に選択できるようにした。この点がいわゆるコース別人事制度とは大きく違うところであり、同社の人材に対する考え方がよく出ている点である。
山田氏は「多くの従業員が活き活きとそして長く働くためには、その時々に自らの意志で働き方を選べた方がいい。だからこそ、この制度を導入したわけです」と説明してくれた。昨今のワークライフバランスという点からも、同社のような働き方の選択肢を広げることは非常に意味のあることだと思う。
つまり、働き方として性別や職種に関係なく、成果重視の働き方、年功重視の働き方の両方を用意することが重要なのだ。そして、そのどちらを選択するのかは、あくまで個人が決めると。この点を会社は尊重すべきである。なぜなら、働き方というのは、人それぞれの生き方に他ならないからだ。そして、それが実現できている会社に社員は信頼を置くことができるように思う。
このように、人材の定着が実現できている企業では、独自の人材観からいろいろな工夫を施していることがよく分かる。詳しくは、「となりの人事部」の各コーナーを見てほしい。
■となりの人事部 第21回 株式会社サイバーエージェント
ネット業界における「若手社員の定着策」■となりの人事部 第26回 サイボウズ株式会社
「信頼」という人材観で、社員が成長し、長く働ける環境を実現
【参考】具体的なリテンション施策例
最後に、リテンションに有効な施策として代表的なものを以下、掲げておいた。自社なりの施策を考える際の参考としていただければ幸いである。