ダイバーシティ・リーダーシップが会社を変える、
日本を変える
「自分で決められる人材」の育て方とは
東洋大学理工学部生体医工学科准教授
埼玉県雇用・人材育成推進統括参与
小島 貴子さん
21世紀型の新しいリーダーシップにはオープンマインドと柔軟性が不可欠
ところで「自分で決められる人材」を育てようと思っても、もともと日本の企業文化ではそうした人材が生まれにくく、まして近年は組織の中間層も少ないため、若手社員にとっては「自分で決められる」ロールモデルが見つけにくい状況にあるのも事実です。
目に見える範囲だけで完結していてはダメだと思いますね。もっと想像力をたくましくして地球の裏側まで視野に入れれば、彼らのモデルやメンター、学ぶべき人材は世界中にいるんですから。自分の職場の半径数メートルだけを見回して、上司や先輩がどうのと、愚痴をこぼしたってしかたがないでしょう。
もっとも、彼らは一方で非常に柔軟ですから、ちょっと刺激を与えれば意欲や好奇心が開花して、自分からどんどん動き出すはずです。たとえば多少語学がおぼつかなくても、思い切って海外出張に行かせたり、スカイプでの会議を体験させたりして、きっかけを与えてみてはどうでしょう。
結局、組織の枠組みに囚われていてはいけないということですね。
私の知り合いにとても面白い若者がいます。ある企業のサラリーマンなのですが、毎年暮れになると、仕事納めの瞬間から髪の毛を金髪か銀髪に染めるんですね。どうしてそんなことをするかというと、金髪か銀髪にすることで会社から身も心も離れて、一度、サラリーマンの自分をリセットするためなんです。そして年を越しながら、自分が1年間どういうサラリーマンだったかを振り返り、「よし! 新年もいまの会社で頑張ろう」という覚悟が改めて固まったら、また髪を戻すんです。
自分をここまで本気で振り返る人もなかなかいないと思いますが、この若者がやっぱり「自分で決められる人」なんですね。どんどん決める人には、仲間もみんな従うんです。彼がこうしようというと、「おまえが決めたんだから」といってついていく。だからどんどん大きなことが決められるんです。
冒頭におっしゃった「ダイバーシティ・リーダーシップ」の見本ですね。
そうなんですよ。ときどき私のところに相談に来ることもありますが、彼の場合は相談というより、何か決めた後の事後報告ですね(笑)。ただ決めても、揺れてはいるんです。だから報告に来るわけだし、じつはアドバイスする側も、相手が自分なりの結論を持っていたほうが助言しやすいんです。
何も決めていない人へのアドバイスは決定に影響を与えかねないから、どうしても当たり障りのない発言になってしまう。私も公務員から転職するとき、公務員を辞めるという結論だけは決めていました。決めていたからこそ、周囲が具体的な情報をくれたんです。何も決めずに、漠然と「どうしたらいい?」と相談していたら、いまの私はなかったかもしれません。
なるほど、「自分で決める」ことの大切さが改めてよくわかりました。
これから日本の職場には、読者の皆さんよりも若くて、能力やキャリアの面でもすぐれた外国人がどんどんやってくるかもしれません。そういう環境で生き抜くためには、周囲をどんどん巻き込んで多様な人材の実力を十分に引き出す、ダイバーシティ・リーダーシップが不可欠です。
ダイバーシティ・リーダーシップの要件としては、まず「自分で決められること」。そして自分の意見や考えを開示し、自分の能力の限界も認めた上で支えてくれる周囲への感謝を忘れない「オープンマインドと誠実さ」。さらに多様な他者を受け入れられる「柔軟性」が求められるのではないでしょうか。
21世紀型のそうした新しいリーダーシップのための教育は、まだ手つかずといっていいと思います。企業には、そして人事部には何ができますか。
私は、企業が会社以外のところに、もっと多様なフィールドを持つことが必要だと思っています。東日本大震災から丸2年が経ちましたが、復興は遅々として進んでいません。企業はCSRを超えて、被災地支援にもっと人を送り込むべきではないでしょうか。極論ですが、入社して3年間は社員を現地に派遣し、給料は会社が保障するから漁業の復興や瓦礫(がれき)の処理に全力であたってくれと。そういう会社がもし現れたら、日本の誇りだと思いますね。
いくら多様性が大切といっても、想像のダイバーシティではダメなんです。現場へ行って、リアリティーショックを受けて、そのなかから自分で新しいものを考え出す。人事部の方にも、そういう思い切った施策を立案してほしいですね。私の経験からいうと、素敵な人事部の方はみんな本気です。人事部は人を変えていくポジションでしょう。人が変われば会社が変わる、会社が変われば日本も変わる――そこまで本気になってほしいんです。人事は嫌われ者だから……なんて言ってちゃダメですよ。
(取材は2013年3月11日、東京・文京区の東洋大学にて)
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。