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「自分で決められる人材」の育て方とは
東洋大学理工学部生体医工学科准教授
埼玉県雇用・人材育成推進統括参与
小島 貴子さん
タイミングのいいチェックと微調整で決めることへの重圧をやわらげる
企業の人材教育支援に尽くされる一方で、大学でもキャリア教育の先頭に立っていらっしゃいます。次代を担う人材として、教え子の皆さんをどうご覧になっていますか。
私が「自分で決めなさい」というと、学生たちはたいてい驚きますね。そういうことを言われ慣れていないから。今春、新しくゼミを立ち上げたのですが、学生にゼミの名前も、運営方法もクレドも自分たちで決めるようにいったら困惑していましたよ(笑)。たしかに私はゼミの担当教員だけど、ゼミの教育は自分たちのものなんだから、自分たちで決めなさいといっても、なぜか「決めること」を必要以上に重く考えてしまうんですね。「先生、ダメ出ししますか?」なんて怖がって。そこで私が彼らによく言うのが、「5・7・GO!」の決め方、進め方です。
自分たちで決めるのはいいけれど、全部やり遂げたあとに報告して来てダメ、やり直しとなったら、ショックが大きくてモチベーションが下がってしまうでしょう。だからまず全体の“5割”まで進めたところで一度、私にチェックを仰ぎなさいと言っています。必要ならば微調整し、次に“7割”の段階でまたチェックして微調整。そこまで来たら、あとは最後まで“GO!”だと。だから「5・7・GO!」なんです。こうやって決めていけば、いちいち「報・連・相」なんてしなくてもいい。若い人に自分で決める経験をさせるときのポイントはチェックやダメ出しのタイミングです。彼らのモチベーションに対する影響にも配慮しなくてはいけません。
いきなり結論を求めるのではなく、その時点で考え得るベストの答えを出し、修正を加えながらゴールに近づいていくという、“決め方”のトレーニングも必要なんですね。
もちろん大学生からやらなければ、間に合わないというわけではありません。企業でも入社して3ヵ月ぐらいの間にこういう訓練を重ねて、「自分で決める」ことについて深く考えるように仕向けると身につくと思いますよ。相手に考えさせるコツのひとつは、「聴き方」なんです。なぜそう決めたのか、どうしてそういう行動をとったのか――人材教育のうまい人は、相手に自然と考えさせる聴き方をするんです。
また、質問と設問をきちんと使い分けて聴いています。質問はたんなる事実の確認や問い合わせで、設問はそこに何かしらの問題解決を伴います。何かについて検討したり、解を導いたりするために提起されるのが設問、だから知識や理解度が問われるわけです。たとえば「朝、何を食べましたか?」というのはどうでしょうか。
朝食に何を食べたかという事実の確認だから、質問だと思います。
そのとおりです。一方、「今日はスポーツをやる予定があるのですが、朝食に何を食べたらいいでしょうか?」とたずねたら、これは設問ですね。「消化が良くてエネルギーに変わりやすいから、バナナがいいですよ」というふうに解を導き出すことにつながり、相手の知識も確認できるわけですから。うまい設問によってトレーニングすると、相手は考える習慣がついて、最適解を導きやすくなるんです。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。