多様化の時代だからこそ大事にしたい
職場における「わがまま」の効用

立命館大学 産業社会学部 准教授

富永京子さん

自己責任の呪縛から救う没個性の効用

わがままを言える組織づくりに向けて、人事ができることとは何でしょうか。

一つは採用を通じて、多様性を担保することでしょう。昨年の参議院選挙では、重度の障害がある議員が二人誕生しましたが、エポックメイキングな出来事でしたよね。確かに他の議員と比べると、できることに制約があるかもしれません。ただ、健常と障害、できることとできないことを国会という場で問うことが、非常に大きな作用ではないでしょうか。

もう一つ気をつけることは、自己責任を押しつけないことです。社会生活もそうですが、企業活動も「自分の努力だけで成立しているのではない」というメッセージを社員に発信してほしい。人が他人のわがままを「ずるい」と感じるのは、自分の願望を努力で叶えてきた一面があるからです。でも実際は自分の努力だけで成功したのではなくて、そのときの社会や会社の状況や、運が噛み合っていたことも否定できないはずです。

確かに行き過ぎた自己責任論は、わがままを封殺させてしまうところがありそうです。

以前、私が仕事で大きなミスをしてひどく落ち込んでいたときに、ご迷惑をおかけした先生が「誰にでも起こり得ることだし、もし私が同じミスをしたとしても、富永さんが同じようにしてくださればいいだけの話です」と話されたんです。そのひと言で、私はものすごく救われました。私の失敗も仕事も、ある意味で取り換えが効くことがわかったからです。

個性を求められてきた人々は、自分の代わりがいることに恐怖を感じるかもしれません。しかし、没個性が人を自己責任から解放する面は確かにあります。自分の中のよどんだ空気を変えるきっかけにもなり得ると実感しました。

―属人性とは対極にありますね。

先ほど取り上げたSEALDsの学生たちは、デモのときに「頭数になりに行こう」とよく言っていました。デモというと、それぞれが目立たなければと思いがちですが、逆だったんです。そこにいるだけで力になる、声になるというのは、わがままを言えないマイノリティーにとっては心強いことだと思います。

過度な自己責任の内面化は、社会や周囲への配慮を忘れさせてしまいます。しかしどんなに個人化が進んだとしても、没個性を認めることは巡り巡って自分を守ることになるでしょう。「わがまま」を言える職場づくりは、個性と没個性のゆらぎで成り立つものかもしれません。

富永京子さん(立命館大学 産業社会学部 准教授)

(取材は2020年2月26日、東京都港区にて)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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