新規事業を50以上立ち上げたフリーランサーが語る
企業と「“解像度の高い”仕事のプロ」とのいい関係づくり
株式会社守屋実事務所
守屋実さん
フェーズに合わせてポジションをスライドさせる
企業側が仕事のプロに依頼する際は、どのようなことに気をつけるべきでしょうか。
相手がフリーランスに限った話ではありませんが、何を発注しているのかが不明確では、うまくいきません。例えば、私の場合は新規事業を扱っていますから、「とりあえず今期中に、何か新しいものを生んでくれ」といった「不明確な」依頼が度々あります。それでうまくいくことは、99%ありません。
なぜならば、「何か」が「何なのか」を、誰ひとりとしてわかっていないからです。そんななか、いくら現場が頑張って提案をしても、「それはウチでやるべきか」あるいは「ホントにもうかるのか」と、横やりが入ってきます。新規事業なのだから、既存事業の常識から外れていて、市場の反応がどちらに転ぶかわからないのは当たり前です。しかし正解の絵姿がないと、反発の声をあげた人たちは首を縦に振らない。このようにして、新規事業の現場は死んでいくのです。
加えて新規事業は、既存事業の汚染に遭ってしまう、不利な環境にあります。その象徴的なものの一つが、単年度会計です。大手企業のほとんどは単年度会計なので、つまりは、新規事業であっても1年以内に成果を上げなければならない、ということなのです。正直、無茶な話です。
私が立ち上げに携わった印刷ECのラクスルは、ベンチャーのなかでは成功しているベンチャーと評価されていると思いますが、それでも上場までに8年かかりました。大手の新規事業開発はこの8倍のスピードで成果を出せ、と言っているわけです。しかも、それだけのスピードを求めているのに、ミルフィーユのような多重の会議体が、何度も何度もブレーキを踏みます。事業チームは、瞬く間に顧客視点を失い、社内の調整に注力するようになるのです。
これではさすがに仕事のプロも、どう振舞えばいいかわかりませんね。
しかし、特定の分野については磨き込んでいるわけですから、そこに当たるような依頼をすれば打ち返してくれるはず。どのような成果やアウトプットを期待しているのかを明確にして、球を投げることです。解像度がぼやけた状態で、何となく良さそうだからと依頼しているようでは、仕事のプロであっても持ち味を発揮できずに終わってしまいます。
私は「新規事業の立ち上げしかやらない」と常々公言しています。ラクスルに最初はボランティアで参画し、以降、顧問→社外取締役→取締役→副社長→取締役→執行役員→参与執行役員とたどって、今は契約社員をさせてもらっています。そう公言している私にとって、この経歴の推移はベストケースだと思っています。なぜなら、会社のフェーズと自分の役割に応じて、ポジションのスライドをうまく行えたからです。
私が価値を発揮できる領域は、事業を立ち上げるフェーズです。しかも、複数の新規事業を同時に回しながら量稽古することで価値を磨いているので、参画している会社からすると非常勤メンバーということになります。そのため、資金調達をして、各分野のプロを「専任」で雇えるフェーズになったら、私は退き、そのプロに任せるほうが断然いいのです。私は、マーケティングや人事のプロではないのだから、その分野において、その道のプロにかなうはずがない。そういうフェーズになったのに、いつまでも上のほうに居座っていたら、周りに悪い影響を与えてしまい、組織の健全さを損なってしまうのです。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。