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社会人として働くことに健常者も障がい者もない
“当たり前”を取り入れた、これからの障がい者雇用とは

楽天ソシオビジネス株式会社 代表取締役社長

川島 薫さん

普通の会社と変わらない企業にしたい

楽天ソシオビジネスには評価制度があると聞いています。特例子会社ではかなり珍しいのではないでしょうか。

そうかもしれません。最初はなかったのですが、評価制度がないのに楽天主義(楽天グループの行動指針を示したもの)を実践しろ、というのは少し矛盾しているかなと思ったんです。何かしらの形で一人ひとりの頑張りを評価するべきだと考え、最初は楽天本体の評価シートを導入しました。

しかし、楽天ソシオビジネスに当てはめた場合、項目が抽象的で、どう評価されているのかがわからないと従業員から意見が相次ぎました。そこから評価の見える化に着手し、現在は管理職を除いて楽天ソシオビジネス独自の評価シートで運用しています。

評価は、「パフォーマンス(仕事の実績)」と「ビヘイビア(仕事に対する姿勢)」の2軸です。ビヘイビアはさらに「期待行動」と「ビジネスマナー」にわけ、期待行動では「挑戦すること」「自律すること」「共生すること」の観点、ビジネスマナーは「仕事の心構え」「コミュニケーション」「ルールを守る」など五つの観点を設けています。そして期待行動は「意欲的に学ぶ」「進んで挑戦する」など具体的な態度、行動を示し、それぞれの項目を四つの段階で評価しています。

中でも協調性は大切にしています。社内には、自分一人で完結する仕事はありません。人と協力すること、チームワークが重要だというメッセージを伝え、そこにひもづいて報連相や他者受容などを評価しています。どれか一つに特化していても、“できている”とは評価しない仕組みです。ただし、評価時はどうしても上長の主観が入ってしまうので、今後の課題となっています。

図:楽天ソシオビジネスの発展モデルと評価制度(同社Webサイトより転載)
図:楽天ソシオビジネスの発展モデルと評価制度」(同社Webサイトより転載)

社内の一員としての自覚を高める施策もあるのですか。

経営層には楽天本体の社員もいますが、障がいのあるメンバーが内部昇格していくことが理想です。リーダーや管理職への登用は積極的に行っています。リーダーに就く際は、外部のビジネス研修を受講します。

社外の空気に触れるのは、とても大事なことです。私自身も、障がい者雇用に関する外部の講演や会議に出ると、毎回たくさんのことを吸収して戻ってきます。また、見知った人がいないという緊張感もあるので、研修はよい成長機会ととらえています。

社内での施策としては、委員会活動があります。職場環境改善やCSR、イベント企画、コミュニケーション活性化などいくつかにわかれていて、いずれかの委員会に所属します。

委員会に管理職は入らず、全ての運営を社員たちで行います。それぞれの委員長は社員から選出し、代表委員会で管理職と意見交換をする形です。ほかの会社を見学して学びを持ち帰る委員会もあり、採用手法や仕事の進め方などを参考にして、当社での新たな施策に生かしています。

楽天ソシオビジネスは2012年より独立採算制をとり、かつ通期黒字を維持できています。なぜ独立採算制を採用したのでしょうか。

特例子会社の多くは、親会社が経費として人件費を確保し、従業員に給与を支払う形をとっています。極端にいえば、何もしなくてもとりあえず利益が上がる仕組みです。でもそれでは、常に最低ラインの昇給しかありません。“障がいのある人に高いお給料は必要ない”ということはなく、実績は健常者と同じように認めてもらいたいものです。

当社は設立3年目の2010年に単月黒字を実現し、その後も黒字を継続してきました。そうした中で親会社にぶら下がっている状況が、従業員のモチベーションを下げていると感じたのです。どれだけ頑張っても報われないというムードが漂っていて、社員が元気になる仕掛けが必要でした。そこで、当時の社長に独立採算制を訴えたのです。「自分たちで稼げるように頑張るから、みんなの給料が上がるようにしてほしい」と。

その判断は結果として正解でした。従業員たちは働く喜びを覚え、自らの可能性をさらに広げる機会となったからです。事業領域も拡大し、今では社内のコンビニエンスストアやクリーニングサービスの運営に、水耕栽培の植物工場も手掛けるようになりました。植物工場は東京都大田区と静岡県磐田市の2拠点でレタスを育てていて、社員食堂などに納品しています。

最近では、社外の施設でカフェ運営を始められたそうですね。

大田区にある障がい者サポートセンターに併設された、カフェベーカリーですね。売店機能に加え、焼きたてパンの製造に飲み物の提供を行います。植物工場があるご縁で、大田区からお話をいただきました。福祉色を感じさせないカフェをつくりたいということで、コンセプト段階から入っています。

収益面はこれからですが、私はこの取り組みに大きな意味があると思っています。公立の福祉施設のなかに民間企業が入るというのは、そうそうあることではないでしょう。私たちはお金もうけをしたいわけではありません。私たちが入ることによって、障がいのある方に「自分たちもできることがあるはず」と希望を感じるきっかけが生まれたらと思っています。

今日のお話は、特例子会社以外の企業にもヒントになることがたくさんありました。

会社を経営する上で常々思っているのが、健常者と障がい者にほとんど違いはない、ということです。私は楽天ソシオビジネスを、普通の会社と変わらない企業にしたい。障がいに対する配慮は必要ですが、それ以外は健常者と区別する必要はないと考えています。

昨今、国内では労働者不足がさかんに叫ばれていますが、障がいのある人たちは、能力を引き出しさえすれば大きな戦力になります。それは、私たちのこれまでの経験からも明らかです。時間はかかるかもしれません。でも実際にやってみなければ分からないことは、たくさんあります。それは何ごとも同じですよね。

障がい者雇用も同じようにやりながら変えていけばいいし、会社やそれぞれの従業員に合ったやり方を見出していけばいい。私たちの取り組みも100%正しいとは思っていませんが、紆余曲折を経て、今の形が出来上がりました。

まずは、障がい者雇用を始めてみてください。彼らは本当に一生懸命頑張ってくれますよ。

川島 薫さん(楽天ソシオビジネス株式会社 代表取締役社長)

(取材は7月1日 東京・世田谷区の楽天クリムゾンハウスにて)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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この記事ジャンル 障がい者雇用

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