24年間リストラなし。お客様満足より社員満足
会社に大切にされている実感があってこそ、社員は力を出せる(前編)
株式会社日本レーザー 代表取締役社長
近藤 宣之さん
「働きたい」という社員の意思を尊重
では、具体的にどのように人を大切にしているのか、お聞かせください。
まず前提としてあるのは、本人の意思を尊重することです。去る者は追わないけれど、働きたいと考えている人は、ずっと雇用しつづけます。日本レーザーでは、60歳を超えたら再雇用という形で、70歳まで働き続けることができます。もう20年前からこの制度があり、現在60歳以上の社員は2割を超えています。この春に60歳を迎えた社員は43歳で両方の腎臓を失い、17年間障がい者ながら正社員として課長を務めていた社員でした。既に障がい者年金を受けていましたが、生きがいを求めて定年後の再雇用を希望し、今は1日6時間の勤務で毎日働いています。フルタイムに比べて仕事量は減りますが、彼が働いてくれることによって、どんなに今健康でバリバリ働いている人でも、一生健康のままでいられるなんて幻想だ、強者もいつかは弱者になる、と気づきます。だから、その人のぶんまでしっかり働こう、と思えるわけです。
また、政府主導で「2030年までに女性管理職比率を30%にまで上げる」と言う目標がありますが、当社は既に達成しています。結婚後に、第1子妊娠、出産で退職する比率は今でも約60%ですが、当社では、そうした社員は一人もいません。育休中も業務が滞らないように、制度として業務を二人一組で取り組む「ダブルアサインメント」と、一人が複数の業務を担当する「マルチタスク」を導入しています。この制度により、産休・育休だけでなく、突発的な休暇や事故でも業務に支障が出ないような体制が確立しているのです。
また、雇用形態にかかわらず、さまざまなベネフィットを設けています。例えばTOEICの点数により、手当が毎月付きます。以前は正社員だけの手当だったのですが、希望を聞いてパートや派遣社員、嘱託社員にも対象を広げました。TOEICの受験費用の全額補助や、ネイティブの先生による英語教室の半額負担なども行っています。英語教室は、正社員が希望するだろうと考えて始めたのですが、フタを開けてみれば受講生の半分は、パート出身者や定年後再雇用の嘱託社員でした。
仕事の振り方も、正社員だろうが嘱託だろうが変わりません。しいて違いを挙げるとするなら、株式を保有する株主社員であるかどうか、ということくらいでしょう。1日4時間のパート社員と一時的な派遣社員は出資できませんが、正社員と1日6時間以上の嘱託雇用社員は株主になれます。これまで五人のパート社員が、当初4時間勤務だったものを、6時間勤務に変更し、50万円出資して株主になりました。主婦にとっては大金ですが、それでも彼女達は、株主になることを望んだのです。
社員一人ひとりが自分の働き方を決められる、ということですね。
15年ほど前のことですが、中国人の社員が夫の転勤で、1年間上海へ行かなくてはならなくなりました。しかし、彼女が担当するドイツのサプライヤーとの取引は、彼女なくしては成り立たないもの。ですからSOHOのような形で、1年間上海にいながら、仕事をしてもらいました。受注の実績としてはあまり上がりませんでしたが、かかった費用は彼女の年収の賞与を除く300万円ほど。彼女を失うことに比べたら、安いものです。帰国してからはこれまで通り、しっかり仕事をしてくれました。「彼女がいる限りは、取引を続ける」と言われるほど、サプライヤーから信頼を得ていたのです。ただ、残念なことに彼女は去年、すい臓がんで急逝しました。
社員が辞める理由としては、嫌な人間関係やつまらない仕事、給与、不条理、えこひいき、会社のビジョンが見えない……だいたいそんなところが挙がると思います。これらをなくし、社員が働き続けられるようにするのが、社長の役割だと考えています。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。