キーパーソンが語る“人と組織”

大人の発達障害だからこそ“天職”に巡りあえた!!
働きづらさを働く喜びに変える、特性の活かし方とは(後編)

岩本 友規さん
(発達障害の「生き方」研究所‐Hライフラボ)

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岩本友規さん 発達障害の「生き方」研究所‐Hライフラボ
学生時代までは順調に過ごし、成績も優秀だった人が、社会へ出た途端、さまざまな不自由につきあたり、社会人であれば問題なくこなせる程度の仕事や生活にも支障をきたすようになってしまう。それが「大人の発達障害」です。岩本友規さんの場合は33歳で発覚。ストレスからうつ症状や双極性障害といった二次障害も発症し、障害者手帳の等級は2級――「日常生活に介助を擁する」という深刻さでした。しかし、岩本さんは信頼する主治医の治療と自らの努力で、これを大きく改善。仕事でも、現在は天職と呼べるような道を見出し、大きな成果を上げています。なぜ、別人のように変わることができたのか。その逆転プロセスは、当事者はもちろん、大人の発達障害ではない一般のビジネスパーソンの成長にも有効な方法論だといえそうです。
Profile

いわもと・ゆうき●発達障害の「生き方」研究所‐Hライフラボ(任意団体)代表。 日本LD学会正会員。発達障害学生就労支援研究会(MESA)特別顧問。中央大学法学部卒。 外資系商社、ベンチャー企業、中小企業、大企業での勤務を経験し、33歳のとき大人の発達障害が発覚。翌年グローバルカンパニーの需要データ分析・プランニング職へ転職し、所属の部署で現在まで2回の表彰を受ける。現在も勤務中。著書に、『発達障害の自分の育て方』(主婦の友社)。

天職に導いたフロー理論――障害者雇用でデータ分析の仕事へ

―― 岩本さんは現在、レノボ・ジャパン株式会社に障害者雇用枠で在籍され、需要データ分析のプロフェッショナルとして活躍されています。前職時代に「大人の発達障害」との診断を受けた後、転職を決断されるまでの経緯についてお聞かせください。

前回、ADHD(前編参照)の治療に使われる薬の処方がきっかけで発達障害が発覚した話をしましたが、幸い、私の場合はこの薬がよく効いてくれて、ADHDの症状については短期間で相当改善されたんです。それまでうっかりミスが多かったのですが、この処方薬を飲み始めてからは、自分の思考や作業を一呼吸置いて振り返ったり、客観的に見直したりする余裕が徐々に出てきました。発達障害とわかってからもハードな前職に1年ほど留まることができたのは、ミスを自分で発見できるようになったことが自信となり、「これならここでがんばれるんじゃないか」と思い直したからです。しかし、ちょうどその頃、通常業務に加えて、基幹システムの入れ替えという大きなプロジェクトも立ち上がり、負荷が急増していきました。その状況から、このままではもうもたない。もっと自分の特性に合った、負荷の低い仕事に移らないと――そう考えて、障害者雇用を真剣に検討し始めました。しかし、子どもも生まれており、障害者雇用で年収が落ちてしまうことに、妻が不安を抱いていました。にっちもさっちもいかなくなり、一時はすべてを捨てて逃げ出したいと思うほど、完全に行き詰まってしまったんです。

―― 前回、「自分が大人の発達障害だったと分かってすっきりしたし、救われた」とおっしゃいましたが、それだけで“働きづらさ”が解消され、仕事がうまくいくようになったわけではないのですね。

気持ちの持ち方や、症状に対する対策ノウハウだけで適応していくには限界があり、根本的な解決にはつながりませんでした。大人の発達障害の当事者にとっては、やはりどういう仕事を選ぶのかが重要です。ただ、「障害特性に合った仕事を」といっても、たとえば大人の発達障害の解説本などによく載っている「ADHDに向いている仕事」や「アスペルガー症候群に適性のある仕事」なんて、世間にそうそう転がっているものではありません。私も最初は発達障害当事者の適職とされる分野を考えましたが、研究者とかライターとか、いきなりそれはないなという仕事ばかりで。

そんなとき、以前から仕事に役に立ちそうな本を手当たりしだいに読みあさっていたのですが、たまたまポジティブ心理学の権威であるミハイ・チクセントミハイの「フロー」の理論を思い出して、「これだ!」と。読み返してみて、まさに目からウロコの落ちる思いでした。フローとは、時間の感覚がなくなるほど何かに深く没頭している状態を表す言葉で、人間はフローを経験したとき、結果として幸福を感じることができるといいます。時を忘れて没頭できる物事を仕事にすることで、“飽きっぽい”“先延ばしが多い”などの発達障害の症状を乗り越えて、優れたパフォーマンスを挙げられるかもしれない。しかも、「それさえあればいい」と夢中になれる幸福感が、ストレスを大きく抑えてくれるのです。

―― 仕事選びでも、自分が「フロー」の状態に入ることができる仕事を選べばいいということですね。

はい。じゃあ、自分にとってそれは何かと振り返ってみると、その頃担当していた予算関連の仕事で過去実績のデータ分析をやったとき、食事もトイレもそっちのけになるほど没頭して作業していたことを、ふと思い出したのです。「これに賭けてみよう」と独学でデータ分析を勉強し、その時点の業務にも活用しながら、データ分析を軸に据えて転職活動を進めた結果ハローワーク経由で紹介されたのが、現在勤務しているレノボ・ジャパンでした。


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