チーム作りに必要な“現場で役立つ哲学”とは
組織の力を最大限に伸ばす「原理」について考える(前編)
早稲田大学大学院 客員准教授、本質行動学アカデメイア代表
西條 剛央さん
「構造構成主義」に基づく組織行動論の意義とは
そのほかに、チームを作っていく上で重要な要素とは何でしょうか。
チーム作りに役立つ原理として“価値の原理”があります。“すべての価値は目的や関心、欲望といったものに応じて(相関して)立ち現れる”というものです。いつもは雨が降ってきたら嫌がる人も、災害でライフラインが断絶している状況では、雨水が貴重なものとして立ち現れる。価値とはどこかに転がっているものではなく、必ず特定の欲望や関心、目的といったものに相関して立ち現れるのです。
つまり、チームの目的や理念を抜きに、どういうチーム編成がよいか、どういった戦略がよいかといった議論はできないということです。「何がよいか」と問う前に、必ず「何をしたいのか」を明らかにしなければならない。だから、目的や理念、ビジョンを明確にすることが最初の最重要ポイントになるのです。
「構造構成主義」でいう「原理」とは、信じることを求めません。むしろ疑い、吟味し、検証してください、というオープンな姿勢を基本とします。“価値の原理”が、いつでもどこでも例外なく妥当する原理と言えるか、確かめてみてほしい。たとえば、お金は一見万能のようですが、関心や目的と無関係に絶対的な価値があるかどうか。たとえば、おぼれているときにお金を渡されてありがたいと思う人はいないだろうから、やはり絶対的なものではない。むしろ、一個の浮き輪が掛け替えのない価値として立ち現れるはずです。そのようにさまざまなケースを想定し、本当に例外がないかどうか、徹底的に吟味してみるのです。そして、確かにすべての価値判断は関心や目的に応じて立ち現れていると言わざるをえないと納得できたら、いつでもどこでも洞察できるツールを手に入れることができた、ということです。
批判的吟味を通して“例外なくそのように答える”と確かめられた“原理”は、経験に基づく個別論理とは異なり、いつでもどこでも普遍的に洞察できる“視点”として活用することが可能になります。さらに原理的に考える限り、そのように考えるしかないという強靭な理路に支えられているため、立場や流派や専門分野を超えて了解される深度を備えています。これが行動科学ベースの通常の組織行動にはない、「構造構成主義」に基づく組織行動論(本質行動学)の最大の意義と言ってよいでしょう。
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