楽しく働き、成長することができる
「プレイフル」な学び方・働き方とは?(前編)
同志社女子大学現代社会学部現代こども学科 教授
上田信行さん
学びのモデル~learning 1.0から4.0へ
「プレイフル」を実践していくことで、学びのあり方が変化しているということでしょうか。
近年、学び方が随分と変わってきたように思いますが、僕なりに四つの風景を描いてみました。最初は「learning 1.0(GET)」(learning through instruction)です。学校などで行う、一般的な知識の伝達による学びですが、これは企業の研修などにも当てはまると思います。ここでの学びは「instruction」を通して行います。先生役として誰か教える人が知識を発信し、その知識をゲットしていきます。受身的に何も考えないでということではなく、誰かの影響を受けたり、誰かのアイデアを得るということです。モデルはSchool(学校)です。
次が「learning 2.0(MAKE)」(learning through making together)です。協同でものをつくっていくプロセスの中での学びです。誰かに教えてもらうのではなく、仲間と一緒になって自分自身で生み出していきます。企業の研修で言えば、ワークショップ型の学びと言えます。モデルはStudio(アトリエやスタジオ)です。
そして「learning 3.0(ENTERTAIN)」(learning through love)です。これは、誰かに喜んでもらおうとする取り組み(パフォーマンス、プレゼンテーション)を通した中で、生まれる学びです。人は喜んでもらうために、いろいろな創意工夫をします。目の前にいる仲間だけで行うとそこで完結してしまうのですが、オーディアンスなど他人のためにやるとなると、また一段と学びの中身が深くなっていきます。「劇場型の学び」と言えますが、この学びは企業でも重要な概念だと思っています。なぜなら、ステージが人を育てるからです。
会議室でプレゼンテーションするのも一つのステージですが、例えばTED(Technology Entertainment Design:非営利団体によるスピーチフォーラム)のプレゼンテーションのように緊張感があって、かつ観客も強い興味・関心を持って、好意的に聴いてくれるようなステージをいかに用意できるか。「learning 3.0」には、そういう企業文化・風土が必要です。ステージが人を育て、人の可能性を拡張していくからです。つまり、「learning 3.0」はステージの持つ重要性を言っているのですが、これを僕は「ステージ拡張理論」と呼んでいます。ステージをだんだん大きくしていくのと同時に、人に用意してもらったステージから自分でつくっていくステージへと移行して行くのです。実際、僕のゼミでも学生はより大きなステージに挑戦していきます。ゼミの発表会を学内で行うだけでなく、京都、名古屋、そして東京と大きな都市で多様なオーディアンスの前で行うようにしています。しかも有料。だから、学生は必死になります。小さなステージでやっていた時と、大きなステージでやっていた時では、そのパフォーマンスのレベルが格段と違ってきます。この考え方を、そのまま企業の中に持ち込むことです。そして社内だけでなく、社外でのプレゼンテーションを用意すること。いろいろな場所でプレゼンテーションを経験することによって、人は確実に育っていきます。
従来の学びは極端に言うと、座って知識を獲得することでした。しかしこれからは、立って、動いて、表現することに変わっていくと考えています。そうした流れから、今度は「MOVE」という学びのあり方が出てきます。これが「learning 4.0(MOVE)」(learning through moving)です。この4.0のモデルは、3.0までとは少しベースとなる次元が異なってきますが、ラーナーが多様な人たちと相互交渉する学びです。現在はインターネットがあるから、家の中に閉じこもっていても何でもできると思いがちですが、これは大きな間違いです。外に出て行って、人に会うこと。とにかく、フットワークを軽くすることが大切です。
「MOVE」とは、要は動くことですね。
まずは、どんどんと動くことが大切です。なぜかというと、人とぶつかるからです。クラッシュ(衝突)して、ディスラプション(破壊)されるからです。動くことにより、いままで思っていた常識や既成概念が破壊されることになります。「そんな考え方があったのか」「そんなことがあってもいいのか」という衝突・破壊が起こります。
例えば、先進的な外資系企業を訪問して、ショックを受ける日本企業の人たちは少なくありません。極端に言うと、「会社の中が自由なこと」にショックを受けるようです。大事なのは、そういう概念にさらされることであり、そうすると、いま自分が考えている「働く」という概念を、何かしら修正しなくては気持ちが悪くなっていきます。そのために、自分のフレームワークを大きくしなくてはいけません。このプロセスが結果的に、いろいろなものが許容できるよう、自分を内面から鍛えていくことになります。
僕は、人の持っているこうした可能性(限界)は大きく鍛えられると思っています。よく、自分には可能性がないからとブレーキを掛けたり、二の足を踏んだりする人がいます。しかし、鍛えなくては可能性も広がりません。そのためにも、日ごろから自分のフレームワークを鍛えて、いろいろなことにショックを受けても、それを取り込んでいける柔軟性と勇気を持つことが必要です。ところが多くの人は、「自分には関係ない」として捨ててきました。チャンスをゴミ箱に捨てるか、自分のマインドを再構成し拡張していくかというところで、学びの量と質は大きく違ってきます。
要は、変化することが面白い、と思うことです。ただ人間は、安定するとそれを壊したくないと思う傾向があります。そのため、いまの仕事を何とかキープしようとします。そうではなく、安定したら次の段階に進んで、もう一度不安定な状況に身を置くことです。
そこでまた安定するように、自分を変化・進化させていくわけですね。
昨年、イギリスBBC放送局のプロデューサーから「今はMラーニングに注目している」と聞きました。曰く、「まず学びにはB(Broadcast)ラーニングがある」と言います。放送を通じて知識を伝達するわけですから、「ラーニング1.0」と同じ概念です。そして、今は、インターネットによるインターラクティブな「e(electric)ラーニング」が普及していて、その次に来るのが「Mラーニング」だと言うんです。「Mラーニング」と言うと、普通はモバイル機器を使って、いつでもどこででも勉強できるということを想定するのですが、そうではなくて、人間が動く(MOVE)ラーニングの重要性を彼は言っていました。
モバイル機器と人間は、いまや一体となっています。スマートフォンやタブレット端末なしに生活している人はあまりいないでしょう。言葉の意味や待ち合わせ場所への経路を探すのに、多くの人はモバイル機器を使って調べます。しかし昔は、出張先で原稿を書こうと思うと、多くの本や資料を持っていかなくてはなりませんでした。それがいまではインターネットがありますから、どこでも原稿が書けます。そういう状況の中にあるからこそ、自分からどんどん動いていって、クラッシュして脳内地震(brainquake)を起こすことが求められています。なぜ動くことが大切なのかと言うと、自分の頭の中で既成概念と新しい概念がぶつかって脳内地震を起こすことにより、新たな考えやアイデアが浮かんでくるからです。
そういう意味からも、僕は「世界をロックしよう」と言っています。僕はロックという言葉がとても好きなのですが、本来この言葉は「揺り動かす」という意味です。昔のイメージで言うと、体制に反発するみたいな感じがありますが、ロックとは「だれも聴いたことのない音楽をつくって、観客を驚かす精神」であると思っています。新しい音楽を観客にぶつけ、世界を変えていこうという強い想い。だからこそ、ロックミュージシャンは皆「ロックしたい」のです。そして、世界を揺り動かしたいのです。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。