職場のメンタルヘルス最前線 増加する“新型うつ病社員”への対処法
オフィスプリズム/臨床心理士・社会保険労務士
涌井美和子
5.対応のポイントと留意点
(1) 安全配慮義務の観点からも、主治医の指示を尊重する
休職中なのに自分の好きな活動を続けている姿を見ると、ただのわがままのように思えてくるかもしれませんが、主治医の指示に反して出社させ、万一症状が悪化することにでもなれば、安全配慮義務の観点からも問題が生じる可能性があるでしょう。主治医の診断に納得がいかない場合は、産業医や臨床の専門家などにも協力を仰いで対処法を検討するとよいでしょう。
(2) 本人をよく理解しようと努める
感情的に不安定になりやすかったり、些細な言葉に過敏に反応することも少なくありませんので、充分な配慮が必要です。特に、「うつ病の対応法」などのマニュアルに沿った対応は本人を深く傷つけ、かえって問題をこじらせる原因にもなりかねません。たとえ未熟で自己中心的でも、彼ら彼女らなりの思いや傷つきに気付くことで、次の対応法が見えてくることも多いでしょう。
(3) 時には背中を押してあげたり、育てる関わりも必要
うつ病の人に「頑張れ」という言葉は極力控える必要はありますが、主治医が「そろそろ復職しては?」と助言しているにもかかわらず、ズルズルと休むような場合など、時には「頑張れ」と背中を押してあげることが必要なときもあります。特に、精神的な幼さから余計なストレスを抱え込み不適応に陥ったようなケースの場合は、育てる関わりが功を奏することも多いでしょう。そのためにも、ベースとなる信頼関係は必須です。日頃から(2)で挙げたような対応を心がけるとよいでしょう。
(4) 本人が1人で仕事を抱え込みすぎないよう目を配る
自分の好きな仕事に対しては、能力の限界を考えず仕事を抱え込み、結局パンクしてしまうケースもあるでしょう。本人のプライドを刺激しないよう、能力の問題にせず会社の都合を理由にするなど、上手に調整するとよいでしょう。
(5) 本人への伝え方を工夫する
「いまの状態だと、みんなに迷惑をかけるから休んでみては?」「お世話になっている○○さんのためにも、そろそろ復職しては?」などの言葉は本人を傷つけ、怒りの反応を引き起こしかねません。むしろ、「2ヵ月の休職なら全額手当が支給されるから早めに休んで早く回復したほうがいい」「いま復職しておけば、ボーナスの査定にも影響がない」などのように、客観的な意見として話したほうがスムーズにいくことも多いようです。
(6) 人事労務管理の枠組みで対応する
遅刻や欠勤、業務遂行能力の低下など問題行動や不適応状態については、あくまでも人事労務管理の枠組みで対応しましょう。メンタルヘルスの問題だからと腫れ物にさわるような対応をしたり、特例を認めるのではなく、下記のような点に留意して対応するとよいでしょう。
【 対応時の留意点 】
- 遅刻や欠勤が繰り返されるようであれば、社内規定に則して休職を命じる(そのための根拠をあらかじめ就業規則にきちんと定めておく)。
- 同一の疾病により休職と復職を繰り返す場合は、前後の休職期間を通算するなど、会社側の限界を明確にする(そのための根拠として、就業規則にきちんと定めておく必要があるのは、上記の通り)。
- 人事異動や担当職務の変更については、本人の希望だけを鵜呑みにせず、主治医の意見や現場の状況などを総合的に判断して決定する。
なお、うつ病で休職中であるにもかかわらず海外旅行等をした場合でも、通院中であり症状に波があるのも事実なのですから、そのことを理由に解雇することはできません。詐病である場合はこの限りではないかもしれませんが、このあたりの判断は非常に難しいこともありますから、主治医の判断を尊重するようにしましょう。
(7) その他の配慮・留意点について
主治医の判断や職場の状況にもよりますが、覚醒リズムが崩れるケースも少なくありませんので、復職時に短時間勤務からスタートさせる場合は、定時に出社させ早めに帰宅させるようなプログラムのほうが、再発防止にも有効でしょう。不安症状を伴うケースの場合は特に、不安症状やうつ症状を引き起こしやすいので、コーヒーなどカフェインの多量摂取は控えさせるとよいでしょう。人間関係や周囲の言葉に過敏に反応して、攻撃的になる場合があっても、病気の症状がそのようにさせていることも少なくありませんので、怒ったりせず落ち着いて対応しましょう。
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。