女性とリスキリング~男性より大幅に遅れ、過去の経験不足の影響も~
株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任
坊 美生子氏

長寿化によって、女性にとっても、ミドル期以降にリスキリングして職場への貢献度を高め、安定した給料を得たり、キャリアチェンジして長く働き続けたりすることは、ますます重要となるだろう。ところが、現在の中高年女性は、過去の職務範囲が狭い傾向があり、リスキリングに対しても影響を与えている可能性がある。
厚生労働省の「令和6年度 能力開発基本調査」をみると、2023年度にOff-JTを受講した労働者は男性が43.2%、女性が28.8%と、女性の方が10ポイント以上、低い。「正社員」同士で比べても、男性が47.7%、女性が39.1%と差がある。個人が自発的に行う「学び直し」も、女性は男性よりも低い。
これらの要因について、同調査と先行研究を基に考察すると、(1)雇用形態、(2)役職、(3)職業・職務、(4)個人の意識――に関する男女差が関連していると考えられる。すなわち、企業のリスキリング実施率に男女差がある理由としては、女性の方が非正規雇用が多いため、Off-JTの対象にならない人が多いこと、管理職が少ないために、マネージメントに関する研修を受講する人が少ないこと、女性に多い事務やサービスの仕事では、そもそも企業のリスキリング実施率が低いことが挙げられる。そのほか、女性自身が、リスキリングの機会があっても積極的に参加しない理由として、職務経験が浅いために、自身のスキルが通用しなくなっていることへの気づき、「限界認知」を得る機会が少ないことが挙げられる。
今後は、企業はリスキリングの実施状況に男女差がある実態を理解し、男女ともに幅広くその機会を提供し、人材として活用していくことが期待される。女性自身も、長く働き続けて安定した報酬を得るためには、いつかはリスキリングが必要になることを認識し、勇気を出して、これまでとは違う仕事にチャレンジしてほしい。
1――はじめに
リスキリングについては、「経営環境の変化によって、新たなスキルを持つ人材が必要になる」というように、企業側の事情から、重要性が語られることが多い。一方で、働く人側から見ても、一つの職場で雇用されていても、30年も40年も同じ仕事を続けて給与水準を維持することは難しい。また、長寿化によって就業期間が延びているため、定年退職や役職定年を機に、これまでとは違う仕事に就く場合も出てくる。したがって、働く人自身も、勤務先の事業内容や役割の変化に応じて、あるいは労働市場の需要に合わせて、必要とされるスキルや知識を獲得していくことが必要になる。
日本では長らく、「仕事は男性、家庭は女性」という男女役割分業が続いてきたため、中・高年期の給与水準も就業率も、男性の方が女性より高い。しかし、女性の方が長寿であるため、老後シングルとなる可能性も高く、女性にとっても、ミドル期以降にリスキリングして職場への貢献度を高め、安定した給料を得たり、あるいはキャリアチェンジして長く働き続けたりすることは、ますます重要となるだろう。ただし、筆者がこれまでに述べてきたように、現在の中高年世代の女性は、過去の職務範囲が狭い傾向があり、このことが、現在のリスキリング状況にも影響を与えている可能性がある。そこで本稿では、リスキリングの男女差についてまとめ、女性にとってのリスキリングの課題について考えたい。
なお、「リスキリング」は本来、企業主導で従業員に新たなスキル獲得を推進するものだと考えているが、それとは別に、働く人自身が、長い人生の途中でキャリアチェンジを目指し、自ら新たな知識や技術を習得する「学び直し」も重要だと筆者は考えているため、本稿では、リスキリングと学び直しの双方を、考察の対象とする。
また筆者自身は、獲得対象となる「新たなスキル」の中には、近年注目されているデジタルスキルだけではなく、社会的に必須である、介護職などエッセンシャルワーカーのスキルも含まれると考えている点を付け加えておきたい。
2――リスキリングと学び直しの現状
1|男女別にみたリスキリングの実施状況
まず、現状における性別のリスキリングの実施状況を概観する。厚生労働省の「令和6年度 能力開発基本調査」(個人調査)によると、2023年度、企業によるOff-JT(業務命令に基づき、通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練)を受講した労働者の割合は、全体では、男性が43.2%に対して女性が28.8%であり、女性の方が10ポイント以上、低かった。
性・雇用形態別にみると、「正社員」では男性が47.7%、女性が39.1%、「正社員以外」でも男性が25.3%、女性が15.4%。男女ともに、「正社員以外」の方が「正社員」より低く、同じ雇用形態同士で比べても、いずれも女性の方が男性より低かった(図表1)。
2|具体的なリスキリングの内容
次に、同調査の事業所調査より、企業が2023年度に行ったOff-JTの具体的内容を尋ねると、全体では「新規採用者など初任層を対象とする研修」が最大の75.4%だった。次いで「新たに中堅社員となった者を対象とする研修」が47.5%、「マネジメント(管理・監督能力を高める内容など)」が46.6%、「新たに管理職となった者を対象とする研修」が44.2%などと続いた。採用や管理職登用など、階層のステップアップに伴って、研修を行う企業が多いことが分かった。
3|男女別にみた学び直しの状況
次に、個人が自発的に行う「学び直し」の実施状況について性別で比較する。同じ調査で、自己啓発を行った個人の割合は、男性が41.9%、女性が30.7%であり、やはり女性の方が男性よりも10ポイント以上低かった。雇用形態ごとに男女を比べたデータがないため、男女合わせた全体の値を雇用形態別にみると、「正社員」では45.3%、「正社員以外」では15.8%と、正社員以外の方が低い。女性は非正規雇用で働く割合が男性よりも大きいことが、自己啓発の実施割合が低い大きな要因だと考えられる。
4|男女別にみた学び直しに関する課題認識
次に、同調査より、個人が「自己啓発を行う上での問題点」を男女別にみると、「仕事が忙しくて自己啓発を行う余裕がない」が男女ともにトップだが、その割合は男性が57.0%に対して女性が43.2%と10ポイント以上の差がある。一方、「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」は男性が19.1%対して女性が38.7%に上っている。
そのほかに注目すべき点としては、「自分の目指すべきキャリアが分からない」という回答が、男性が16.9%に対して女性が25.1%と高く、女性の4人に1人が進むべきキャリアを判断できていないことが分かった。
3――女性のリスキリング率の低さの原因に関する考察
1|雇用形態の男女差
ここからは、女性のリスキリングと学び直しの実施割合が男性よりも低いことについて、考えられる要因を、統計データと先行研究を基に考えたい。一つ目は、2の繰り返しになるが、女性の方が非正規雇用で働く割合が大きいことである。総務省「労働力調査」(2024年)によると、雇用者のうち非正規雇用で働く人の割合は、男性が24.0%に対して女性は64.3%と高い。リスキリングも学び直しも、正社員よりも非正社員の方が、実施率が低いため、結果的に実施状況に差が開いていると考えられる。
これは、企業は正社員に対しては、無期雇用を前提としているため、スキルを向上させ、必要に応じて配置換えを行い、組織に貢献してもらうことを前提にマネジメントを行っているが、非正規雇用の従業員に対しては、臨時的・短期的、または補助的な仕事をしてもらうために雇っていることが多いため、新たなスキルを持つ人材が必要になったときには、非正規雇用の労働者をリスキリングするよりも、別途、そのスキルを持つ人材を雇い入れようと想定しているからだと考えられる。
2|役職の男女差
しかし、2で見たように、正社員同士を比べても、女性の方が男性よりもリスキリングの実施割合が小さい点は注意すべきだろう。
そこで、正社員同士であってもリスキリング実施率に差が生じる理由として、考えられることを挙げると、まず役職の違いがある。
上述の能力開発基本調査に戻ると、役職によって、リスキリング実施率に差がみられる。「役職は特になし」のうちOff-JTを受講したのは30.2%であるのに比べて、「係長、主任、課長相当職」、「課長相当職」、「部長相当職」はいずれも50%前後となっており、役職者の方が、受講率が高い。
実際に図表2を見ても、具体的なOff-JTの内容には、管理職の新規登用者に向けた研修や、在任中の管理職に対するマネジメント研修の実施率が3~4割を占めており、役職が上がることが、管理業務等のOff-JTを受講する機会となっていることが分かる。
これに対して、厚生労働省の「令和6年賃金構造統計調査」を用いて試算すると、雇用期間の定めがない労働者のうち、係長級を含む役職者の割合は、男性が31.5%に対して、女性が13.7%にとどまっているため、結果的に、女性がOff-JTを受ける機会が少ないと考えられる。
3|職業・職務の男女差
雇用形態と役職だけではなく、職業や職務の男女差も、リスキリング実施率に男女差を生じる要因の一つになっていると考えられる。能力開発基本調査によると、Off-JTの受講割合は、担当する業務によっても差がある(図表5)。全体では、Off-JTを「受講した」と回答した人の割合は37.0%だが、「管理的な仕事」の人だと52.5%と過半数を超えている。また「保安の仕事」(47.0%)、「専門的・技術的な仕事」(45.3%)、「生産工程の仕事」(40.0%)でも平均を上回っている。
専門職や技術職、生産工程の仕事などでは、ハイレベルの知識を習得したり、新たな技術を取り入れたりしていくことが必要であり、企業側が研修を提供する機会が多いためだと考えられる。しかし、これらの管理的な仕事や、生産工程の仕事に就いている労働者数は、男性よりも女性の方が少ない。総務省の「労働力調査」(2024年)によると、職業が「管理的職業従事者」の人は男性が104万人に対して女性が20万人、「生産工程従事者」は男性が604万人に対して女性が260万人となっている。
なお、女性の職業トップ3は「事務従事者」(861万人)、「専門的・技術的職業従事者」(636万人)、「サービス職業従事者」(575万人)であるが、このうち事務やサービスの仕事では、リスキリングの実施率が平均を下回っている(図表5)。
4|キャリア再構築に対する意識の男女差
1から3までに挙げた点は、職場が女性に対するリスキリングの提供機会が少ない企業側の論点だが、四つ目に挙げるのは、個人側の論点である。すなわち、キャリア再構築に対する意識に関しては、女性の方が男性よりも低いため、仮に企業が機会を提供しても、女性の受講が少ない、というような問題である。
リスキリングの男女差に着目した先行研究は少ないが(そもそも、女性のリスキリングに関する研究自体が少ないのだが)、パーソル総合研究所の小林祐児氏は、男女別に分析を行っている。
リスキリングの具体的な順序として、新しいスキルを取り入れる心理的土壌を作るために、働く人自身が、手慣れている過去のやり方を意識的に棄却すること、すなわち「アンラーニング」が重要だと言われているが、小林氏の調査によると、このアンラーニングの経験が、女性、特に中高年女性は低いという(図表6)。
そして、このアンラーニングの多い・少ないを左右するものは、本人が「これまでの仕事のやり方を続けても、成果や影響力発揮につながらない」と感じる「限界認知」だと小林氏は指摘している1。小林氏によると、このような限界認知を得る機会となるのが、いわゆる業務上の「修羅場経験」、未経験の領域や職場で仕事するなど、アウェーの環境を経験する「越境的業務」、「新規企画・新規提案の業務」の三つと整理した上で、中高年女性はこれらの経験が低いことを指摘している。
中高年女性の職務範囲が狭く、経験値が比較的小さい傾向があることについては、筆者もたびたび指摘してきた2。そして、筆者らの研究では、職場で様々な経験がある女性の方が、管理職希望が強いなど、過去の職務経験とキャリアアップへの意欲は関連していることを指摘してきた3。
しかし、小林氏の研究は、過去の職務経験不足は、単にキャリアアップへの意欲を阻害するだけではなく、自身の能力の限界に対する「気付き」を得る機会を逸失することによって、ミドル期以降に職場で新たな職務に挑戦したり、定年後にキャリアチェンジしたりすることへの障害になる可能性があることを示唆している。
現在の中高年女性の職務経験の範囲が狭いことについては、職場の男女差別が大きかった時代に、企業が女性に対する育成を後回しにしたためであり、過去の問題だと捉えている方もいるかもしれない。しかしながら、過去の経験不足により、現在に至るまで、社会の変化や、経営環境の変化を感知する力が磨かれず、「古い仕事の仕方を続けていても、役に立たなくなる」という危機感、切迫感を覚えられない、ということが考えられる。
図表3でみたように、「自分の目指すべきキャリアが分からない」と考えている女性が男性より多いという事実も、これまでの女性の経験不足と関連があるのではないだろうか。
1 小林祐児(2023)『リスキリングは経営課題 日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社新書)
2 坊美生子(2024)「『中高年正社員』に着目したキャリア支援~『子育て支援』の対象でもなく、『管理職候補』でもない女性たち~」(基礎研レポート)
3 一般社団法人定年後研究所・ニッセイ基礎研究所(2023)「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~「一般職」に焦点をあてて~」
4――おわりに
はじめに述べたように、日本人女性は男性よりも長寿であり、2人のうち1人は90歳まで生きている。高齢期までゆとりを持った暮らしをするため、または健康を保つために、できるだけ長く働き、収入を得たいと考えている女性は多いだろう。長く働いて、しっかりと成果を出し、報酬を得るためには、社会や勤務先が求める知識やスキルを身に着けていく必要がある。
しかし現状では、女性は企業主導のリスキリングも、個人による主体的な学び直しも、男性に比べて大きく遅れていることが、明白になった。この要因には、男女の雇用形態や役職、職務の違いが関連していると考えられるほか、過去の職務経験の違いが、現在における意識の差を生んでいる可能性があると述べてきた。
このような状況を改善するためには、まずは企業側が、リスキリングの実施状況に男女差がある事実を受け止めて、今後は、男性にも女性にもリスキリングの機会を広く提供し、人材として活用していく姿勢をもってほしい。現時点で女性の参加意欲が低い場合には、安易にリスキリングの対象から外すのではなく、本人の「限界認知」に代わるような動機付けをして、これまでの経験不足を補うように、丁寧な教育を行ってほしい。リスキリング後に、新しいスキルを活かした職務に配置換えをする際にも、成果を出させるために、女性たちの実践不足をフォローしたり、不安解消に取り組んだりすることが必要になるだろう。
女性自身もまた、長く働き続けて安定した報酬を得るためには、いつかはリスキリングが必要になることを認識し、勇気を出して、これまでとは違う仕事にチャレンジしてほしい。現時点では、職場での業務が忙しく、必要性を感じていない女性も、役職定年などに到達すると、突然、これまでの役割や職務を失う場合もある。またライフステージが上がり、シニアになれば、就ける職業や職務が変わるため、職業訓練が必要になる場合もあるだろう。
図表3でみたように、今は家庭の事情で時間がないという女性も多いと思うが、時期が変われば、突然、自分の時間が増える日はやって来るかもしれない。リスキリングや学び直しを無関係のことと思わずに、女性自身の職業生活を充実させるために、視野に収めておいてほしい。
※本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
ニッセイ基礎研究所は、年金・介護等の社会保障、ヘルスケア、ジェロントロジー、国内外の経済・金融問題等を、中立公正な立場で基礎的かつ問題解決型の調査・研究を実施しているシンクタンクです。現在をとりまく問題を解明し、未来のあるべき姿を探求しています。
https://www.nli-research.co.jp/?site=nli

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