日本の「離職理由」はどう変化したのか― データから見る新しいリテンション・マネジメント
パーソル総合研究所 主席研究員 執行役員 シンクタンク本部長
小林 祐児氏

若者論は、いつの時代も大人たちの恰好の話のタネだ。今もZ世代を巡って、「やわになった」「おとなしくなった」「真面目になった」「怒るとすぐやめる」といった感覚的な議論がそこかしこから聞こえてくる。
その一方で、「若者を一律に扱うな」といった「若者論批判」も、定番の言説だ。若者側からも大人からも、いつの時代も変わらず存在する。
実際には、社会が変化すると同時に、人々の行動と意識も地殻変動のように常に変化し続けている。大事なのは「ステレオタイプな若者論」と「若者論へのステレオタイプな批判」という不毛なポジション・トークを繰り返すことではない。そうした変化を客観的に測定し、議論することである。
パーソル総合研究所が実施した「離職の変化と退職代行に関する定量調査」やマクロデータの分析から明らかになったのは、昨今、若者の離職者は特に増えていないが、その“辞める理由”は静かに入れ替わってきているという事実である。本コラムではそうしたデータを紹介するとともに、早期離職に対してリテンション・マネジメント(定着施策)として何ができるかを議論したい。
若者は辞めやすくなっていない
まずは離職率のロングトレンドを確認しよう。厚生労働省「雇用動向調査」によれば、全体の離職率は、長期的にはほぼ横ばいから微減傾向である。近年は5‐29人規模の零細企業の離職率がやや高まっている様子も見られるが、全体としては急に人が辞めやすくなったこともなく、おおむね雇用は安定して推移しているといえるだろう。
ではもう少し解像度を上げて、離職の中でも企業を悩ませる「早期離職」の状況について確認しておく。いつの時代も大卒の早期離職は「3年3割」とよくいわれるが、もう少し細かく見ると時代によって浮き沈みがあるのが分かる。
まず指摘できるのは、不況期の少し後には、若年失業率と合わせて早期離職率も上がることだ。これは不況期には若者が就職できる企業規模が全体的に小さくなると同時に、希望しない企業や業種に就職せざるを得ないというアンマッチが多くなるためだ。
また、全体的に高卒の離職率と大卒の離職率が大きく接近してきているのも分かる。この背景には、人材不足と高卒就業者の減少に合わせて、高卒が入社する会社の規模が大きくなってきたことが大きい。そして早期離職率の高いサービス業全般への高卒入職が減少した一方で、大卒者が離職率の高い医療・福祉業へ入職する者が増えたこともある。
例えば平成18年から令和5年までの18年で、医療、福祉業に行く大卒者は約2万4000人増えた一方、高卒入職者は小売・卸売・宿泊・医療、福祉で1万8000人ほど減少している。
より近年、コロナ禍以降の動向に注目すると、特に大きな浮き沈みの無い緩やかな波形となっている。令和3年ごろなどもそうだったが、早期離職率が少し上向いただけでメディアと識者はこぞって取り上げる傾向にあるが、すでに落ち着く傾向を見せている。複雑化するのでグラフにはしていないが、令和5年以降は入社1-2年目までの離職率が大卒・高卒ともに低下しており、「若者が辞めやすくなった」というのはまったく当たらない。これまでのパターンを繰り返すように、コロナ禍からの経済回復期とともにまた辞めにくくなっていっている。
これが、「今どきの若者はすぐ辞める」という風説に反して見えるのは、大企業ではやや人が辞めやすくなってきているからである。企業規模別に見ると大企業と中小企業との離職率のギャップが確かに無くなっている。しかし、全体がそれを持って「今どきの若者はすぐ辞める」と言うのは、典型的な大企業中心の視点である。
離職につながる「不満」が変わってきている
しかし変わってきたものは確実にある。それは離職の「中身」である。
パーソル総合研究所「離職の変化と退職代行に関する定量調査」のデータを用いてコロナ禍前の2019年と2025年のデータを比較すると、離職者の不満は大きく様変わりしている。「働き方改革による離職リスクの低下を、別の要因が打ち消してしまっている」ということが見えてきたのだ。
基本属性を合わせて2019年と2025年の離職者の不満を比較すると、「サービス残業が多い」「育成・教育が不十分」「労働時間が長い」といった労働負荷への不満は大きく減少した(図表3右側)。働き方改革の浸透や残業規制の強化は、確実に離職を抑えるための一定の効果をもたらしているのである。
その一方で、「求められる成果が重すぎる」「受けている評価に納得できない」といった成果・評価にまつわる不満が上昇している(図表3左側)ことがポイントだ。
もう少し細かく、働き続けている人との差分を分析し、「離職につながりやすい不満」を特定し、その変化をまとめると図表4のようになる。
2025年に上昇したのは、「上司の指示や考えに納得できない」「求められる成果が重すぎる」「評価への納得感がない」が上位に上がり、「サービス残業が多い」「労働時間が長い」は8位以下に順位を下げている。離職につながりやすい不満は、いまや就業負荷ではなく、「納得感の欠如」へと重心を移している。
若手で進む「脱・成果主義」
この変化の背景には、仕事観・キャリア観そのもののシフトがある。パーソル総合研究所の「働く10,000人の就業・成長定点調査」によれば、仕事を通じた成長を重要視しない層が2019年から2025年の6年で大きく増加し、管理職になりたい意思も減少した。キャリアの「上昇志向」全体は確実に縮んできている。
さらに、先ほどの傾向と符号するように、「仕事の成果で評価してほしい」という志向性そのものが急速に低下している。特に20代・30代での落ち込みは大きく、他の価値観の変化と比較しても群を抜いて大きい。若い世代の中心軸は、もはや「成果」や「成長」に置かれなくなっているのだ。
上司は「成長」をサポートできなくなっている
当然のことながら、職場で変化していくのは若者だけではない。同時期、上司のマネジメントがどう変化したのかも見る必要がある。データを比較してみると2019年から2025年の6年間で減少していたのは、「責任のある役割を任せてもらっている」「十分なフォローがある」「スキルや能力が身につくような仕事を任されている」といった行動だった。
まさにこれらは、部下の成長重視度とプラスの関連があるマネジメント行動そのものである。つまり、成長志向の低下に合わせるかのように、マネジメントの側も「育成志向」を低下させている傾向がみられたのだ。
「成果圧力」とのギャップが生まれやすくなっている
ここまでの議論を一枚の図にまとめよう。
今若年層の間では、静かに「成長願望の冷え込み」が進行している。昇進の魅力が薄れ、上司の育成力も低下し、人材不足の進行で賃金上昇と働き方改革が進む。結果として、若手従業員は「それほど頑張らなくてもそこそこ生活できる」という状態に移行しつつある。
そして、上司側も若年層の成長願望を押し上げるようなマネジメントから撤退し始めている。筆者の研修講師などでの経験からも、「今どきの若い子を怒ってもしょうがない」「忙しくてそれどころではない」「ハラスメントを回避したい」と言いながら、思い切って仕事を任せるのではなく、自分で巻き取り続ける上司は増え続けている。これは、端的に言えば現場での成長マネジメントの「劣化」である。
他方、会社組織が求める成果水準は低下している様子はない。むしろ経営トレンドを見渡せば、株主からの短期成果を求める志向性は、より強くなっている様子も目立つ。
こうした「従業員の成長願望の低下」と「組織から求められる成果」のズレこそが、社員にとっての「成果プレッシャー」として作用し、離職リスクを押し上げる要因となっているのである。
一方で、労働時間の減少と若年層を中心とした賃金の上昇は、全体の離職リスクを下げる方向に寄与している。逆に言えば、成長を後押しし、この「成果圧力のギャップ」を縮める仕組みさえ実現できれば、組織は離職を抑え、健全な成長循環を取り戻すことが可能となるはずだ。
令和のリテンション・マネジメント――離職の「質」が変わった時代の処方箋
離職の量は変わらず、質が変化した今、リテンション・マネジメント(定着施策)として求められるのは従来型の「働き方改革」の延長線上にはない。長時間労働や低処遇といった課題は一定改善に向かいつつある。次に必要なのは、成果主義のほころびと、納得感の断絶を埋めるための新しいリテンション・マネジメントである。以下に、実証データの示唆に照らした4つの処方箋を整理する。
1. マネジメント成長志向を「復権」させること
まず、若年層を中心に仕事を通じた成長志向が低下していると合わせて、管理職の成長マネジメントが劣化していることを改善する必要がある。こうした潮流が放置されれば、組織の現場力そのものが痩せ細っていきかねない。
仕事を巻き取るだけになってしまっているマネジメント層に向けて、「部下の成長」を後押しするようなマインドセットの切り替えを促すことが今こそ必要だろう。それには、評価制度の透明化、学習機会の見える化、挑戦への後押しなどを、諦めることなく志向していく上司層がいかなくては、組織の未来はない。
2. 育成の核心である「任せ方」をアップデートすること
その成長マネジメントの中でも特に重要なのが「任せ方」である。短期成果を追うことに気がとられ、部下にいつまでも自分の仕事を渡さない上司が増えてきている。部下側から「どんどんやらせてください」というタイプが減ってきている限り、上司側の負荷はいつまでも減らない。
任せ方そのものはマネジメントのスキルであり、学習できるものだ。筆者もマネジメント層向けの研修講師で強調して伝えているのは、いかに期待し、任せ、「順調に部下に追い抜かれるか」という点である。
3. 上司だけに依存せず、人の「網」の中で育てる
一方で、拙著『罰ゲーム化する管理職』で提議してきたように、上司層の負荷は近年上がり続けている。育成、評価、キャリア相談、メンタルケア、モチベーション管理まで現場上司だけにカバーさせれば、マネジメントの質が安定するはずがない。
そこで、隣のチームの先輩、別部署の専門家、ラーニング・コミュニティ(他者との協働的な学び)、社内メンターなど、ゆるやかに張られた複数のネットワークを作るべきだ。そうした人の網の中で、人は安定して働き続けられる。相談先がいくつかあることは、人間関係の閉鎖性にも風穴を開けることにもなる。これが離職防止の最も効果的な処方箋のひとつだと筆者は考えている。
実際、図表8に示したように、離職リスクを上げる要因を多変量解析すると、仕事のプロセスよりも、最終的な結果が重視されるなどの「成果主義・競争的風土」が離職意向を高めている一方で、職場での「相談ネットワークの多さ」、「チームワークの良さ」は離職意向を有意に下げている。この時代に必要なのは、「人の網」の中で人を育てる発想であり、その仕組み化だ。
4. 「教わり方」を教える
最後に、離職理由の変化は、企業側だけの問題ではない。成果主義が嫌われ、成長志向が減退している背景には、「どう学べばよいか」がわからない若年層の戸惑いもあるはずだ。教えることに加えて、「教わり方」を明示的に教える必要がある。
- 何を質問し、何を自分で考えればいいのか
- 周囲にはどのようにフィードバックを求めていけばよいのか
- どう人と出会い、ネットワークをどのように広げていけばいいのか
こうした新人側の活動(プロアクティブ行動)は、本来OJTの中で自然に獲得されていたかもしれない。しかし、先ほどのような成長志向の低下と成果プレッシャーの高まりにより、その自然な伝承はあまり期待できなくなってしまった。
企業が行っている新人研修に目を移せば、「ビジネスマナー」「コンプライアンス」「各事業部紹介」「職場見学」など、定番化し形骸化してしまっている内容が目に付く。配属前研修には多くの部署の思惑が交錯する中で、「現場で必要だからこの内容を教えてほしい」「ビジョン教育はしてほしい」などと、いつの間にか情報詰込み型になってしまうのもよくある姿だ。
そうした形式的な教育を見直し、特に現場に入る前に、「現場での教わり方」の教育を行いたい。それは、若手の自律性を高め、過剰な不安を軽減し、成長意欲を改めて喚起する効果があるだろう。それとともに、多忙を極める配属後のメンターや上司にとっても、新人が「何を教わって職場に来たか」を可視化することで、大きなサポートとなるはずだ。
まとめ
若者の離職率は大きく変わっていないのに、Z世代に対して「やめやすい」「軟弱になった」などと指摘される背景には、離職の「質」が変わってきていることがある。長時間労働やサービス残業といった昔ながらの要素は後退しつつ、「成果が重い」「評価に納得できない」といった「成果圧力とのギャップ」が離職リスクになりやすい時代になった。それは上の世代から見れば、「打たれ弱い若者」というレッテル貼りにつながっていそうだ。
しかし、地殻変動のように動いてきたビジネス環境のせいであって当事者の若者のせいではない。現場上司という若者に「教える側」もまた、成長志向を引き上げるような余裕をなくし、短期成果だけを追い続けるようになってしまっている。
離職の構造が「負荷」から「納得」へと移った今、必要なのは制度の見直しではなく、「育て方」の見直しだ。成果への期待と成長志向の低下が混ざり合う時代において、職場の関係性の質こそが、離職を左右する最大の変数となる。成長志向の復権、任せ方の再学習、人の網による育成、教わり方の教育――これらはすべて「つながりの質」を高めて定着を導く、これからのリテンション・マネジメントである。
【関連調査】
「離職の変化と退職代行に関する定量調査」
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、社員研修などを行っています。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしています。
https://rc.persol-group.co.jp/

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