労使および専門家の計439人に聞く
2023年賃上げの見通し
~定昇込みで2.75%と予測、25年ぶりの高水準となる~
労務行政研究所
民間調査機関の労務行政研究所(理事長:猪股 宏)では、1974年から毎年、来る賃金交渉の動向を把握するための参考資料として、労・使の当事者および労働経済分野の専門家を対象に、「賃上げ等に関するアンケート」を実施しています。
このほど、2023年の調査結果がまとまりましたので紹介いたします。
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2023年の賃上げ見通し(東証プライム上場クラス)
全回答者439人の平均で「8590円・2.75%」(定期昇給分を含む)となった。賃上げ率は1998年以来25年ぶりの高水準となる予測である。労使別に見た平均値は、労働側8532円・2.74%、経営側8601円・2.75%で、経営側が労働側をわずかに上回っている。 -
自社における2023年定昇・ベアの実施
23年の定期昇給(定昇)については、労使とも「実施すべき」「実施する予定」が約9割と大半を占める。ベースアップ(ベア)について、労働側は「実施すべき」が87.4%で最も多く、経営側では「実施する予定」が41.6%で、「実施しない予定」の21.8%を大きく上回る。
1.2023年の賃上げ見通し(東証プライム上場クラス)
- 賃上げ額・率は東証プライム上場クラスの一般的な水準を目安に回答いただいたもので、定期昇給込みのものである
- 賃上げ額・率を回答する際の目安として、調査票上に以下のデータを示している
- 厚生労働省調査による主要企業の22年賃上げ実績は6898円・2.20%
- 上記から推測される大企業の賃上げ前ベースは31万3728円程度
- 定期昇給のみの場合は1.8%(5650円)程度
額・率の見通し [図表1]
23年の賃上げ見通しは、全回答者の平均で8590円・2.75%となった[図表1]。厚生労働省調査における主要企業の22年賃上げ実績(6898円・2.20%)から、1692円・0.55ポイントのプラスとなり、98年(2.66%、厚生労働省調査)以来25年ぶりの高水準となる予測である(1ページの<調査結果のポイント>参照)。
賃上げ率の分布を見ると、労使とも「3.0~3.1%」が最も多く(労働側22.7%、経営側23.8%)、「2.0~2.1%」が続いている(労働側17.2%、経営側22.8%)。
労使別の額・率の平均は、労働側が8532円・2.74%、経営側が8601円・2.75%となっており、経営側が労働側をわずかに上回っている。
2.自社における2023年定昇・ベアの実施
定昇の実施 [図表2]
労働側と経営側の回答者に対し、自社における賃金制度上の定期昇給(定昇。賃金カーブ維持分を含む)およびベースアップ(ベア。賃金改善分を含む)の実施意向・検討状況を尋ねた[図表2]。なお、労働側・経営側の回答者は、それぞれ異なる企業に属しているケースが多い点に留意いただきたい。
定昇については、労働側で89.5%が「実施すべき」、経営側で93.1%が「実施する予定」と回答し、労使とも大半が実施に前向きな意向を示している。
ベアの実施 [図表2~3]
ベアに関して、労働側では「実施すべき」が87.4%で大半を占めた[図表2]。経営側では「実施する予定」が41.6%と4割を超え、「実施しない予定」(21.8%)の2倍程度となっている。
[図表3]には、各年におけるベアを「実施すべき」(労働側)、「実施する予定」(経営側)との回答割合の推移を示している。
経営側では、企業業績の伸びや官製春闘などの影響を受け、ベアを「実施する予定」の割合が15年に35.7%と増加。16~19年は“20~30%台”で推移していたが、20年に16.9%と2割を下回り、21年は4.8%とさらに低下。22年は17.0%と若干上昇し、23年は41.6%と過去10年で最も高くなっている。
なお、20年調査から経営側の設問項目に「検討中」を追加しており、19年以前とは回答傾向が異なる可能性があるため、比較の際は留意いただきたい。
ベアの22年の実績と23年の予定(経営側) [図表4]
経営側について、自社におけるベアの“22年の実績”と“23年の予定”を示したのが[図表4]である。22年の実績は、「実施した」が54.5%と、「実施しなかった」の41.6%を12.9ポイント上回っている。
22年の実績と23年の予定を併せて見ると、両年とも“実施”が31.7%で最も多く、両年とも“実施しない”は16.8%にとどまっている。
3.物価上昇への対応
急激な物価上昇への対応方法 [図表5]
急激な物価上昇への対応方法(複数回答)について、労働側・経営側・専門家に尋ねた[図表5]。労働側には“自社がどのように対応すべきか”を、経営側には“自社の対応方針”を、専門家には“企業がどのように対応すべきか”をそれぞれ尋ねている。
「ベアで対応」が労働側(83.0%)と専門家(74.3%)で最も多く、両者では「賞与・一時金で対応」「手当(インフレ手当等)で対応」が3~4割程度で続く。「特に対応する必要/予定はない」は労働側で0.7%(2人)にとどまる。一方、経営側では「特に対応する必要/予定はない」が33.1%で最多となり、「ベアで対応」(31.5%)をわずかに上回っている。
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調査時期
2022年12月2日~2023年1月16日 -
調査対象7092人。内訳は下記のとおり。
①労働側
東証プライムおよびスタンダード上場企業の労組委員長等1749人(労組がない企業は除く)
②経営側
全国証券市場の上場企業と、上場企業に匹敵する非上場企業の人事・労務担当部長3975人
③労働経済分野の専門家
主要報道機関の論説委員・解説委員、大学教授、労働経済関係の専門家、コンサルタントなど1368人 -
回答者数および集計対象
労働側238人、経営側101人、専門家100人の合計439人。ただし、6ページの3.については、労働側270人、経営側130人、専門家101人の合計501人。
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