有所見率は53.2%!
〔平成26年〕ストレスチェックとの違いは?
健康診断での有所見者に対する対応
労働衛生コンサルタント
村木 宏吉
7. ストレスチェックとの違い
平成27年12月1日からストレスチェックの実施が義務付けられ、健康診断と一緒に実施する場合もあるでしょう。ストレスチェックにおける「高ストレス」の場合と健康診断における有所見の場合との違いを理解しておく必要があります。
そもそもストレスチェック制度は、労働者自身の高ストレスへの気付きが主目的で、精神疾患の罹患者をあぶり出すためのものではないとされています。そのため、会社に実施義務はありますが、労働者には受診義務は課されていません。また、ストレスチェックの結果は労働者本人にのみ通知され、本人の同意なく会社には伝えられません。「高ストレス」と判定された場合は労働者からの申出によって、面接・事後措置を行うことになります。
一方、健康診断は、労働者の健康状態を定期的にチェックし、万全の労務提供を受けるためと、職業性疾病等の早期把握・早期治療のためのものと言え、本稿で述べたような対応が必要となります。そして、場合によっては、職場の機械設備等の不具合が見つかることもあります。特殊健康診断は特にその傾向が強いものです。
8. その他
特殊健康診断において、有所見者が出た場合の措置として、条文では「作業環境測定の実施」があります。労働者の血液や尿に有害物質による代謝物等が見られた場合のことです。これは、当該作業場における有害物質の気中濃度が高いことが想定されるということです。そのため、労働者の体内にかなりの量が入り込んだと考えられるわけです。その原因としては、局所排気装置等の設備面での不具合(作動不良等)や、業務繁忙等による使用量の増加などが考えられるので、何が原因かを調べる必要があるということです。
実例としては、企業でのコスト削減の折、担当者が変わって設備の定期点検費用の請求を経理部門に対して行わなかった(あるいは断られた)ため、定期点検を実施せず、不具合が発生したまま使用していたというものがありました。
労働基準法36条ただし書において、時間外労働が1日2時間までに制限されている有害業務(詳細は労働基準法施行規則18条と関連通達を参照)について、これを超えて時間外労働に従事させていないか注意が必要です。「地下駐車場の業務のうち入出庫受付、料金徴収業務等一定のもの」などがあります。
健康診断項目は、一定の要件の下に、医師が必要ないと認めた項目は省略できます。ところが、筆者が現職のころ、ある大手企業の子会社に立入調査をした際、全員一律に省略されていることがありました。「産業医の指示だ」とのことでしたが、健康診断費用を節約しようとの会社の意図がうかがわれました。労働者1人ずつ健康状態は違いますから、全員一律に省略したのでは法令違反になる旨、指摘をしました。
9. 規定例
(健康診断)
第〇条 会社は、労働安全衛生法第66条の規定に基づく健康診断を実施する。
2. 前項の健康診断は、常時使用する従業員に対して実施する雇入れ時または配置替え時およびその後の定期健康診断と、法令に定める緊急時の健康診断とし、特殊健康診断も同様とする。
3. 従業員は、第1項の健康診断を受診しなければならない。
4. 会社が実施する健康診断を受診しない従業員は、自分で健康診断を受診し、その結果を証明する書面(受診後3ヵ月以内のものに限る。)を会社に提出しなければならない。
5. 前項の場合、法令に定める健康診断項目の費用は会社負担とする。
(健康診断未受診時の就労拒否)
第〇条 社用車、クレーンその他の機械等の運転業務に従事する従業員は、前条の健康診断を受診しない場合には乗務させない。
(健康診断未受診による災害時の取扱い)
第〇条 第〇条の健康診断を受診しないまま、社用車、クレーンその他の機械等を運転中に脳血管疾患、虚血性心疾患その他の疾病を発症し、事故または災害を発生させた場合には、状況により、会社が支払った損害賠償額の40%を上限に当該従業員に弁償させることがある。
なお、健康診断結果は、重要なプライバシーです。その保護=漏えい防止がきちんとしていないと労働者が感じると、受診拒否が増えます。取り扱うことができる者を限定することと、その者は退職後も守秘義務がある旨の規定を就業規則か安全衛生管理規程に設けなければなりません。
【執筆者略歴】 村木 宏吉(むらき ひろよし)●1977年(昭和52年)に旧労働省に労働基準監督官として入省。北海道、東京、神奈川の各労働基準監督署および局勤務を経て2009年(平成21年)に退職。町田安全衛生リサーチ代表。労働衛生コンサルタント。元労働基準監督署所長。労働基準法、労働安全衛生法、労災保険法等の著書多数あり。著書に「社労士のための建設業安全衛生コンサルティング実務マニュアル」、「元監督官が教える 労働基準法・最低賃金法の申請・届出一切」(以上、日本法令)等がある。
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