【コスト削減・業務効率UP・コンプライアンス強化】
要注目の「電子契約」とこれからの企業実務
3. 電子契約導入の効果と注意点
電子契約導入の効果としては、印紙代の削減、作業効率の向上、コンプライアンスの向上、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)への寄与が挙げられます。
以下、順次説明します。
(1)印紙代の削減
基本契約や金銭消費貸借契約、請負契約、売買契約等の契約書には、収入印紙を貼る必要があり、高額な契約では印紙代も高額になります。しかし、電子契約書には収入印紙を貼る必要がありません。そもそも、電子文書に印紙は貼れませんが、法律的にも印紙は貼らなくてよいのです(2005年の国会答弁、内閣参質162第9号参照)。
通常の請負契約や売買契約において印紙代が削減できるのはもちろんですが、見過ごせないのが、金銭消費貸借契約です。例えば、グループ企業間での金銭の貸借においても契約書が作成されており、ここに印紙を貼付しています。グループ企業間であれば、電子契約の導入は容易ですから、すぐにも印紙代を節約できることになります。
(2)作業効率の向上
印紙代以上に効果があるのが、作業効率の向上です。従来は、紙に印刷した契約書に、一方の企業で代表取締役が押印し、これを封書に入れて切手を貼って郵送し、相手方企業で押印・返送という処理が必要でした。これですと、通常1週間程度はかかります。また、ワークフローを導入している企業でも、最後の契約書の部分は紙にしているため、ここで多くの人手が必要になっていることが多いと思います。
このような人手も時間もかかる処理を、すべて電子化して効率化できることが、電子契約の大きなメリットです。契約書だけでなく、発注書や請書の発行・送付も同様ですし、請求書、見積書、領収書などの書類も同様に扱うことができるため、ワークフローの最後のネックである紙での処理をすべて電子化することが可能になります。
直接的に削減できる費用は、用紙代・封筒代・切手代などで、これだけでも印紙代を上回ることが多いのですが、業務の効率化のメリットはさらに大きなものとなります。これまで人手でやっていた書類の作成業務・送付業務のほとんどが省力化される結果、これに要していた人材をより重要な業務に振り向けることが可能ですし、紙の印刷・送付に比べてはるかに迅速に処理できるからです。
(3)コンプライアンスの向上
電子契約の導入により、契約書等が電子的に保存されるようになるため、これらの文書へのアクセスが容易になります。このため、監査等における透明性の確保に大いに役立ちます。また、 電子文書を社内LANからアクセスできるようにすれば、電子文書の閲覧は、場所の制限を受けなくなります。その結果、電子文書の担当者に知られずに検査を行うことが可能となり、監査の効率が向上します。
これらの効果により、電子契約は、コンプライアンスの向上に大きく貢献できます。なお、企業再編や買収の場合には、デューデリジェンスと言われる調査が行われます。このような調査は、一般の従業員に知られないように行わなければなりませんが、紙の帳票などを調べる場合に、誰にも知られないように実施するのは困難です。しかし、電子契約が導入されれば、リモートアクセスによりデューデリジェンスを秘密で行うことも容易になります。
(4)BCPへの寄与
地震等の大規模災害が生じた際の事業継続は、企業にとって極めて重要です。事業継続計画(BCP)において、契約書の保管は頭の痛い問題です。紙の契約書は原本を保管することに意味があり、コピーは証拠としての価値が下がってしまいます。したがって、原本の保管庫が被災した場合には、事業継続に大きなダメージを受けてしまいます。
この点、電子文書は、原本でもコピーでも同じ価値があります。電子署名は、紙への押印と異なり、情報そのものに意味がありますので、コピーでも原本性に違いがないのです。したがって、電子契約書などのコピーを遠隔地に保管することにより、本社が被災しても、被災前と同じ価値の電子文書を保持することができ、BCPに貢献できるのです。
(5)電子契約の注意点
電子契約を導入する場合、いくつか注意しなければならない点があります。
1つは、電子文書の撤回です。注文書や見積書を撤回する場合、紙の文書であれば原本の返却を求めることができます。しかし、電子文書では、相手方がコピーを保存している可能性を否定できませんので、相手方に撤回が届いたことを確認できるようにしなければなりません。これに関して、多くの電子契約システムでは、このような確認を行う機能を備えています。
もう1つは、バックデートができないことです。電子契約では通常はタイムスタンプを付けるため、過去の日付での契約書を作成することはできません。しかし、これは大きな問題ではありません。電子化による処理の迅速化により、バックデートの必要はなくなっていくものと思われるからです。
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