【違反タイプ別に解説!】近時の最低賃金法違反にまつわる指導・トラブル事例と実務のポイント
特定社会保険労務士
角森 洋子
1. 最低賃金監督と違反によるリスク
(1)最低賃金監督の実態
最低賃金には、地域別最低賃金および特定最低賃金の2種類があり、地域別最低賃金および特定最低賃金の両方が同時に適用される場合には、使用者は高いほうの最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。
毎年の「地方労働行政の重点施策」には、必ず「最低賃金の履行確保上問題があると考えられる地域、業種等を重点とした監督指導等を行う」として、最低賃金の履行確保が監督指導の重点とされていない年はありません。表は、2010年から2012年までの定期監督における最低賃金法4条違反業種別件数(100件以上の業種)ですが、毎年の違反件数は3,000件前後となっています。
労働者の申告により臨検監督が行われることもありますが、2012年には最低賃金を主要事項とした申告は3,009件あり、そのうち実際に最低賃金法違反のあったものは1,459件となっています。
産 業 | 2010 | 2011 | 2012 |
---|---|---|---|
食料品製造業 | 234 | 360 | 296 |
衣服・その他の繊維製品製造業 | 205 | 175 | 120 |
電気機械器具製造業 | 96 | 113 | 81 |
その他の製造業 | 133 | 203 | 153 |
道路旅客運送業 | 214 | 179 | 122 |
卸売業 | 103 | 108 | 88 |
小売業 | 382 | 555 | 433 |
社会福祉施設 | 211 | 245 | 232 |
旅館業 | 115 | 117 | 90 |
飲食店 | 138 | 214 | 157 |
総数 | 2,778 | 3,393 | 2,744 |
(2)最低賃金法違反が発覚した場合のリスク
ア 是正勧告と遡及払い
最低賃金法4条違反が定期監督で発覚した場合には、少なくとも3カ月遡及して最低賃金との差額を労働者に支払うように指導が行われています。申告監督で発覚した場合は、最大2年間遡及して支払わなければならないということも考えられます。
イ 司法処分
「法違反を繰り返す」「あえて最低賃金額を支払わない」あるいは、「『是正した』と虚偽の報告をする」などの悪質な場合に、司法処分(送検)されます。罰則は2つあり、[1]地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には50万円以下の罰金(最低賃金法40条)、[2]特定最低賃金が適用される場合で特定最低賃金額以上の賃金を支払わない場合には30万円以下の罰金(労働基準法120条)が、それぞれ定められています。
賃金をまったく支払っていない等の場合には、労働基準法24条違反と最低賃金法4条違反に該当しますが、両者は法条競合関係ということになり、特別法に当たる最低賃金法4条違反の1罪のみが成立することとなります。
実際には、賃金の一部が支払い済みのケースもありますので、次のように区分されます(愛知県労働局ホームページより)。
[1] 賃金の全額が未払いの場合(まったく支払われていない場合)
および
[2] 一部支払われた賃金があり、その支払済み額が地域別最低賃金額に満たない場合
➡最低賃金法4条違反
[3] 一部支払われた賃金があり、その支払済み額が地域別最低賃金額以上である場合
➡労働基準法24条違反
違反事例
名古屋西労働基準監督署は、最低賃金法違反の疑いで婦人服製造業「八木五縫製」と同社の男性専務(54)を書類送検した。容疑は、知的障害のある女性社員8人の2・3月分の賃金から「教材費」名目にて月1万5,000円を天引きし、愛知県の最低賃金額に相当する約131万円を支払わなかった疑い。専務は調べに対し「教材費は不良品の生産で被った損害額だった」と供述している。労基署によると、専務は実際の損害額を計算していなかったという。
(2014年9月26日MNS産経ニュース参照)
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