「パワハラ防止法」だけじゃない
2019年前半ハラスメントの注目情報
2019年5月にハラスメントに関する法改正が行われ、「パワハラ防止法」が成立。『日本の人事部』では、2019年前半の「ハラスメント」に関するトピックをピックアップしました。
公的機関の動き
「パワハラ防止法」(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律)が成立
2019年5月29日に、いわゆる「パワハラ防止法」が成立しました。これは、主に「労働施策総合推進法」にパワハラの防止措置義務を盛り込み、「女性活躍推進法」の行動計画作成対象を拡大した内容となっています。企業に義務化される具体的な対策はまだ明らかになっていませんが、今後、厚生労働省が本改正法に基づいて「指針」を作成し、内容を示していく予定です。
現時点では防止措置義務にとどまり、パワハラ自体を裁く法律の整備には至っていませんが、このように注意を喚起したことには大きな意義があるでしょう。これを機にパワハラやセクハラの基準を確認し、対策を打つことが人事部には求められます。
ILO(国際労働機関)が「ハラスメント条約」を採択
6月21日にILOの総会にて、「仕事の世界における男女に対する暴力と嫌がらせ」に関する条約および勧告が賛成多数で採択されました。ハラスメントに関する国際基準としては、初のものとなります。ILOの常任理事国である日本でも批准が求められており、今後一層のハラスメント対策が推進されると思われます。
ハラスメントの実態――直近の調査から
6月26日に厚生労働省が発表した「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、民事上の個別労働紛争において、いじめ・嫌がらせの相談件数が相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数の全てで過去最高となりました。
民間の調査でも、ハラスメントの多さが指摘されています。2019年2月に行われたエン・ジャパンの『ミドルの転職』ユーザーアンケートでは、2911名のうち8割以上が「パワハラを受けたことがある」と回答しました。中でも「精神的な攻撃」を受けたという回答が多く、パワハラを受けた3人に1人が「退職」を選択しています(ただし、回答者が転職を希望している層である点には注意が必要です)。
Q.パワハラを受けたことがありますか?
2018年12月に、アドバンテッジリスクマネジメントが企業における対策の実態を調査したところ、8割弱の企業が取り組みを行っていることがわかりました。ただし、その中で「取り組みが不十分」と感じている割合は4割弱となっており、今後はより一層の対策が期待されます。
ハラスメントのケーススタディ――人事のQ&Aから
ハラスメントに関しては、「人事のQ&A」に多くの相談が寄せられています。以下はその一例です。
セクハラが発生しました。
店長と女性社員の間でした。
内容的には懲罰案件です。
内容について事実確認をしましたが、本人から懲罰にすると全社に広まる、2次被害(被害者特定、誹謗中傷など)にあうため、穏便に(異動、役職解任)してほしいとの申し出がありました。
過去の当社の判例からすると降格になります。
以下、相談です。
①会社判断で被害者が望まない懲罰はできるか
②懲罰にかけない降格(等級など)は可能か(組織変更や異動で役職が外れることはある)
会社としてはセクハラ研修をした後でもあり、厳罰に処したいのですが本人のことを思うと判断に迷います。異動させても噂は広まるかと思いますが…
以上、よろしくお願いします。
セクハラが発生したあとの対応に関する相談に対して、専門家から「被害者の保護を最優先に行い、被害の事実がなるべく公にならないようにするべき」というアドバイスがありました。具体的な回答内容はこちらを参照してください。
ハラスメントのトレンドワード
2019年6月に、大手企業における男性社員の育休取得への対応が問題となり、「パタハラ」という言葉が注目を集めました。「パタハラ」は「パタニティー・ハラスメント」の略で、男性が育休を取得する際に嫌がらせが起こることなどを指します。働き方改革の施策には男性の育休取得推進も含まれますが、道半ばと言えそうです。
- 【参考】
- パタハラの解説はこちら
「カスハラ」も大きな問題の一つとなっています。「カスタマー・ハラスメント」の略で、顧客から受ける嫌がらせを指します。企業の内部で発生するハラスメントに加えて、外部から発生するハラスメントにどう対応すればいいのか。過去には企業の責任が問われた事件もあるため、確実な対応が求められます。
「ハラスメント・ハラスメント」――行き過ぎた認識?
最近では「ハラスメント・ハラスメント」という言葉を聞くようになりました。「何もかもハラスメントということ自体がハラスメントである」という主張です。これは、ハラスメントに対する訴えが行き過ぎていることの表れかもしれません。
ハラスメントが実際に起きているのであれば、許されることではありません。企業は実際に嫌がらせが起きているという証拠を集め、当事者に状況を聞くなど、粛々と対策を進めていく必要があるでしょう。また、そもそも「ハラスメント・ハラスメント」の雰囲気がまん延しないように、風通しのよい職場を作っていくことも求められます。防止対策を促す最近の法改正は、それを後押しするものといえるでしょう。