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【ヨミ】ロウドウシサクソウゴウスイシンホウ 労働施策総合推進法

かつて「雇用対策法」と言われた法律が改正され、2018年に新たに制定された「労働施策総合推進法」。働き方改革の一環として、多様な働き方を促進させることを目的として改正されました。パワハラの防止も規定されているため、「パワハラ防止法」とも呼ばれていますが、同法ではフリーランスや時短労働など多様な働き方の普及、育児・介護・治療などと仕事の両立という目標が立てられています。
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1. 労働施策総合推進法の基本

労働施策総合推進法の前進である「雇用対策法」は、働きたい労働者と雇いたい経営者の需要と供給のバランスを保つために成立した法律です。今回の改正は、働き方の多様化に併せて、より自由な働き方を実現することを目的としています。本稿では、労働施策総合推進法の基本について簡単に解説していきます。

労働施策総合推進法とは?

労働施策総合推進法の正式名称は、「労働政策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」です。日本は現在、かつての働き方が引き起こした数々の社会問題に直面しており、これらに対処するため成立されました。

労働施策総合推進法が解決を目指している主な事項は、下記のとおりです。

  • 長時間労働
  • 非正規雇用労働者の待遇の改善
  • 女性や高齢者の就業形態
  • 育児や介護などと仕事の両立
  • 中小企業における人手不足

同法では、こうした問題を解決するとともに、仕事に対する労働者のモチベーション向上や生産効率の改善などを目標としています。

労働施策総合推進法の基本的な理念

労働施策総合推進法の基本的な理念は、労働者が生きがいをもって働ける社会の実現です。具体的には「(1)多様な労働者が安定して働けること」と「(2)評価基準の見直し」とされています。

(1)多様な労働者が安定して働けること

労働者が安定して働けることとは、言い換えれば、明日の不安を感じずに働くことができることです。労働者が常に明日への不安を感じているようでは、決して良い国だとはいえません。また、多様性を認めない不寛容な社会は、生活しづらいものとなるでしょう。

現代の日本には「働き方」に関連して子育てや介護など、多くの問題があります。労働施策総合推進法はこれらの問題を解決するため、都道府県や市町村の地方公共団体などと互いに連携をとりつつ総合的なアプローチをすることを意図した法律です。

近年、「終身雇用制度は維持できない」などの議論が起こっていますが、このような企業文化の見直しに関しても、今後議論が活発になっていくのは明白です。

(2)評価基準の見直し

安定した雇用を約束するためには、現代社会で必要とされる技術や能力、また、仕事にはどのようなものがあるのかを、わかりやすく示す必要があります。労働者は自分の能力が適正に評価されていないと感じると、生きがいが奪われたと思ったり、退職を考えるようになったりすることもあるため、その能力に応じた適正な評価基準も必要になってきます。

労働施策総合推進法では、情報通信技術(ICT)の発展などで働き方が大きく変わろうとしている時代に対応するべく、評価基準の問題にも取り組むことが、方針として示されています。

2. 2019年5月の労働施策総合推進法の改正について

労働施策総合推進法では、次の七つの基本的な事項を定めています。「時代にあった、柔軟かつ安定した働き方を実現するための施策」といえそうですが、これらの事項に沿って、今後の政策が展開していくと考えられます。

(1)労働時間の短縮等の「労働環境の整備」
(2)雇用形態または就業形態の異なる労働者の間の均衡のとれた待遇の確保、多様な就業形態の普及及び「雇用・就業形態の改善」
(3)「多様な人材」の活躍促進
(4)育児・介護または治療と「仕事の両立支援」
(5)人的資本の質の向上と「職業能力評価の充実」
(6)「転職・再就職支援、職業紹介」等に関する施策の充実
(7)「働き方改革」の 円滑な実施に向けた取組

(1)労働時間の短縮等の「労働環境の整備」~ワーク・ライフ・バランスを考慮した働き方~

「労働時間の短縮等の労働環境の整備」は、主に労働環境をどう改善していくかという観点から、政策案が出されています。具体的には以下の通りですが、簡単にいえば「賃金をあげつつ、ワーク・ライフ・バランスを考慮した働き方を実現する」といえます。

  • 長時間労働の是正
  • 過労死等の防止
  • 中小企業等に対する支援・監督指導
  • 業種等の特性に応じた対策等の推進
  • 最低賃金・賃金引上げと生産性向上
  • 産業医・産業保健機能の強化
  • 安全で健康に働ける労働環境の整備
  • 職場のハラスメント対策及び多様性を受け入れる環境整備

(2)雇用形態または就業形態の異なる労働者の間の均衡のとれた待遇の確保、多様な就業形態の普及及び「雇用・就業形態の改善」~非正規雇用の待遇改善~

一言でいえば「安定を目指した、非正規雇用の待遇改善」となります。しかし、この問題は単純なものではなく、従来の終身雇用の終焉やフリーランスをはじめとした柔軟な働き方などを総合的に判断して行われることになるでしょう。

ICTの発展などによって、最近ではオフィスをもたない企業も増えています。良い人材を確保するためにも、従来の「正社員」像とは異なる働き方でも安定して働ける仕組みづくりが重要です。

  • 雇用形態 または就業形態にかかわらない公正な待遇の確保など非正規雇用労働者の待遇改善
  • 正規雇用を希望する非正規雇用労働者に対する正社員転換等の支援
  • 柔軟な働き方がしやすい環境の整備

(3)「多様な人材」の活躍促進~職場にもっと多様性を~

イノベーションは、多様な人材環境から生まれやすいとされています。多様な人材がフラットに働ける環境の実現は、今後の日本の発展や生活のしやすさを左右する重要な事柄です。ここでは主に「女性」「若者」「高齢者」「外国人」「障害者」などの項目があげられています。

日本は現在、少子高齢化や人手不足など、さまざまな問題を抱えています。これらを解決するためにも、多様な人材を活用できる制度を構築しなければなりません。

  • 女性の活躍促進
  • 若者の活躍促進
  • 高齢者の活躍促進
  • 障害者等の活躍促進
  • 外国人材の受入環境の整備
  • 様々な事情・困難を抱える人の活躍支援

(4)育児・介護または治療と「仕事の両立支援」

少子化問題や高齢化などの問題に取り組むためには、育児や介護と仕事との両立を可能にする制度を整える必要があります。労働施策総合推進法では、こうした問題に対して二つの支援を打ち出し、働きたいという希望をかなえられる社会を目指しています。

  • 育児や介護と仕事の両立支援
  • 活躍と仕事の両立支援

(5)人的資本の質の向上と「職業能力評価の充実」

人間が成長するためには、定期的または継続的に学習することが重要です。例えば、「リカレント教育(社会人になったあとも、教育機関に戻って学習すること)」によって、働く人々の能力を向上させることは、国際的な競争に勝つためにも、また生産性の高い職場を実現するためにも、重要なことといえます。

情報化社会や多様性社会によって、従来の尺度では測れない能力を持った人が出てくる可能性もあります。このような能力を測るためには「職業能力評価の充実」が必要です。これに関しては、政府が明確な方針を打ち出しています(参考:厚生労働省「職業能力評価基準の構成」)。

  • リカレント教育等による人材育成の推進
  • 職業能力評価の充実

(6)転職・再就職支援、職業紹介等に関する施策の充実

上述のリカレント教育にも関連しますが、これからは変化の時代でもあるため、学び続け、衰退分野から成長分野へ移行できるよう、再教育の支援体制を整えることが重要です。

「流動性が高い」というと不安定な社会のように聞こえるかもしれませんが、転職・再就職がしやすくなるということは、自分に合った業種や会社を見つけやすいということでもあります。流動性が高くなっても、安定した生活を営める仕組みをつくることが、目下の課題といえます。具体的には、次のような施策が実行されるようです。

  • 成長分野等への労働移動の支援
  • 職場情報・職業情報の見える化
  • 求人・求職情報の効果的な提供および地域の雇用機会の確保

(7)「働き方改革」の 円滑な実施に向けた取組

多様な働き方の実現を目指す「働き方改革」では、「このように働きたい」労働者の希望と「このように働いてほしい」雇用者の需要と供給をマッチングできる仕組みが求められます。マッチングがうまく行われない場合、労働者・雇用者双方が不幸になってしまうでしょう。労働施策総合推進法では、特にこの「マッチング」に注力していくようです。

労働者が能力を有効に発揮できるようにするために~企業文化の見直し~

今後はさらに、日本の伝統的な企業文化の見直しを図っていくようです。政府は次の3項目を具体的に挙げていますが、従来の商習慣や労働条件の見直し、働き方に関する義務教育・高等教育の充実があります。

  1. 商慣行の見直しや取引環境の改善など下請取引対策の強化
  2. 労働条件の改善に向けた生産性の向上支援
  3. 学校段階における職業意識の啓発、 労働関係法令等に関する教育の推進

これらは、ともにゆとりをもった働き方の実現を目指しています。具体的には、長時間労働を起因とした短い契約期間の是正や、短い期間でも長時間労働と同程度の価値を生み出せる労働のあり方を目指しています。また、学校段階で不正な労働に対する自衛の知識なども教えることが考えられています。

今後の変化のポイントとしては、「取引条件の適正化」「生産性向上に向けた設備投資に対する支援の充実」「経営に関する相談と支援の充実」「学校教育における職場見学やインターンシップなどの推進」「社会保障制度や労働関係法令の教育」などが挙げられています。

パワハラ・セクハラ防止対策に関する労働施策総合推進法の規定

パワー・ハラスメント(パワハラ)やセクシャル・ハラスメント(セクハラ)の防止に関する法律は、今後ますます厳しくなることが予測されます。これまでセクハラの防止に関しては男女雇用機会均等法がありましたが、パワハラ防止は根拠を示す法律がありませんでした。

今回の改正労働施策総合推進法では、一部パワハラの防止について明記しました。そのため、労働施策総合推進法は別名「パワハラ防止法」と呼ばれることもあります。今回は罰則規定が設けられなかったため、名目だけの法律だと批判されることもありますが、名目もなかった時代に比べると、一歩前進したといえるでしょう。

今後も予測される労働施策総合推進法の改正

労働施策総合推進法は、新しい働き方を目指すための最初の一歩を歩みだしたにすぎません。厳罰化されていないパワハラ防止に関する規定や、新しい企業文化の創造、そのほかの具体的な施策などに対応するため、今後も法律が改正されることが予測されます。それは、日本社会がさらに良くなっていく、ということでもあります。今後、労働施策総合推進法がどのように改正されていくのかは、日本社会の働き方を占う一つの指針と言えそうです。

3. 働きやすい労働環境をつくるには?

労働施策総合推進法では、情報化社会・多様性社会に対応できるよう、柔軟かつ安定した働き方の実現を目指しています。繰り返しになりますが、日本社会は現在、「長時間労働」「不安定な非正規雇用労働者」「女性や高齢者が働きにくい環境」「人手不足」など、さまざまな問題を抱えています。

国際的な競争で勝つためにも、また変化する社会の中でやりがいをもって働くためにも、こうした問題を解決する必要がありますが、そのためにはさまざまな観点から総合的に解決していかなければなりません。その方向性を示しているのが、労働施策総合推進法です。

日本社会には、現在変化のタイミングが訪れています。これまでは盤石な社会基盤を築き上げてきたため逆に変化が起きにくい面があり、さまざまな課題に直面しているにもかかわらず、解決に向けた行動が起きてこないという問題がありました。労働施策総合推進法をはじめ、働き方に関する法律は近年改正が相次いでいます。その状況を受けて日本がどうなっていくのか、今後の展開が注目されます。

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