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【ヨミ】フクギョウ

副業

副業とは?

副業とは、本業とは別に副次的に行う仕事のことです。複数の収入源を確保することが主な目的ですが、近年はキャリア形成や社会貢献、独立に向けたステップなど、さまざまな目的を持って副業を希望する人が増えています。

更新日:2023/02/21

1. 副業が注目されるのはなぜか?

厚生労働省の推進で普及が加速

2018年に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を整備し、副業の推進を発表したことを機に、企業に勤める社員においても副業解禁のムードが一気に加速しました。

政府は「一億総活躍社会」や「地方創生」の実現に向けて、時間と場所にとらわれずに柔軟な働き方が可能となるテレワークの普及と、地方での雇用創出や新たな仕事の流れを作り出す「ふるさとテレワーク」も推進しています。このように副業やフリーランス、テレワークという就業形態を可能にする背景にはICTの発展があり、すでに多様な働き方を実現できる時代に突入しつつあると見ることができます。

「フリーランス」にも注目が集まる

また、個人事業主として複数の企業と契約を交わし、報酬を得る「フリーランス」の働き方も注目されています。内閣官房日本経済再生総合事務局が発表した「フリーランス実態調査結果」(令和2年5月)によれば、現在日本には約462万人のフリーランスがいるとされています。

労働時間管理に対する考え方の変化

副業や兼業が推進されている背景には、労働時間管理に対する考え方の変化も密接にかかわっています。かつての日本では、企業と労働者の関係性は企業が上位であり、私生活を犠牲にしてでも企業に貢献するという考えが一般的でした。しかし、近年では労働者の健康やワーク・ライフ・バランスを重視する考え方が浸透し、心身ともに健康で豊かな社会生活を送ることに重きを置く傾向が顕著です。

そのため、フレックスタイム制や時短正社員、労働基準法を上回る休暇制度など、個々に合った自由な働き方ができる環境を整え、従業員の満足度向上に努める企業も増えています。これは、労働時間管理の考え方が会社主体から個人主体へと変化していることの象徴といえるでしょう。

2. 副業と似ている言葉

副業と類似した言葉に「兼業」「複業」があります。

兼業と違いはあるか?

兼業は、副業とほとんど同じ意味で使用されるケースが多くなっています。強いて言えば、本業の有無の違いが認知されています。

本業のほかに休日や余暇などプライベートな時間に働くものを「副業」、本業と副業という位置づけではなく、複数の仕事に優先順位をつけずに並行して掛け持つことを「兼業」とする見解が一般的です。

複業と違いはあるか?

複業と副業の違いは、複業は副業を含む広い概念であることです。リクルートワークス研究所が発表した論文では、「複業」を複数の仕事を持つ働き方として、副業も含めた広い概念と位置付けています。

また、複業はピーター・ファーディナンド・ドラッカーの提唱した「パラレルキャリア」の訳語として用いられることがあり、その意味から副業との違いが生まれます。

パラレルキャリアとは

パラレルキャリアは「本業を持ちながら第二の活動をすること」です。副業と同じように感じるかもしれませんが、活動範囲は副業のように金銭的な報酬が発生する場に限りません。

パラレルキャリアには、企業への就職や自営業のほか、ボランティア活動による社会貢献など、さまざまな目的の活動が含まれます。つまり、副業は複数の収入源を確保するための仕事であるのに対し、パラレルキャリアはスキルアップや自己実現なども目的にした仕事、という違いがあります。

3. 企業が副業解禁へ踏み切らない理由とは

副業の研究に長年取り組んでいる東洋大学 経済学部経済学科 准教授の川上淳之さんは、企業が副業解禁に踏み切らない理由として、人材流出のリスクが高まることが大きいことを挙げています。

川上さんが副業経験者に対して行ったヒアリング調査では、ほとんどの人が「本業も副業も関係なく、プロフェッショナルとして取り組んでいる」と回答。一方で、副業を「お試し起業」と位置づける人は多く、うまくいきそうになると副業に軸足を移すようになることが考えられます。

本業と副業の両方が忙しくなると、深夜労働や休日労働を余儀なくされることもあるでしょう。そういう場合は過重労働にならないよう、企業には社員の時間管理や健康管理に関するサポートが求められます。しかし実際にはサポートにコストをかけられないため、副業解禁に踏み切れない企業が多いのではないかと川上さんは分析しています。

企業の副業解禁事例

副業解禁によって、企業にはどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。「日本の人事部」のインタビューや、「HRカンファレンス」の内容を基に解説します。

カゴメ株式会社

日本の人事部「HRアワード2020」企業人事部門最優秀賞を受賞した、カゴメ株式会社。多様な働き方を推進し、より良い働き方と暮らし方の実現を目指す同社の「生き方改革」が注目されています。

カゴメは生き方改革の一環として「副業制度」を導入しています。年間総労働時間が1,900時間未満の社員に対象を限定し、副業時間を本業での時間外労働と合計して月間45時間以内と定めました。

副業解禁に対し、常務執行役員CHO(最高人事責任者)の有沢正人さんは「もはや会社が個人を束縛する時代ではありません。一社に限定せず複数の仕事を持ち、自分らしいキャリアを築いていくのが当たり前の時代です」と述べています。

株式会社スープストックトーキョー

安心、安全でおいしいスープを気軽に食べられると女性を中心に人気を博し、全国に60店舗以上を展開する、株式会社スープストックトーキョー。同社では「生活価値の拡充」を掲げており、その中で2018年4月より「働き方“開拓”」として新たな休暇制度「生活価値拡充休暇」と複業制度「ピボットワーク制度」を導入しました。

ピボットワーク制度の特徴は、社員がスープストックトーキョーに軸足を置きながら、社外や社内の複業経験を通じて、日頃の業務とは異なるベクトルで自分の可能性を試すことができる点です。

「働き方“開拓”」を導入した結果として、年間離職率が制度導入前の23%(2017年)から、翌年には12.8%と大幅に低下しました。さらに、採用人数に対する広告媒体への出稿費用が減り、採用コストの削減にもつながっています。

サイボウズ株式会社

サイボウズ株式会社は「100人100通りの働き方」を掲げて、従業員一人ひとりの個性を尊重する人事制度を設けています。

先進的な取り組みをしていると思われることも多い同社ですが、もともとは高い離職率に悩まされていました。

その課題を改善するために、働く時間や場所にとらわれない柔軟な人事制度を導入。その一つとして、複業解禁があります。同社人事本部 部長の青野誠さんは、現在では社員の2~3割は本業以外の社外業務に取り組んでいるといいます。

中でも特長的な取り組みは「公明正大」「自立」の考え方を基本に、複業に関する全ての情報をオープンにしていることです。サイボウズでは、自社製品「kintone(キントーン)」を使ったアプリで、複業の申請から許可、それぞれの仕事のスケジュールまで全従業員が共有できる仕組みを構築しています。

青野さんは、複業制度をうまく機能させる上で「オープンな風土」「情報の可視化」が重要だと説いています。

株式会社Jストリーム

インターネット上のコンテンツ配信事業を手がける株式会社Jストリームでは、2019年に人事制度の改定を実施。定着力と採用力を上げるために「魅力的な人事制度」は欠かせないものとし、「フレックスタイム」「テレワーク」「リザーブ休暇」「副業解禁」の4制度を導入しました。

同社人事部長の田中潤さんによると、副業に関しては原則自由とし、ルールに関しても「健康を害さない」「企業秘密を漏らさない」など、どの企業も参考にしやすい標準的な内容とのこと。一方で、ルールを絶対とはせず、常に「例外」を前提として、個人の要望に合わせて柔軟に運用しているそうです。

田中さんは、経済的な必要性に迫られていない場合、副業は趣味の延長上や自己実現といった性格のものが多く、会社都合でそれを制限するのはありえないとし、社員と都度話し合うことの重要性を強調しています。

パーソル総合研究所の副業者に対する調査では、副業者の3~4割が副業によって、スキル、マインドセットの面で本業へのプラス効果を実感したと回答しています。

その中でも、副業が本業へのプラス効果を促進する要因を分析したところ、本業の企業が副業の労働時間を把握し、副業の仕方についてアドバイスするなど、従業員の副業に積極的に関与していることが要因であるとわかりました。

本来、企業が副業を容認する目的は、本業に対して新たな知見やクリエーティビティを発揮することにあります。副業による本業へのプラス効果を期待するのであれば「職場や上司による支援」が重要です。

国の副業・兼業の普及促進

働き方改革が実施されて以降、徐々に国内の副業・兼業は増えていますが、未だ普及しているとは言い難い状況です。

そうした中で、政府は副業・兼業の普及促進に向けてさまざまな取り組みを進めています。

副業・兼業の促進に関するガイドライン

厚生労働省は2020年9月に副業・兼業の促進に関するガイドラインを改定し、企業も働く側も安心して副業・兼業ができるようにルールを明確化しました。

ガイドラインでは、企業が労働者の副業を容認する場合の対応方法や、企業が副業を禁止または制限することができる合理的な理由を示し、就業規則に盛り込むことを促しています。

ガイドラインを参考にすることで、各企業は自社の実情に応じて必要な対策を講じやすくなります。

モデル就業規則

企業は常時10人以上の従業員を雇用する場合、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。就業規則を変更した場合にも、労働基準監督署長への届出が必要です。

厚生労働省では2020年9月の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の改定に伴い、副業・兼業に関する記述についても改訂しました(モデル就業規則第14章第68条)。人事担当者はモデル就業規則を参考に、自社の就業規則に複業・兼業を盛り込む際の対応が容易になりました。

4. 副業の管理

就業規則の見直し

労働者の副業を容認する場合も、企業側は全ての副業を自由に認めるわけにはいかないと考えるかもしれません。その場合、就業規則内に副業を許可する場合と許可できない場合、それぞれの理由・根拠を明確に示す必要があります。

厚生労働省のガイドラインでは、企業側が副業禁止・制限できるケースを次のように示しています。

●労務提供上の支障がある場合
●企業秘密が漏えいする場合
●会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
●競業により、企業の利益を害する場合

特にライバル企業の業務に携わるなど、自社の利益を損なう場合は、副業を禁止することを明示すべきです。逆に、副業禁止の規定を設けていない場合は、従業員が副業したときに懲戒規定を適用することができません。無許可の副業が判明した後で慌てて就業規則を変更しても、さかのぼって適用することはできません。

各種保険の見直し(労災保険・雇用保険・社会保険)

従業員が副業先と労働契約を結ぶ場合、労務管理として各種保険の見直しが必要です。まず労災保険は、本業先・副業先どちらでも加入しなければなりません。

次に雇用保険は、所定労働時間が週20時間以上であり、31日以上の雇用見込みがある場合に加入が必要です。ただし、本業・副業いずれも所定労働時間が週20時間以上の場合であっても、いずれかの会社でしか加入できません。

法定労働時間は週40時間なので、健康維持の観点から、合算して週40時間を超えるような副業は控えるべきです。改正で労災保険の給付は本業と副業の合算が可能になっていますが、雇用保険には今のところ合算の仕組みはありません。

なお、2022年1月から、65歳以上の労働者について一定の要件を満たし申し出れば、複数の事業所で働いた時間を合算して雇用保険の被保険者となる「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が始まりました。

社会保険は、月の所定労働日数および週の所定労働時間が正社員の4分の3以上(正社員が40時間なら30時間以上)の場合に加入が必要です。そのため、基本的には本業先で加入することになります。

源泉徴収と年末調整

厚生労働省の副業・兼業の促進に関するガイドラインでは、副業による「副収入」が20万円以上に達した場合、本業の企業で年末調整をするのと同時に、個人で確定申告する必要があるとしています。

これを具体的に説いた国税庁の定義は以下のとおりです。

給与を2か所以上から受けていて、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、年末調整をされなかった給与の収入金額と、各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)との合計額が20万円を超える方
※給与所得の収入金額から、所得控除の合計額(雑損控除、医療費控除、寄附金控除及び基礎控除を除く。)を差し引いた金額が150万円以下で、さらに各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)の合計額が20万円以下の方は、申告は不要です。

「副収入が20万円以上」の定義は複雑です。本業の企業側が副業分の確定申告まで手伝う義務は生じませんが、副業による収入で確定申告が必要な従業員がいる可能性はあります。副業を届け出制にして従業員の副業を把握する代わりに、経理と連携して税務面のアドバイスをするのはサポートとして有効でしょう。

5. 副業への関心の高まり

パーソル総合研究所が、2021年に企業に対して行った副業に関する調査によると、自社の正社員が副業を行うことを容認している企業の割合は55.0%で、2018年の調査結果(51.2%)と比較して3.8ポイント上昇したことがわかりました。

企業が自社の正社員の副業を容認する理由(複数回答)の1位は「従業員の収入補填のため」が34.3%、2位「禁止するべきものではないので」が26.9%、3位「個人の自由なので」が26.2%となり、副業が社会的に認知されつつあることがうかがえます。

また、他社で雇用されている人材を副業者として受け入れている企業は23.9%、現在は受け入れていないが、受け入れる意向がある企業も23.9%で、合わせて47.8%となっています。半数近くの企業が副業者の受け入れに対し、前向きな姿勢を示していることがわかりました。

一方で、受け入れ意向なしと回答した企業は52.3%に及びます。各施策の継続的な促進が課題といえます。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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