ステップバック
ステップバックとは?
「ステップバック」とは、後退の意味。自己の成長や目標の実現に近づくために、当面の地位や収入が下がっても、あえて一時的な後退を選ぶキャリア形成のあり方を指します。予定調和的なキャリアパスから降りて横道にそれたり、遠回りに見える進路を選択したりすることが、結果として豊かなキャリアにつながるというステップバックの思想に注目が集まっています。
あえて退くことで前進するキャリア形成
明確な目標と計画をもって“急がば回れ”
「ステップバック」という考え方が注目されるきっかけになったのは、2007年12月に米「ウォール・ストリート・ジャーナル」に掲載された「How to Get Ahead By Going Backward」(いかにして後退しながら前進するか)という記事でした。記事では、若くして一流企業の会計係に就き、その職を全うすれば将来の安定が約束されていたにもかかわらず、ステップバックを決断したあるビジネスパーソンの事例が紹介されていました。“単調で退屈な”キャリアパスに疑問を抱いた彼は、もっと他の分野でも働いてみたい、海外にも出てみたいと考え、ポストを捨てて海外拠点への異動を願い出たのです。結果、数年後により大きな企業のCFO(最高財務責任者)として迎えられたものの、そこでもCFOとして務めあげることにこだわらず、自ら志して異なる事業部門へ。最終的には、CEO(最高経営責任者)にまで上り詰めました。まさに“ステップバックによるステップアップ”を地で行くキャリアライフといっていいでしょう。
もっとも、労働市場の流動性が高く、転職によるステップアップが一般的なアメリカでさえ、後退の道を選ぶことは、収入減はもちろん、キャリアにも傷がつき、競争における不利につながりかねません。そこで記事は、ステップバックの原則として「明確な目標を持つこと」「一時的なマイナス要素を受け容れられること」「感情的な理由で後退を選ばないこと」の三つをアドバイスしています。
ビジネスの成功者などの経歴をみると、仕事での失敗や意に沿わない左遷、人間関係のあつれき、大病による長期離脱など、挫折や逆境を経験し、遠回りを強いられたケースが少なくありません。ステップバックとは、そうした遠回りの経験を成長の糧とするために、明確な目標と綿密な計画のもと、自らリスクをとって進路変更を行うという発想です。
とはいえ人事部の立場からすれば、自社の有為の人材がステップバックによって外部へ流出する事態だけは避けなければなりません。社員がリフレッシュできる機会や、自分のキャリアを客観的に見つめ直す場を積極的に設けたり、待遇だけでなく仕事のやりがいやモチベーションも追求できる多様で柔軟なキャリアパスを用意したりするなど、配属された場所で昇進を目指すだけの硬直した働き方・働かせ方を改善し、組織内でステップバックに近い効果が得られるようなしくみを構築する必要があるかもしれません。
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