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なぜ史上最年少で株式上場を果たせたのか――
HR業界の新しいあたりまえを生み出す覚悟と秘訣

株式会社リブセンス

村上太一さん

「?」の視点と不断の努力で新しいあたりまえを発明する

リブセンスは「あたりまえを、発明しよう。」を企業ビジョンに掲げています。新しい“あたりまえ”となるサービスを生み出すために必要なものは何ですか。村上社長自身の発想の源泉について教えてください。

先ほども言いましたが、世の中の不便や問題に対しては日常的に敏感になっているつもりです。学生の頃は「挙動不審」と怪しまれるくらい(笑)、キョロキョロしながら街を歩き回り、何かヒントはないかと探していました。誰もが必要としているのに、まだ世の中にないものを見つけようという視点は、今でも忘れないようにしています。ただし、世の中の不便や問題を探し出すだけでは、新しいあたりまえの発明には結びつきません。大切なのは“問題の発見プラス解決”、そしてその解決策を新しいあたりまえにするべく、サービスとしてどこまでも徹底的に磨き上げる地道な努力でしょう。

株式会社リブセンス ロゴマーク

株式会社リブセンスのロゴマーク

弊社のロゴマークをご覧ください。上下を逆さまにすると「?」の形になりますね。これは常識を疑うことで、日常に潜む問題に気づく「?」=“はてな”の視点を表現しています。そしてロゴマーク全体を構成するのが、上下二つのしずくの形。このしずくは、故事成語の「雨垂れ、石を穿(うが)つ」の雨垂れなんです。不断の徹底的な努力で新しいあたりまえとなるサービスを改善・浸透させ、社会のあり方を変えていこうとする、われわれの強い意志が込められています。“?”も必要だけど、“雨垂れ”が大事なんです。

“はてな”の視点で問題に気づいて解決し、“雨垂れ”の努力でそのサービスを徹底して磨き上げる――新しいあたりまえの発明はとうてい一人ではできません。組織全体で進めるために、リーダーとして何か心がけていることはありますか。

私なりに考えてたどりついた結論は、「自分は特に何かができるわけではない」ということです。途中までは自分で全部をこなしていましたが、いろいろな人が入社してくる中で、この領域では絶対にかなわないという人が何人も集まってきました。たとえばサービス開発のプロセスが0から10まであるとすると、私の場合、何もないところから新発想を生み出す「0→1」の工程は得意なんですね。でも、それを最後まで仕上げる「1→10」のところになると、私よりもずっとできる社員がいる。「自分は特に何かができるわけではない」ということを自覚して、より適した人材にまかせるようにしています。実際、既存領域については、今はほとんどタッチしていません。

自ら動くより、社員にどう動いてもらうかに心を砕いている、ということでしょうか。

社員にどう動いてもらうかというよりも、むしろ私が彼らの邪魔にならないようにするにはどうすればいいか。考えなければいけないのはそこですね。ただ邪魔をしないというだけでなく、問題をわかりやすくするとか、状況を見えやすくするといった感じでしょうか。私が思うに、組織で一番危ないのは、仕事を任せるほうは完全に任せたと思っていても、任されているほうが任されたと受け止めていなくて、“お見合い”が起こっている状態です。責任の所在が不明確になり、重大なミスやトラブルにもつながりかねません。スタッフに任せた以上は自らが相手の障害やプレッシャーになってはいけないし、任されたことを相手がしっかりと自覚できるよう、状況をシンプルに整理する必要があるでしょう。経営者としては、それが私の目下の課題ですね。

アルバイト求人サイトから始まったリブセンスの成功報酬型というビジネスモデルは、転職や派遣の分野にも広がり、各市場にインパクトを与えました。村上社長は、人材ビジネスの現状やHR業界をめぐる環境変化をどう見ていますか。

株式会社リブセンス 村上 太一さん インタビュー photo

現在の日本に、GDPを引き上げる術が残っているとしたら、それは雇用における“適材適所”の推進であり、人材の活性化に尽きると私は思っているんです。人口が減少していく中で、それでも国力を維持し、さらに伸ばしていくには、限られた労働力をとことん有効活用するしかありません。働く人一人ひとりからどれだけ高いパフォーマンスを引き出せるか。個々の資質や能力を生かしきるためにどれだけ適材適所を進められるか。その重要な部分を担えるのが人材ビジネスですから、考えてみれば、これほど面白いビジネスはありませんよね。現に、そういう志を持つ事業家がどんどん増えてきているので、私自身、HR業界の盛り上がりを感じますし、やっていてすごく楽しい。自分も新しいあたりまえの発明で、業界をさらに変革する原動力になっていきたいと考えています。

現在の日本の職場には、非正規も含めて深刻な人手不足という問題があります。また個人の働きぶりについても、「日本で働く人の仕事のやりがいは世界の中でも低い」とも言われています。こういう難しい状況にHR業界はどう対応すべきでしょうか。

仕事のやりがいの問題については、むしろ伸びしろというか、そこを改善すれば、日本の国力がすごく高まるポテンシャルを秘めているのだ、と見たほうがいいでしょう。重要なのは、実際にやりがいをどう引き出すか。問題は発見するよりも、解決するほうが難しいわけで、そこを担うのがHR業界の役割なんです。私自身は、雇用の流動化を促し、もっと適材適所を進めれば、失った仕事へのやりがいを取り戻す人が増えるのではないかと思っています。弊社では、転職希望者向けに企業の評判を集めたクチコミサイト『転職会議』を運営していますが、このサービスの開発も、転職市場で適材適所を実現するにはどうすればいいか、入社前後のギャップを解消し、離職率を下げるにはどうすればいいかという問題意識から始まりました。今は、社内での適材適所の実現を支援する仕組みがつくれないかと考えているところです。

また人手不足については、本当に人手不足なのかという議論も行われるべきでしょう。たとえば、本来なら機械化、IT化できる部分にあえてマンパワーを費やしているような職場もあるのでは。貴重な労働力だからこそ、より高い成長や付加価値が見込める分野、人間の手作業でなければダメという分野にシフトし、集中させていくという発想が欠かせません。人手不足というけれど、労働市場全体で見ると、人と仕事とのバランスが本当に正しくとれているのかどうか。適材適所やマッチングが十分でないために、職場・職種によっては、仕事量に対して人が足りていないところや、逆に余っているところがあるかもしれません。だからこそ、我々にはやるべきことがあるんです。

ありがとうございました。最後に、今後の展望と抱負をお願いします。

人材ビジネスの新しいあたりまえを発明しても、そのあたりまえをまだ徹底できていないというのが弊社の現状です。たとえばアルバイト向けの求人情報サービスで、成功報酬やお祝い金の仕組みが業界のあたりまえになったかというと、残念ながら、まだまだと言わざるを得ません。正社員向けについても、適材適所やマッチングへの対応が十分にできているかといえば、やはりできていない。あたりまえになるべき新しいサービスを、本当のあたりまえへ定着させていくのがこれからの我々の課題。そこに必要なのは、やはり“しずく”の力でしょう。新しい発想や視点だけでなく、最後は「雨垂れ、石を穿つ」の精神が勝負を分ける。そう肝に銘じて、地道な努力を重ねていきたいと思っています。

株式会社リブセンス 村上 太一さん インタビュー photo

(2014年9月3日 東京・品川区・リブセンスにて)

社名株式会社リブセンス (Livesense Inc.)
本社所在地東京都品川区上大崎2-25-2 新目黒東急ビル5F
事業内容インターネットメディア運営事業
設立2006年

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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