採用に前のめりすぎる企業
「内定後は自社で説得したい」というケースも
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決断を急かしすぎると、辞退につながることも
「入社は来月以降でもいいですが、週明けの研修には絶対に出てほしいんです。非常に大事な研修で、Iさんにとっても入社前に会社の雰囲気を知る良い機会になるはずです」
V社の担当はとても強引だった。どうも人事畑の出身ではなく、事業開発などをやっていた人のようだ。面接、内定、入社承諾、といった流れをあまりわかっていない印象を受けた。大手関連とはいえベンチャーなので、限られた人数でさまざまな仕事を兼務しながらやっているのだろう。それにしても直接Iさんにコンタクトを取られてはまずい。
「人材紹介会社が間に入っていますので、直接の連絡はご容赦ください。私どもが責任を持って入社意思を確認しますので」
「ちゃんと説得してくれるんですね?」
「もちろんです。ただ、最終的にはIさんのご意思が優先されますが……」
人材紹介会社を利用して転職活動を行う人には、企業からの説得を直接受けたくない、という人も多い。熱心な誘いを断るには精神的なエネルギーが必要になるからだ。
V社の担当者には、なんとか人材紹介のシステムを理解してもらい、私がIさんに連絡をとることにした。包み隠さずV社の事情を、Iさんにお伝えする。もしV社のイメージが良かったのなら即決してもかまわないし、先方もそれを望んでいますよ、と。
「うーん。V社も印象自体は悪くはなかったんですが、急いでいるなら、断ってもらえませんか。あまり急いで決めると冷静に判断できないし、やはり第一希望の外資系も受けて、ゆっくり考えてみたいんです」
「そうですか……」
私としてはそう言うしかない。
じっくり探したいIさんを、想像以上に急いでいたV社に紹介した私のミスだった。Iさんはその後、改めて面接を設定したいくつかの企業から内定が出て、そのうちの一社に転職を決めた。
一方のV社には、すぐに紹介できる人材がいないまま、しばらく時間が経過した。そしていつの間にか、ネット上でも求人情報を見かけることはなくなっていた。事業自体もあまり話題にならなかったようだ。Iさんが辞退したのは正解だったのかもしれない。
「急ぎの求人」をもらうと、いつも思い出すエピソードである。
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