職場のモヤモヤ解決図鑑【第89回】
退職金制度って結局どんな制度?
種類や運用の課題を解説
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。昔思い描いていた理想の社会人像より、ずいぶんあくせくしてない? 働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!
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吉田 りな(よしだ りな)
食品系の会社に勤める人事2年目の24才。主に経理・労務を担当。最近は担当を越えて人事の色々な仕事に興味が出てきた。仲間思いでたまに熱血!
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石井 直樹(いしい なおき)
人事労務や総務、経理の大ベテラン42歳。部長であり、吉田さんたちのよき理解者。
会社の“退職金制度見直しプロジェクト(TMP)”のメンバーに選ばれた吉田さん。退職金制度について調べたところ、いくつかの種類があることがわかりました。退職金制度は、従業員の勤続年数を延ばして離職率を下げる効果が期待できるものですが、運用には計画的な制度設計や社会保険・税法上の知識が求められます。退職金制度について、吉田さんと一緒に学びましょう。
退職金制度とは
退職金制度とは、従業員が退職する際に企業から一時金や年金が支給される制度をいいます。退職金には、退職後の生活保障、長年の功績に対する報奨、賃金の後払いという三つの意味合いがあります。退職金制度があることで、優秀な人材が確保できたり、人材が定着したりする効果が期待できます。
退職金制度を設ける法律上の義務はありませんが、大企業をはじめ多くの企業が制度を導入しています。2023年の厚生労働省の調査によれば、企業の74.9%が退職金制度を導入しています。規模別に見れば、1,000人以上の従業員がいる企業の約90%で導入されており、大企業になるほど導入率が上がります。
退職金制度のメリットとデメリット
退職金制度には、以下のようなメリットが期待できます。
【退職金制度のメリット】
- 従業員のモチベーション向上
- 優秀な人材の定着
- 企業イメージの向上
退職金制度は、従業員の「この会社で長く働きたい」「会社に貢献したい」というモチベーションの向上につながります。製造業など、技術の伝承が必要な企業では、従業員の勤続年数が増えることは育成コストの減少や生産性の向上につながります。生産人口が減少する現代において、人手不足解消・労働力確保は多くの企業が抱える課題です。
退職金制度は多くの企業で導入されていますが、業界別に見ると導入率に差があります。電気・ガス・熱供給・水道業のような導入率が9割を超える業界の場合、退職金制度がないことは人材定着にとって大きなマイナスとなってしまうでしょう。逆に導入率が5割に満たない宿泊業・飲食サービス業の場合は、退職金制度の存在が企業イメージの向上や優秀な人材の確保につながります。
一方、退職金制度を導入・運用する上では、考えなければならないデメリットもあります。
【退職金制度のデメリット】
- 企業の財務負担
- 制度設計・運用の複雑さ
- 従業員のニーズとのミスマッチ
企業は、退職金支払いのための資金を確保する必要があります。日本の人口は40~50代がボリュームゾーンで、退職する世代が増えると企業の資金繰りが厳しくなる可能性があります。財務負担をシミュレーションし、適切な制度設計と運用を行わなければなりません。
従業員のニーズとマッチしているかも重要です。たとえば、従業員の勤続年数が短いベンチャー企業では、従業員のニーズと企業の資本力を考えた場合、従業員の業績に対するインセンティブや昇給制度に重きを置くほうが適しているでしょう。組織の成長段階や、事業の将来性を見据えたうえでの制度設計が求められます。
退職金の対象者、退職金の支給額の計算、退職金にかかる税金などは、法律と照らし合わせて決める必要があるため、税金の知識をもった担当者が運用に携わるのが望ましいでしょう。
主な退職金制度の種類
代表的な退職金には、四つの種類があります。それぞれの退職金制度の違いを解説します。
退職一時金制度
退職金一時金制度とは、退職時にまとまった金額を支給する制度です。自己都合や会社都合、定年などで退職した従業員に対して、あらかじめ定められた規定に従って退職金を支給します。全額が一度に支払われることが特徴です。退職一時金制度では、内部留保で資金をためておく場合、引当金が損金計上されないという点に留意しなければいけません。
確定給付企業年金(DB)
確定給付企業年金(DB)は、退職後の給付額があらかじめ確定している制度です。生命保険など外部機関に掛け金を拠出し、資金の管理・運用を行います。退職一時金制度とは違い、掛け金を損金扱いにできるメリットがあります。一方、運用に失敗すると資金が足りず、企業が補填するリスクが発生することがあります。
企業型確定拠出年金(企業型DC)
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、従業員が自ら運用方法を選択できる退職金制度です。企業が外部機関に対して掛け金を拠出し、従業員が運用まで責任を負います。運用の結果に応じて支給額が異なるため、企業は従業員に対して投資教育を行う義務があるとともに、従業員自身にも投資リテラシーが求められます。
確定拠出型と確定給付型の違い
「企業型確定拠出年金」は、会社が拠出する掛金が確定しており、従業員が運用の責任を負います。一方、「確定給付企業年金」は、従業員の受け取る給付額があらかじめ約束されていて、会社が運用の責任を負います。
確定給付企業年金(DB) | 企業型確定拠出年金(企業型DC) | |
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受け取るタイミング | 退職時 | 原則60歳以降 |
受け取れる金額 | 加入期間による | 運用次第 |
運用者 | 会社 | 従業員 |
対象者 | DBを導入する企業の従業員 | 企業型DCを導入する企業の従業員 |
中小企業退職金共済制度
中小企業退職金共済制度は、国が運営する中小企業向けの退職金制度です。掛け金について一部国の補助が受けられるとともに、支払った掛け金は損金計上できます。中小企業退職金共済制度に申し込んだ場合、企業は原則として労働者全員を加入させる必要があります。
退職金制度の導入・運用における課題
退職金制度を導入・運用するうえでの大きな課題となるのが、「制度設計の難しさ」です。退職金制度には、上述したようにいくつかの種類があり、メリット・デメリットがそれぞれ異なります。さらに、支給額の決定方法や支給条件などは自社の状況に合わせて設計しなければなりません。決定すべき事項が多くあり、退職金の原資の確保や支給条件の決定、積み立て方式の場合どのような方法にするのかなど、細かい部分についても相場調査を行いつつ決定する必要があります。決定後は、就業規則に定めなければなりません。
時代のニーズ・従業員・組織・資金原資と、さまざまな要素を勘案して制度を設計する必要があります。運用中の制度変更には多大な労力がかかるため、微調整を随時行うことが難しく、時間をかけて計画的に導入することが求められます。
【まとめ】
- 退職金制度とは、従業員が退職する際に企業から一時金や年金が支給される制度
- 退職金制度には、資金運用を企業が責任を持つもの、従業員が責任を持つものなど、種類によってメリット・デメリットが異なる
- 退職金制度の制度設計は複雑であるため、導入や変更の際は時間をかけて制度設計する必要がある
自分のことだけ集中したくても、そうはいかないのが社会人。働き方や人間関係に悩む皆さまに、問題解決のヒントをお送りします!