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人事マネジメント「解体新書」

新しい採用スタイル「再入社制度」による効果とは(後編)
~企業事例に見る、人材戦略から導き出された「再入社制度」の狙いと効果

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前編」でも見たように、一口に「再入社制度」といっても、そのネーミングはさまざま。「即戦力化」という点で共通してはいるものの、経営戦略や、何よりも人材戦略から導き出された、それぞれの目的は異なる。「後編」では、「再入社制度」を古くから導入している企業と、最近導入した企業を取り上げる。人材戦略を進めていく中で、なぜ「再入社制度」を取り入れることにしたのか、その狙いと制度運用面での工夫や今後の課題など、人事実務面での取り組みを紹介する。

事例A社:イノベーションを期待し、起業経験などのある元社員を再雇用

A社(情報通信サービス)では、2年前から退社後に起業したり、ベンチャー企業へ転職した人材にフォーカスした「再挑戦採用」をスタート。業界を取り巻く環境変化が激しく、新たに事業戦略を推進するためには、イノベーションマインドにあふれた従来の発想にとらわれない人材が求められる。そこで、プロパー社員では得ることの難しい経験を有する元社員にターゲットを当て、再び活躍してもらうことを考えた。

◆人と組織に対する強い「危機感」の下、元社員が再挑戦できる仕組みを導入

A社の属する情報通信サービス業界は、変化のスピードが非常に速い。顧客のニーズも多様化する中、事業を取り巻く環境やマーケットに迅速に対応し、さまざまな価値やアイデアを提供していかなければ生き残っていけない。さらに今後、A社では多様な事業者とコラボーレーションを行う中でサービスを提供する経営スタイルへと転換しようとしており、大きな分岐点に立っている。このような事業環境の下では、イノベーションマインドにあふれ、多様な能力や考え方を持った人が自由闊達に活躍できる職場が不可欠。そこでA社では、人と組織に対する強い「危機感」がある中、元社員を再雇用する制度「再挑戦採用」を立ち上げることを決意した。今から2年前のことである。

ただし、あえて詳細を詰めることをしなかった。決めたのは、同社での勤務実績だけ。A社では3年間を新入社員の育成期間としているが、その期間仕事をした人であれば、それ以外の要件(年齢、役職、退職理由など)は問わない。ハードルを低くすることで、相応の「母集団形成」ができるのだ。また、A社のことをよく分かっている人材が外で経験を積んで再入社すれば、相応の力を発揮してくれると判断したのである。特に職位を決めて採用することは考えていないが、再入社社員として迎える以上、かつての同期社員のトップと同等の職位に就いてもらうなど、それなりの処遇で受け入れている。再入社者に問うのは、自社では得られない社外での経験。年齢は特に明示していないが、30~40代の中堅クラスを想定している。

「一緒に働いた仲間が、外でさまざまな経験を積んだ後、改めて当社だからこそできることに気づき、再チャレンジしたいと思うのであれば、お互いに触発し合える環境が実現できます。そこで、新しい採用チャネルとして「再挑戦採用」を導入しました」(人事担当部長)

◆面接は2回に分けて実施。人事と現場の双方の目線で、バランスを考えた選考を行う

募集は、基本的に「採用ホームページ」を通して行っている。その後「書類選考」を経て、「面接」を一次、二次と2回に分けて行う。面接では、これまでの経験(行動)、またそれをなぜ行ったのかを深掘りして聞き、本人がいま考えていることや想いを把握する。1時間から1時間半をかけて、じっくり行うという。

「一次面接」は、人事課長1名と応募先組織の課長2名の合計3名で実施。まず人事が、応募者の「行動特性(コンピテンシー)」を把握するための質問を行う。次に応募先組織の課長が、どこまで求めているスキルがあるのか、「専門性」を確認する。その結果から、期待するレベルに達していると判断された人が「二次面接」に移る。

二次面接は、人事部門長1名と主幹の部門長2名の合計3名で対応する。ここでは将来、組織のリーダーとなり得るかどうかをジャッジする。人事は「A社としてのあるべき人物像(リーダー)」の目線、そして部門の責任者のシビアな目線により、応募者に事業を任せていく「ノウハウ(経験値)」「リーダーシップ」があるかどうかを確認。このように面接では、人事・現場双方の観点からダブルでチェックを行い、組織としてバランスを考えた選考を行っている。

◆退職後の起業や外でのチャレンジ(失敗)経験に、高い評価を置く

一度、外に出て経験を積んだ人に対しては、新しい事業、サービスのあり方などを考える時、斬新なアイデアの創出や、リーダーシップの発揮といったことが期待される。特に起業するのはチャレンジであると同時に、リスクを伴う行為であり、それだけで大きな価値がある。仮に失敗したとしても、A社では「あえてその経験を買う」と、高く評価している。

「これは起業だけに限った話ではありません。退職した後、どれだけチャレンジをしたのか、どれだけ失敗と成功を繰り返したのか、かつそれにひるむことがなかったか。そうした経験を総合的に判断し、採否を決定します。相応のレベルを要求しますので、無理に数合わせをして採用するようなことはありません」(人事担当部長)

実際に応募した人の経歴を見ると、IT企業やベンチャー企業でプロジェクトマネジャーやシステム開発責任者を担当し、外部での実務経験を積んでいく中で、もう一度A社でスケールの大きい仕事をしてみたくなった、というケースが多い。応募者に共通して言えるのは、外に出たことで、改めて「A社でできていたことが、現在の環境ではなかなか難しい」とよく分かったこと。“古巣の良さ”を再認識して応募した、というわけである。

「終身雇用が根付いている大企業の場合、一度辞めて再び戻って来るのは難しいのではないでしょうか。しかし当社では、そう感じている人が少ないと思います。というのも、外でチャレンジしていこうとする人に対して、「新しい職場で頑張ってほしい」と温かく送り出す社内風土が元々あるからです。戻って来ることに対して抵抗感を持つ人は、ほとんどいません。この制度を利用して、ぜひ再チャレンジしてほしいと思っています」(人事担当部長)

◆応募者を増やしていくために、プロモーションをどう活発化していくかが課題

課題は、現段階での募集が「採用ホームページ」に限定されていること。今後、応募者を増やしていくには、どのようにプロモーションを活発化していくかを考えなければならない。

「現在、退職した人に直接アプローチできる方法を模索している最中です。例えば、辞めた人でも名刺交換などをしてオープンな関係になっている場合は、直接案内します。あるいは、辞めた人の同期の社員から情報を提供してもらう、といったフェース・トゥ・フェースによるアプローチを利用するのも、一つの方法だと考えています。在職中の評判・人柄などをよく知っている同期・同僚、先輩・後輩という関係性の中で、声掛けしていくのが効果的だと思います」(人事担当部長)

このアプローチは、「リファーラルリクルーティング」に似ている。結局、どんな採用手法を使ったとしても、最後は「人による判断(見識眼)」が決め手となることが多いのだ。それなら、いっそのこと信頼できる人からの「紹介」に任せてみるのも、一つの方法だろう。求人サイトなどと違い、リファーラルリクルーティングは、自社の社員の「人脈」を活用することで、人材の質や信頼性を確保し、採用のマッチング精度を高めることに特徴がある。特に、近年ではSNSの発達により、人と人のつながりがネットワーク上で可視化され、人づての採用活動の有用性・効率性が飛躍的に高まっている。

◆「再挑戦採用」は、実は社内向けのメッセージでもある

現在、A社では大きな事業の変革期を迎えており、その変革をうまく成功させ、イノベーションが起きる会社組織にしていきたいと考えている。それを実現する人事戦略としての仕組みの一つが、まさに「再挑戦採用」だ。

「社内においても、そのような制度の思いをいかに浸透させていくかが、重要なテーマとなっています。いま在職している社員がチャレンジングになる、同僚や部下のチャレンジを称賛し、社内の活性化を促し、イノベーションを起こしていく、といったことを期待しています」(人事担当部長)

つまり、「再挑戦採用」は、元社員に再挑戦の機会を提供するという外に向けてのメッセージであると同時に、社内に向けてチャレンジを奨励するメッセージでもあるのだ。失敗することはナイスチャレンジである、というポジティブな風土作りを根付かせていこうという思いがあり、「再挑戦採用」はその象徴的な仕組みなのだ。再入社で入ってくる人がキーマンとなると同時に、事業を進めていくのはその他の大多数の社内の人間。その人達に対して “起爆剤”となることが期待されている。伝統的な企業に対して再入社というメッセージが持つ影響の大きさを、A社のケースはまさに物語っている。

 


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退職理由にかかわらず再入社が可能な「再入社パス制度」
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