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多様化の時代だからこそ大事にしたい
職場における「わがまま」の効用

立命館大学 産業社会学部 准教授

富永京子さん

「言ってくれればよかったのに」という姿勢では意見は出てこない

わがままを言える職場づくりには、管理職の姿勢も問われると思います。

権力を持つ人、つまり「えらい人」になる過程はさまざまな挑戦の連続の結果なので、精神はチャレンジャーのまま、という人もいるのではないでしょうか。だから自分の権力性に気づかないことがある。例えば社会運動も権力に対抗するあまり、内部の組織構造における権力性に気づかない局面がある。例えば欧州の研究では、学歴や専門性が高く年齢も経験も重ねた男性が「暗黙の権力」を持つ傾向にあるとわかっています。

年長の人は「オレはリベラルだから、多様性にも寛容だ」という姿勢でいますから、もちろん若い人や弱い人の意見を聞くつもりでいる。しかし当のマイノリティーは、「わがまま」をそうやすやすとは言えません。言えない・言いづらいからこそ彼らはマイノリティーなのであり、年長の人々が期待するほど、意見は上がってきません。

権力者は常に顔色をうかがわれる存在です。えらい人たちは、それを自覚する必要がある。そして若い人やキャリアの浅い人たちを、自分のミニチュア版だと思って接してはいけません。なぜなら自分が若い頃と比べて、時代背景も社会もまったく変わっているから。自分が考える「ふつう」は通用しないと認識する必要があるでしょう。

従業員からの「わがまま」を、職場改善とは別の視点で生かすことはできるのでしょうか。

社会運動をする人たちは、いわゆる市場経済や資本主義によって、社会問題が利用されることに危機感を抱いています。例えばピンクウォッシュやグリーンウォッシュといった言葉があります。どちらもLGBTQや環境を隠れみのにして、政府や企業が上辺だけを取り繕う様子を表すネガティブな意味を持ち、社会運動の世界では批判的に用いられます。

ただ一方で、「わがまま」によって可視化されたニーズを汲み取ってビジネスにする、社会的企業の認知度も高まっています。おそらく既存の企業においても同様で、社内においてマイノリティーとされる意見や視点から社会全体を捉えれば、これまでにないニーズを獲得できる可能性があります。もちろんネガティブに利用することは許されませんが、CSRやCSVのようなアプローチを模索することは可能といえるでしょう。

「わがまま」がビジネスのシーズになり得るというのは、興味深いですね。

富永京子さん(立命館大学 産業社会学部 准教授)

以前、若い社会運動家の方が、マーケティングやファシリテーションの本も読むと聞いて驚いたことがあります。それとはまた別の話ですが、数年前に、SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)という団体が話題になりました。彼らは政権に異を唱えながらもストリートカルチャーをうまく取り入れ、社会運動に関心がない人たちの目にも新鮮に映った。それは旧来の社会運動からすると、資本主義や市場経済に迎合的に見えるかもしれない。ただ、安保法制をその他の問題から離したことで、人々の注目を集めたとも言える。

社会運動と企業活動は敵対しがちですが、手を取れる部分もあるはずです。以前、学生運動をしていた若い人が、「資本主義に反対する立場である以上、就職したくない」と言ったことがありました。でも労働組合に入る、CSR活動をするなど、企業に入っても社会運動をする方法はいくらでも考えられます。ちょっと「わがまま」を言うことも、立派な社会運動ですから。それが企業や組織にもメリットをもたらすのであれば、素晴らしい関係ですよね。

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この記事ジャンル 組織風土改革

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