大災害が起きた時に社員の安全を守る
人事が知るべき「帰宅困難者対策」とは(後編)[前編を読む]
東京大学大学院 工学系研究科 准教授
廣井 悠さん
企業の存在理由として「帰宅困難者対策」は必要不可欠
企業に受け入れ対応を求めてきた「屋外滞留者」には、どのように対応すればいいのでしょうか。
まず大前提として、先ほども申し上げたように、屋外滞留者を受け入れるかどうかを経営判断として事前に決めておくことが重要です。受け入れると決めたら、備蓄なども含めて、受け入れが可能な人数を決めておき、それを超えた場合は地域内の公共施設や別の対応可能な企業へと誘導する。
ただ、余震による被害が起きた場合の責任の所在について考えると、受け入れる時には、免責事項を記した書類にサインをしてもらうことが必要です。また、立ち入り禁止の区域を決めておき、余震が発生した場合の誘導、高齢者の方への対応、備蓄の配分をどうするかなど、さまざまな配慮・対応も求められます。しかし屋外滞留者に対して、これらを全て行うのは難しいでしょう。そのため、ケーススタディなどを設けて、事前に訓練を実施しておくとよいと思います。
最後に、従業員の安全確保のために動くことが求められる企業の人事担当の方々に向けて、メッセージやアドバイスをお願いします。
帰宅困難者対策は表面的な効果が見えにくく、また社会的な対策でもあるためか、企業ではどうしても後回しになる傾向があります。しかし、これからは地域の中で災害が起きた時、みんなで力を合わせて被害を早急に減らしていく、社会的な対応が強く求められます。特に直下型の大地震が起きた場合、東京などの大都市は大混乱に陥ると考えられます。そうした時にみんなで力を合わせて対応し、人的被害を最小で抑えること。そういうことのできる企業がたくさん生まれることが、リスクマネジメントの観点からも非常に重要です。もちろん、そのような企業の活動を行政が支援することも重要です。
日本は諸外国に比べて地震が多く、それが見過ごせない欠点となっています。だからこそ帰宅困難者対策は、その欠点を埋めるためにみんなで力を合わせて強い都市を作っていくための一つの「試金石」であると言えます。その理想像に向けて、企業の方々にはぜひとも頑張ってほしい。
人事担当者や防災担当者にとって、帰宅困難者対策という新たな課題が出てきたことで、実務的には大変になるかと思います。行政や私たちのような研究機関も、対策に向けてのハードルを下げることに日々努力していますので、企業でもマニュアルの作成や訓練など、最低限の準備をしておいて欲しいですね。
「首都直下型地震」が起きた時、それが平日昼間であれば、間違いなく帰宅困難者は発生します。これは東京という大都市の構造上、なくすことはできません。これまで東京をはじめとした大都市は、人が集まることによる「メリット」を享受してきました。しかし、人が集中していることは、災害時に起きる「デメリット」も同時に内包しているわけです。それがまさに帰宅困難者の問題へと端的に現れています。この問題に企業が責任をもって対応することは、企業の存在理由として、これから必要不可欠な要件になるのではないでしょうか。
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