メンバーが自発的に動き、新たなアイデアが次々生まれる企業へ
ヤッホーブルーイングを変えた、チームビルディング研修とは(前編)
株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長
井手 直行さん
「人は変えられなくても、自分は変えられる」チームビルディング研修での気付き
会社を成長させるには、さまざまなアプローチがあります。井手さんはなぜ「チームビルディング」に取り組まれたのでしょうか。
ネット販売事業で、当時からとてもお世話になっていたのが、楽天市場でした。売上も順調に伸びて、楽天市場の年間MVP賞もいただきました。事業規模が大きくなってくると、一人でできる仕事ばかりではなくなってきます。たとえば、ある程度大きなイベントの際には必ず他のメンバーを巻き込むことになります。ところが、なかなかメンバーの意見がかみ合わない。仕方がないので多数決で決めると、マイノリティー側は面白くないのか、明らかに士気が下がっているのが分かります。
日本のビール文化を変えることをビジョンに掲げておきながら、会社の雰囲気すら変えられていない現状にため息が出ました。働くなら、雰囲気の良い会社の方が楽しいに決まっていますよね。
こうした悩みを他社の楽天市場の店長や経営者仲間に相談した際に勧められたのが、楽天が企業向けに実施しているチームビルディング研修でした。研修を受けた人たちが「自分が変わるし、会社も変わる」と話しているのを聞き、我流で失敗していた僕は、チームビルディング研修なるものに飛び込んでみることにしました。
実際に参加した研修は、どのような内容でしたか。
僕が参加した回には、楽天市場のショップ店長や経営者の方が、全国から14名が集まりました。全5回を3ヵ月間で行うので、2、3週間に1度の頻度で顔を合わせることになります。研修後には、毎回懇親会がありました。
研修は、まず自己紹介から始まります。模造紙に自分の名前、家族構成、趣味、過去の恥ずかしいエピソードなどを書き、自分の興味範囲や世界観を一枚の紙で表現します。この自己紹介を通じて、メンバーは自己開示をするのです。互いのことを知り、距離を縮めていくためには、こうした互いを知る工程が欠かせないことが分かりました。
研修の大枠は、座学とアクティビティーで構成されています。座学では、「チームビルディングとは」「組織作りとは」という内容を教科書的に学びます。そこで学んだ内容を、専門家の監修を受けて組み立てられたアクティビティーを通じて、実践に落とし込んでいきます。
例えばこれは、「張りめぐらされたロープの間にある10個の穴をくぐり、1時間で10人全員がロープの反対側に渡る」というアクティビティー。ただし、くぐる際にロープに触れたり、同じ穴を複数人が通ったりすることはできません。与えられた課題に対する取り組み方は、人それぞれです。ある人はまず作戦タイムを取って、戦略を立て始め、別の人は「とりあえずやってみよう」と言って、ロープをくぐり始めます。その行動に、人間性が表れる。時には意見の違いからもめることもあります。
上の方の穴をくぐるには、ジャンプしたり、くぐる人を持ち上げたりする必要がある。ここで、無神経な人は「体重が軽い順に持ち上げるから、体重を言って」と女性にも体重の自己申告を迫る。そんな言い方をされると「なんであなたに言わなくちゃいけないの」とか、「持ち上げられる時に、あなたに触られたくないです」と不快な顔をする人もいます。
このアクティビティーを通して分かったのは、タイプが違うとゴールまでのプロセスの好みも違う、ということです。男性と女性の視点の違いや、得意分野やキャラクターの違い。互いの特徴を理解すると、この人に戦略を考えてもらって、この人に動いてもらおう、と役割分担をするようになります。そうすると、一見無理に見えていたものが、達成できるようになる。「すごい! これは何だ!」と思いました。全員で力を合わせると、不可能だと思ったことがやれるようになるじゃないか、と。五日間の研修が終わるころには、互いの個性を尊重して、役割を明確にして、目標を定めて、というフローをスムーズに遂行できるようになっていました。
それまで僕は、極端に言えば、世の中にいる人全員が僕みたいな人間だと思っていました。「言いたかったら言えばいいし、人に頼みたかったら頼めばいいじゃないか」と。しかし、世の中には言いたくても言い出せない人や、頼めない人もいますよね。
チームビルディング研修での最大の気付きは、人は変えられないけど自分は変えられる、ということでした。いろいろな性格やキャラクターの人がいることを理解して、目標をみんなで共有し、合意し、そのために働きかける。自分が変われば、特に、会社のトップが変われば、それだけで組織には大きな変化がおこるのではないかと感じました。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。