「共感」「共創」の時代
社員が戦略的・創造的な働き方をするために
人事は何をすべきか(前編)
株式会社ウィズグループ 代表取締役
奥田 浩美さん
社会のなかで何が求められているのかを追求する姿勢が不可欠に
インドの大学院で学ばれたことが、奥田さんの生き方やキャリアに大きな影響を与えたのでしょうか。
そうですね。私のホームページのトップに、「見たいと思う世界の変化に、あなた自身がなりなさい」というガンジーの言葉が出ています。インドでは正解のない2年間を送っていましたし、人との関わり方にも大きな変化がありました。実は私は大学院をビリから2番で卒業したんです。英語も現地語もできない、社会的バックグラウンドも文化的価値も分からないという何重苦のなかで、熱意だけはものすごくあるという私を、クラス全体が支えてくれました。私がこういう論文を書きたいと言ったら、つたない英語を翌日誰かが完璧な英語に直してくれて、さらに他の誰かがタイプで打ってくれる。試験前に泊まり込みで来てくれて、「ここが出るから、とにかく丸暗記しろ」と言ってくれた人もいました。無力感や劣等感をものすごく感じていましたが、それ以上に「人間って頑張る人が好きなんだな」と学びました。どうすれば数多くの協力者を得られるかを学んだのが、インドでの2年間の最大の成果と言えるかもしれません。おかげで、強い意志を持って「皆の力が欲しいんだ」と言える素直さがあれば、人のエネルギーを集められると気づきました。
ますます激動の時代になりつつあります。これからの10年をどう捉えていますか。
私は会社や国といった器が大きく変わっていく10年だと思っています。例えば、「ウィズグループには何人いるのですか」と聞かれると非常に困ってしまいます。社会保険を利用している人は10人もいません。しかし、給料を出している人となると一桁増えます。さらにイベントなどで働いている人まで広げると、もう一桁増えます。固定的に人を雇うのではなく、頼まれた仕事の内容に応じて仲間をその都度増やす。昔の大工の棟梁も、そんな感じでしたよね。昔ながらの仕組みがまた、復活すると思っています。
大きな会社でも、今までのようなピラミッド組織のもとで上下に発注する仕組みはなくなっていくでしょう。すると「会社はなぜ必要なのか」と疑問を持たれるかもしれませんが、会社とはプロジェクトを受けたときに、いざとなったら責任を取る存在になっていく、と私は考えています。それ以外の役割があるとすれば、プロジェクトを回す時のブランドのようなもの。ウィズグループでは数多くの個人事業主やフリーランス、中小企業と組み、一つの集合体で仕事をしています。その名のもとに、同じような未来を作り、意思確認ができる。それが会社なのだと思います。
そうした時代を、どう生き抜いていけば良いとお考えですか。
今後は会社の目標に従うだけの人より、社会が必要とする目標に向かって邁進する人のほうが、どんどん上に行くと思います。逆に「会社の利益を伸ばしましょう」としか言わない人は、エネルギーを下げていくだけです。
私自身は、人のエネルギーをいかに引き出すかをいつも考えてきました。人間のエネルギー量の総和を上げるには、社会の中に何をもたらしているかを明確にしなければなりません。そのほうが人間は幸せに生きられるし、やりがいも出てきます。結果的に、お金も回ってきます。そのことを具体的に示せる会社が、今後は残っていくと思いますね。個人にもそういう生き方、働き方が求められるようになるはずです。
私が行っているプロジェクトは、現在の私の会社の規模では回せないようなものです。二人や三人で、なぜこれだけのプロジェクトを回せるのか。それは、いろいろな自治体や大企業が「共感」してくれて、積極的に関わってくれるからです。言わば、「共創」ですね。私たちは、その人たちにお金を払うどころか、むしろお金をいただいて仕事をしています。皆さんがプロジェクトのスポンサーになってくれているわけです。やりたいことを、お金をもらってやっている。普通とは逆ですが、それでも成り立っている。これこそ、新しい時代の会社の姿ではないでしょうか。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。