チーム作りに必要な“現場で役立つ哲学”とは
組織の力を最大限に伸ばす「原理」について考える(前編)
早稲田大学大学院 客員准教授、本質行動学アカデメイア代表
西條 剛央さん
チームの本質とは何か。どのように作っていくべきなのか
「ふんばろう東日本支援プロジェクト」は、2014年9月に発展的解消を遂げ、資金管理に特化した「支援基金」と各独立団体からなる新たな体制に移行しました。これまでの活動を振り返ってみて、改めて「チーム」とはどういうものだとお考えですか。
「チーム」と似た言葉に「グループ」がありますが、「野球チーム」「サッカーチーム」とは言っても、「野球グループ」「サッカーグループ」とは言いませんね。チームとは単なる集団を超えた、「何らかの目的を実現するために結成されたもの」です。それに対してグループは、「仲良しグループ」などというように、必ずしも目的達成を念頭に置いていません。「グループ/チーム」という対比は、「集団/組織」という言葉に置き換えることができるでしょう。集団とは単なる人の集まりであるのに対し、組織は「何らかの目的を達成するための有機体」なのです。
したがって、チームや組織のリーダーがまずやるべきことは、チーム作りのすべての判断基準になる「目的」を明確にすることです。どういうメンバーが必要で、どのような戦略が有効で、どういうリーダーシップが求められるのか、いずれも「目的」を抜きに考えることはできないからです。目的は全ての判断の起点となるので、末尾に至るまで注意深く明文化する必要があります。明文化できていれば、メンバーは目的を常に意識し、それを基点にそれぞれが判断できるようになるので、自律的なチームを作ることができます。
「目的の明確化」は、「チーム(組織)の理念」にもつながっていきます。それは目的の抽象度を上げて、その本質を象徴的に言い当てたものであり、そのチーム(組織)の目指すべき方向を端的に示したもの。価値観が表明されたものと言っていいでしょう。根本的な価値観が合わない人がうまくやっていくことが難しいように、たとえば、理念に共感して入社した新入社員も、会社の実態が「理念」と真逆であると悟ったら、退職してしまう。だからこそ、リーダーは理念に忠実に意思決定し行動すること、また、それをメンバーに浸透させることが求められます。
「理念」は抽象度が高く概念的なものですが、うまく伝えるにはどうすればいいのでしょうか。
リーダーが「理念」について語るとき、その想いと言葉は借りものであってはいけません。なぜなら、その人が本気で実現する価値があると思えば、その情熱は伝播するし、逆に心の底から思っていなければ、そのことも伝わってしまうからです。
よくダイバーシティが大事だと言われますが、根本的な価値観が同じでなければ、ただのカオスにしかなりません。メンバーの能力のみに目を奪われがちですが、価値観の違いとは、違う価値観のルールブックを持っているということ。同じ価値観に基づくルールブックがなければ軋轢や齟齬が生じやすく、チーム全体のエネルギーが削がれてしまい、チームは機能しなくなってしまいます。価値観を同じくする多様な個性や能力を持つ人を集めた“理念に基づくダイバーシティ”こそ、チームを作る上での戦略的指標とすべきでしょう。
「理念」と似た言葉に「ビジョン」がありますが、どういった点が違うとお考えですか。
「ビジョン」とは、組織が目指すべき将来像をスケッチした“下書き”と考えればわかりやすいでしょう。下書きがあれば、みんなそれぞれが、ビジョンの具現化に向かって自律的に活動していくことができます。特にその下書きが魅力的なものであればあるほど、人はその実現のために協力したいと思うようになる。リーダーは組織の目的を達成したときに、何が具現化するのか、社会はどうなるのか、人々に何をもたらすのかを含めて、ビジョンを伝えることが大切です。
ビジョンには、理念に近く組織が目指すべき大きな方向性として機能する“ビッグビジョン”と、より具体的な“個別ビジョン”があります。この二つを分けて考えるとビジョンを立てやすくなります。いずれも鮮明にイメージできるものほど、実現に向けて多くの人が自律的に動きやすくなるので、ビジョンを作る時はその点を意識するといいでしょう。
「ふんばろう東日本支援プロジェクト」のビッグビジョンは、「この悲惨な出来事を肯定することは決してできないが、あのことがあったからこんなふうになれたと思うことはできる。それがぼくらが目指すべき未来なのだ」というものでした。もともと、東日本大震災の五日後に私自身が前に進むために書いたものですが、プロジェクトを運営するにあたっては、折に触れてこの言葉をメンバーと共有し、長期にわたり活動を続けていく上での大きな推進力となりました。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。