効果的なグローバルベネフィットファイナンス
~国際プーリングについて~
ウイリス・タワーズワトソン シニアマネージャー ヘルス&ベネフィット部門 三橋 健司氏
インフレや従業員の医療機関の利用増加により、世界各国で医療費・保険コストが上昇している中、グローバル企業において、保険コストのコントロール・抑制は喫緊の課題となってきています。 本稿では数あるグローバル・ベネフィット・ファイナンスのうち、国際プーリングについて詳しく紹介します。
高まるグローバル・ベネフィット・ファイナンスの必要性
WTWが毎年実施する世界の保険会社を対象にした医療保険動向調査*によると、広範なインフレと従業員による医療機関の利用増加により、世界の医療費の増加予測は約15年ぶりの高水準に達していることが明らかになりました。
この調査に参加した保険会社の4分の3以上(78%)が、2023年から今後3年間において、保険料の値上げ、または大幅な値上げを予想しており、緩和される見込みはほとんどないと考えています。
*グローバルメディカルトレンドサーベイレポート2023
国際プーリングとは
国際プーリングとは、グローバル・ベネフィット・ファイナンスの一つの手法で、海外の現地法人が利用している生命保険、医療保険、傷害保険などの従業員向け団体保険に関する保険契約を、全世界に広がる保険会社の仮想的ネットワークに保険料を「プール」し、グローバルなスケールメリットを活かしつつ、2次的に保険収支を評価することにより、国際配当の還元や、保障内容の改善効果を図ることができる仕組みです。
下の図は、国際プーリングの仕組みを表した図です。国際プーリングは、2つのレイヤーの契約から成り立っています。1つは、現地子会社と現地保険会社間での保険契約です。もう1つは、日本本社とPooling Provider間で締結するPoolingの契約です。
国際プーリングに保険契約をプールするためには、各国現地の保険契約はPooling Providerのローカルパートナーの保険会社が保険者となる必要があります。
Pooling Providerとは国際プーリングを提供している事業体のことで、世界各国の現地保険会社とパートナー契約を結び、保険ネットワークを構築しています。
国際プーリング導入のメリット
国際プーリングを導入し、収支バランスの取れたプーリングを構築することで、保険料の5%~10%程度の国際配当が本社あるいは海外子会社へ支払われ、間接的にコスト削減が実現できる可能性があります。※国際プーリングの収支状況に依るため、国際配当を必ず保証するものではないことは注意が必要です。
国際プーリングの導入は、コスト削減だけではなく、以下の通り現地法人や本社に対して、様々なメリットをもたらすことが期待できます。
現地法人に関するメリットとして、それぞれの国の法律や制限に抵触しないことを前提に、コロナウイルス等の感染症やLGBTQパートナーへの保障提供等、現地の保険ではカバーできないような保障を、各国の従業員に提供をした事例もあります。
一方、本社のメリットとしては、国際プーリング導入を進める段階から、各国の福利厚生制度や保険会社、保険料、収支状況などの詳細情報が把握でき、導入後も定期的に提供されるレポートを通じて各国現地の福利厚生制度の状況をアップデートすることが可能です。(ガバナンス体制の強化)
その他のメリットの一部として、以下が挙げられます。
<現地法人のメリット>
- 現地法人への国際配当提供の可能性
- 契約条件が改善の可能性(交渉力の増大)
- 保障内容の改善の可能性
- 現地の保険料引き下げの可能性(特定の保険会社に集約することで交渉力が増大)
<本社のメリット>
- 海外現地法人の福利厚生の把握(ガバナンス体制の強化)
- 世界的に特定の保険会社に集約することにより、保険会社に対する交渉力が増大
- 全世界で統一の福利厚生ガイドラインの構築
- 導入に別途費用はかからず、法人登記・認可等も不要
- 事務作業の効率化
国際プーリングの種類①
国際プーリングには、2つの主要な形態と名称があります。
1つ目は、1つの企業のみの保険契約で構成されるプーリング、これはSingle-Employer Pooling(※)と言われています。1社単独のプーリングであるため、制度内容やリスクの許容度に関して柔軟に対応が可能です。
2つ目は、自社だけではなく、複数の他社保険契約をプールに入れて管理する方法。これをMulti-Employer Pooling(※)と呼んでいます。
Sigle-Employer Poolingと比べ導入条件が容易であるためPoolingの導入がしやすいのが特長です。一方でPooling制度内容の柔軟性はSingle-Employer Poolingと比べ低くなります。
(※Pooling Providerによって名称が異なります。)
国際プーリングの種類②
企業のリスク許容度に応じても国際プーリングの仕組みが異なります。
下の図は、企業のリスクとPooling Providerの運用コストを図式したものです。
一般的に、企業のリスク負担が低いほど、プーリング運用コストは上がり、反対に、企業のリスク負担が高いほど、プーリング運用コストは下がります。
Stop Lossは、1年ごとに収支を精算する方法です。1年間の保険料収支がマイナスになった場合、Pooling Providerがマイナス収支を負担します。Pooling Providerはマイナス収支を見越してリスクチャージを備える必要があるため、運用コストは上がります。
Loss Carry Forwardは、マイナス収支になった場合、マイナス分を翌期に繰り越していくことが出来る方法です。
Loss Carry Forwardは、3年や5年などの期間を区切る方法と、期間を持たずに繰り越す方法があり、累積した赤字リスクを負担する期間を設定することが可能です。
Captiveは、国際プーリングとは異なるリスクファイナンスの仕組みで、企業が自社の保険会社を持ち、リスクを保有する方法です。
Pooling Provider | カバー可能な 国(地域)の数 |
日本におけるパートナー |
---|---|---|
AIA | 20 | 日本生命 |
Allianz Global Benefits | 82 | 明治安田生命 |
Generali GEB | 125 | 大樹生命 |
IGP | 77 | 第一生命 |
Insurope | 82 | 朝日生命 |
MAXIS GBN | 101 | メットライフ生命/ アクサ生命 |
Swiss Life Global Solution | 87 | 明治安田生命 |
Zurich Global Employee Benefits Solutions | 146 | SOMPOひまわり生命 |
現在、世界には8つのPooling Providerが存在します。Provider毎に特徴や注力分野がことなるため、ネットワークの規模だけではなく、自社の福利厚生戦略を反映することが出来るProviderを、見極めることが重要になってきます。
国際プーリング導入の流れ
国際プーリングの導入は、大きく分けて4つのステップがあります。
第1のステップは「データ収集」です。各現地法人で契約をしている福利厚生関連の保険契約のデータ、特に保険会社名、商品の種類、保険料、収支等のデータを収集します。できるだけ多く、正確な情報を収集することが国際プーリング導入の第一歩となります。
第2のステップは「データ分析」、第1ステップで収集したデータを纏め、国際プーリング導入の可否等について分析します。
第3のステップは「Providerの比較推奨」を行います。WTWでは、国際プーリング設置可能なPooling Providerへ、国際配当やコストのシミュレーション依頼や、企業のニーズに合ったPooling Providerの比較推奨を行います。
最後の第4ステップは、Pooling Providerと国際プーリングの契約を締結し、国際プーリングを導入します。
- データ収集(3つの方法選択)
- Pooling Providerがパートナー保険会社の有無を調査
(パートナー以外の保険会社の契約は確認できないという制限有) - WTWが各国の保険契約を調査(別途手数料発生)
- お客様が主体となり保険契約を調査
- Pooling Providerがパートナー保険会社の有無を調査
- データ分析
- 収集したデータを基にPooling Provider毎の保険料を纏める
- 国際プーリングが設置可能であるPooling Providerの見極め
- Providerの比較推奨(WTW)
- 分析したデータを基に各Pooling Providerへ国際配当金等のシミュレーションを依頼
- 各Pooling Providerのシミュレーションを纏め、Pooling Providerの比較推奨
- 導入
- Pooling Providerを選定し契約をする。国際プーリングを導入
- まずはNatural Pooling(ナチュラルプーリング)*という方法で導入することも可能
*Natural Pooling とは、現地子会社の既存の保険契約をPooling ProviderのPartner保険会社が引き受けている場合、既存の契約をそのままプールする方法です。
各国現地の保険契約に関するデータを収集することが出来れば、比較的容易に国際プーリングを導入することが可能です。
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