大手企業のタレントマネジメントに関する実態調査(2020)
パーソル総合研究所
調査名 | パーソル総合研究所 「大手企業のタレントマネジメントに関する実態調査(2020)」 |
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調査内容 | グループ企業の親会社ポジションにある大手企業のタレントマネジメントについて、量的調査では把握しづらい具体的な取り組み実態を明らかにする |
調査対象 | グループ企業の親会社ポジションにある大手企業 21社(五十音順) ウシオ電機株式会社、エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社、王子マネジメントオフィス株式会社(※)、サッポロホールディングス株式会社、株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション、J.フロントリテイリング株式会社、株式会社商船三井、昭和電線ホールディングス株式会社、全日本空輸株式会社、セイコーエプソン株式会社、ソフトバンク株式会社、第一生命保険株式会社、テイ・エステック株式会社、東京エレクトロン株式会社、豊田通商株式会社、日本郵船株式会社、パーソルホールディングス株式会社、株式会社ミスミグループ本社、三菱ケミカル株式会社、ヤマハ発動機株式会社、株式会社ユナイテッドアローズ ※王子グループ全体の人材マネジメント機能を管掌 |
調査時期 | 2020年5月25日~10月6日 |
調査方法 | 人事責任者/人事企画責任者に対するヒアリング調査 ・1社あたり60~90分 ・調査対象一覧に社名を公開するが、伺った内容と個社名をひもづけて掲載しないことを条件に協力いただいた |
調査実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
はじめに
パーソル総合研究所は、かねてより重点テーマのひとつとして「日本型タレントマネジメント」の調査研究に取り組んでいる。2019年に当社が実施した「タレント・マネジメントに関する実態調査」では、すでに用語としての「タレントマネジメント」は人事部門に広く認知され、およそ半数の企業は「戦略事業のリーダー」や「戦略的ポジション」を担う人材のタレントマネジメントに取り組んでいることが明らかになっている。
一方で、各種施策の実効性については「効果あり」とする企業は3分の1程度にとどまり、約半数の企業は「どちらともいえない」との回答で、多くの企業にとってタレントマネジメントの実践はいまだ手探り状態であると思われる。
一口にタレントマネジメントといっても、その定義は多様であり、匿名のアンケートや量的調査だけでは取り組みの実態や具体論は見えづらい。業種・企業形態や従業員数、さらに各社の方針や背景によって取り組みが異なることも想定される。そこで、今回は調査対象をグループ企業の親会社ポジションにある大手企業に絞り、人事責任者/人事企画責任者にタレントマネジメントの具体的取り組みに関するヒアリング調査を行った。
調査の粒度
タレントマネジメントの具体的取り組みを明らかにするため、例えば「次世代経営人材の発掘・育成」については次の粒度でうかがっている。
- 対象ポジションについて
- サクセッションプランとの関係について
- 人材プールの人数と構成について
- 人材プールの選抜基準について
- アセスメントについて
- 上司推薦について
- プール人材の年齢層について
- 人材プールの決定について
- タレントマネジメントの専門委員会について
- タレントマネジメントの常設組織について
- 人材プールの更新について
- プール人材への情報開示について
- 人材プールからの登用について
- 人材プールと選抜教育について
さらに「戦略ポジション人材の発掘育成」、「中間層人材の適正配置」などについてもヒアリングを行っている。各社の取り組み内容やヒアリング時間等の関係で必ずしもすべての会社に全項目をうかがうことができたわけではないが、可能な範囲で各項目の集計とコメントの収集・整理を実施した。
調査結果(全体サマリ)
【Ⅰ】タレントマネジメントの主要テーマの優先順位と取り組みスタンス
調査結果の細目に入る前に、まず、「図1.タレントマネジメント・ポジショニングマップ」で主要テーマの優先順位と取り組みスタンスをイメージしていただきたい。
- タレントマネジメント推進の基本的な優先順位は過去2017年~2020年、今後2020年~2023年とも「次世代経営人材の発掘・育成」が第1位
- 「次世代経営人材の発掘・育成」に次いで「戦略的ポジション人材の発掘・育成」、「中間層人材の適正配置」の優先度が高い
- 各テーマへの取り組みスタンスは各社の経営環境や方針を反映しており、必ずしも一様ではなく、縦横2×2のマトリクスで整理できる
主要テーマの優先順位
図1の上段は、主要な取り組みテーマと優先順位を表している。過去2017年~2020年、今後2020年~2023年とも取り組みテーマの優先順位第1位は「次世代経営人材の発掘・育成」である。
それに次ぐものは「戦略的ポジション人材の発掘・育成」と「中間層人材の適正配置」であるが、今後3年間については戦略的ポジション人材の優先順位が上がってきている。図にフェーズ1・2・3と表示してあるように、人事戦略上の優先順位としてはほぼこの順序に従ってタレントマネジメントを進めようとしているとみてよいだろう。
「次世代経営人材の育成・発掘」は、これまで3年といわず長期間取り組んできて施策が軌道に乗ってきている、一定の効果が出始めているという声がある。そのためか、「次世代経営人材の育成・発掘」を今後3年間に向けて優先順位1位に挙げる会社の割合はやや減り、その代わりに、事業構造改革の要請を受けて「戦略的ポジション人材の発掘・育成」の優先度が上がってきているという流れだ。
また、経営人材・戦略ポジション人材のような選抜人材だけではなく、全員型タレントマネジメントに向けて従業員の大多数を占める中間層の人材の適材適所・適所適材も大きなテーマであり、従業員のキャリア志向の高まり、エンゲージメント重視の中で今後さらに注力度を上げていきそうだ。
主要テーマの取り組みスタンス
図1の下段は、各テーマに対する取り組みスタンスを表している。取り組みテーマの優先順位については基本的な優先順位はほぼ共通で、各社のタレントマネジメントの進捗度合いに応じて現時点での注力度合いに濃淡がついている様子だったが、各テーマへの取り組みスタンス、重点施策の内容は各社の経営環境や方針を反映しており、必ずしも一様ではない。
ここでは各テーマに対する取り組みスタンスを、それぞれ縦×横の2軸のマトリクスで整理した。例えば、「次世代経営人材の発掘・育成」については、縦軸「サクセッションプラン型」か「中長期育成投資型」か、それを横軸「本体」(親会社)の人材を対象に行っているか、「グループ横断」で行っているかの組み合わせで分類している。
各社のタレントマネジメントに対する取り組みスタンスは、これら3つのマトリクス上のポジションの組み合わせになる。
【I-1】「次世代経営人材の発掘・育成」への取り組みスタンス
「図2.次世代経営人材の発掘・育成ポジショニングマップ」は「図1.タレントマネジメント・ポジショニングマップ」の左下のマトリクスに簡単な説明を加えてある。
- 次世代経営人材プールはサクセッションプラン型と中長期育成投資型に分かれる。Ready Now層は指名委員会で行い、社内推進では若年層の中長期育成を強化していく流れもみられる
- グループ横断には、教育→グループ間配置→人材発掘という発展段階がある。国内主要子会社間での異動配置が徐々に活発化してきたというあたりが標準的なポジションである
まず縦軸。各社にヒアリングを行ったところ、ポジションにプール人材をひもづけてサクセッションプランを強く意識する会社と、ポジションとのひもづけを行わず中長期的育成に重点を置く会社とに分かれている。
単純集計では人材プールが個別ポジションとある程度結びついている会社が多いが(11/16社)、ごく一部の例外的ポジションを除けば実質的には中長期育成投資型の会社のほうが多い印象である。
サクセッションプラン型の場合は人材プールをレディネスの程度によって「Ready Now、Ready 3-5y、Ready 6-9y」等に区分する場合が多く、中長期育成投資型の場合は人材プールを30代半ば前後の若手中心に形成し、ポテンシャルの程度によって「VIP、HIPO(ハイポテンシャル)、FastTrack」などに区分する傾向がみられる。また、Ready Nowを中心としたサクセッションプランは別建てにして指名委員会で行っているという回答も複数あった。
この縦軸については、優先順位としてはポストに紐づけたReady Now層が優先だろうが、サクセッションプランとして次世代、次々世代の人材プールを形成できるか、また、次々世代層になると必然的に中長期育成投資的になるので、サクセッションプランか中長期育成投資かという二者択一ではなく、Ready Now層を押さえつつ、どこまで中長期的対応を行っているかという見方になるだろう。
次に横軸。タレントマネジメントの対象範囲を本体中心としているか、グループ横断的に行っているかだ。もちろんグループの態様によるところも大きく、持株会社であればグループ横断的な色合いが濃くなるが、親会社の主要事業を分担する形でグループを形成しているような場合は対象が親会社の総合職中心になる傾向がある。
一口に経営人材の発掘・育成をグループ横断的に行うといっても、その取り組みには次の3つの段階がある。
- 教育:何らかの形でグループ会社社員も参加できる経営人材・次世代経営人材教育研修を行う会社は多いものの、各社とも教育研修を行っているからといってタレントマネジメントにグループ横断で取り組んでいるという認識ではないようだ。
- グループ間での配置:まだ各事業部門や各グループ会社での人材の抱え込み、いわゆるサイロ化に苦慮する会社が多く、グループ横断での取り組みとしては、育成・活用の両面を視野に入れた経営人材(候補者を含む)のグループ間配置が当面の重点課題といえそうだ。親会社から子会社への経営人材派遣に加え、主要子会社間での異動配置が徐々に活発化してきたというあたりが標準的なポジションである。
- 人材の発掘:経営人材の発掘については、持株会社を除くと、実質的に親会社の総合職が対象になっているケースが多く、グループ会社プロパーからの発掘はまだまだこれからといった状況のようだ。
この横軸については、本体に対象を限定するよりはグループ横断のほうが望ましいという見方ができる。さらに、グループ横断には、教育→グループ間配置→人材発掘という発展段階があるといえそうだ。
【I-2】「戦略的ポジション人材の発掘・育成」への取り組みスタンス
「図3.戦略的ポジション人材の発掘・育成ポジショニングマップ」は「図1.タレントマネジメント・ポジショニングマップ」の中央下のマトリクスに簡単な説明を加えてある。
- 次世代経営人材の発掘・育成が軌道に乗りつつあり、戦略的ポジションへの注力度が高まっている
- 多くの企業が事業構造改革に伴う新規事業関連の高度専門的ポジションを戦略的ポジションとして定めている
- 多くの企業が戦略的ポジションを担う高度専門職の処遇の見直しを進めており、キャリア採用とセットで推進している
戦略的ポジションを特定している会社が11/18社。タレントマネジメントの主要テーマとして、戦略的ポジションへの取り組みが鮮明になってきている。
縦軸は、どのようなポジションを戦略的ポジションと定めているか。事業系のスペシャリストポジションを挙げる会社が多いが、CxOのサクセッサーになり得る財務・法務・人事などのスペシャリストポジションを挙げる会社もある。
CxO系については次世代経営人材と重複するという見方もあるが、今後ますます高度な専門性を要求されるようになるという認識が高まっている。
横軸は、戦略的ポジション人材をどのように確保するかだ。事業系スペシャリストについては、新規事業に関わる企画や研究開発、DX(デジタルトランスフォーメーション)など、いま自社にいない種類の人材を想定している会社が多く、キャリア採用によってそれらの人材を確保しようとしている。
キャリア採用と同時に高度専門職の処遇の見直しも進んでいる。運用による個別対応(2/12社)よりも、ジョブ型人事制度やフェロー制度などによる制度対応(10/12社)を行う流れのほうが明確になっている。
これは、戦略的ポジションを担う高度専門人材需要が一過性のものではなく今後も続く、増加していくとの想定によるものだと思われる。ただ、各社とも、いま自社にいない新規事業企画やDX人材をキャリア採用しようと処遇の見直しを行ったなど、同様の動きになっているため、実際にそれらの人材を確保できるかどうかはこれだけでは決まらず、高度専門職処遇の見直しは必要条件のひとつに過ぎないと思われる。
なお、CxO系についてはキャリア採用、内部育成両方の動きがある。
戦略的ポジション人材の発掘・育成については、多くの企業がポジショニングマップ上の右上(事業系スペシャリスト×採用志向)に軸足を置いている。その軸足を確認した上で、そのほかのポジション、事業系スペシャリストの育成、CxO系スペシャリストの育成・採用にどう目配りしていくかということになろう。
【I-3】「中間層人材の適正配置」への取り組みスタンス
「図4.中間層人材の適正配置ポジショニングマップ」は「図1.タレントマネジメント・ポジショニングマップ」の右下のマトリクスに簡単な説明を加えてある。
- 従来型のジェネラリスト/マネジャー育成指向に対し、専門分野を持つジョブ型人材育成指向が高まっている
- 人材データを充実させ職務要件とのマッチング精度を上げようという動きと、中間層人材については社内公募などの「手挙げ」を重視していこうという動きがあり、手挙げ重視の動きに要注目だ
社員の大多数を占める中間層人材の育成・配置については、ジェネラリスト/マネジャー育成指向の会社と明確な専門分野を持つジョブ型人材指向の会社に分かれる。今回の調査対象には伝統的大企業も多く、若年層については10年間に3回程度のローテーションを通じてジェネラリスト/マネジャーを育成しようという考え方も根強いが、職種別採用の導入やジョブ型人事制度への改定などジョブ型人材への関心が高まっている。
この動きに伴い、横軸の中間層人材の適正配置へのアプローチ方法が注目される。タレントマネジメントといえば職務要件を明確にするとともに人材データを充実させ、職務と人材のマッチング精度を上げていくというイメージが強いが、中間層人材は人数も多く、詳細な人材データの収集・分析・管理には相応のコストがかかる。
ジョブ型指向とともにエンゲージメント重視やキャリア自律促進の流れもあって、会社主導で職務と人材をマッチングさせるのではなく、社内公募制など従業員自身の「手挙げ」によって適材適所・適所適材を実現していこうという徴候が顕著に現れてきている。
全体では人事異動端緒の頻度1位が異動先部門ニーズである会社が多い(11/18社)ものの、社内公募への応募などの本人ニーズが1位である会社も5/18社と3割近くに達している。中にはメンバー層の異動はほぼ100%手挙げで行っているという会社もあり、中間層人材については今後さらに手挙げによる異動が増えていくと思われる。
一方で、特に多拠点型の業種においては、各拠点への要員配置の必要上、異動配置の柔軟性を確保しておきたいとの意向も強く、手挙げとどう整合させていくかが課題になりそうだ。
調査結果(項目別サマリ):「タレントマネジメント関連テーマの優先順位」
【II-1】過去2017年~2020年の取り組みの優先順位
- 「次世代経営人材発掘・育成」を優先順位1位に挙げた会社が6割超(13/21社)
- 次世代経営人材についてはコーポレートガバナンスコード対応、経営トップの要請を契機に比較的長期間取り組んできており、軌道に乗りつつある
過去2017年~2020年の取り組みの優先順位1位は、「次世代経営人材の発掘・育成」が6割超を占める。「コーポレートガバナンスコード対応をきっかけに、ガバナンス改革=経営改革と位置づけ、その最後の仕上げが経営人材育成。経営トップが強い意志で旗を振り、タレントマネジメントを推進した」とのコメントからもわかるように、コーポレートガバナンスコードと経営トップの要請がキーワードになっている。
また、「ほかのテーマより早くから取り組んできており、道筋ができている」、「効果が上がっている」との声がある。具体的には、「若手選抜研修の初期の受講者から執行役員に登用される者が出てきている」、「(人材プール形成を通じて)40代前半での事業責任者登用など若手の抜擢が進み、かつての登用スピードを取り戻した」、「(次世代経営者育成に向けた)会社/部門横断的な配置が進んできた」などだ。
なお、今回は調査報告対象を親会社ポジションの会社に絞っているが、調査過程では調査対象企業として列記した会社のほかに子会社ポジションの会社にもヒアリングを行っている。子会社ポジションの会社の場合は経営人材発掘・育成機能を親会社に委ねている、もしくは親会社主導で行っているケースが多々あり、タレントマネジメントの取り組み範囲が大きく異なるようだ。
また、「この3年はジョブ型人事制度への移行を進めており、それと並行して、ここ1~2年でスピードを上げてタレントマネジメントに取り組んできた」、「傘下の主要事業会社の人事プラットフォームを統一し、管理職層の人事制度を職務職責に基づくかたちに改編した」など、タレントマネジメントの地ならしの意味も含め人事制度改革に最注力してきたとのコメントも複数あった。
【II-2】今後2020年~2023年の取り組みの優先順位
- 引き続き「次世代経営人材発掘・育成」を優先順位1位とする会社が多い(9/16社)が、優先度はやや下がっている
- 「次世代経営人材育成・発掘」が軌道に乗りつつあり、「戦略的ポジション人材の発掘・育成」の優先度が高まっている
引き続き「経営人材は経営の要請として優先度が高い」が、「ある程度機能してきているので、次は戦略的ポジション人材に重点的に取り組む」とのコメントが目立つ。喫緊の経営課題として事業構造転換を掲げる会社が多く、主として新規事業に関わる戦略的ポジションを担う人材の発掘・育成の優先度が上がっている。各社において戦略的ポジションの特定や高度専門人材の処遇の見直し、キャリア採用などの取り組みが進んでいる。
過去2017年~2020年に比べ、「適材適所・適所適材の配置」を挙げる会社が減っている。「戦略的ポジション人材の発掘・育成」を「適材適所・適所適材の配置」より重要度・緊急度が高い課題として捉えるとともに、中間層人材については会社主導の異動配置よりも本人意向を尊重した手挙げによる異動を重視しようとの流れがあると思われる。
調査結果(項目別サマリ)「次世代経営人材の発掘・育成」
【III-1】グループ展開の範囲
- 次世代経営人材の発掘・育成をグループ横断で行っている会社が7割(14/20社)
- 次世代経営人材教育は比較的幅広く行われているが、人材発掘をグループ横断で行っている会社は少ない
「経営人材についてはグループ会社百数十社横断でタレントマネジメントを行っている」、「国内グループ会社数十社、海外数十社のうち国内会社はほぼ本体の取り組み対象に入っている」、「グループ会社300社のうち約100社の総合職を対象にしている」など、7割の会社がグループ横断的にタレントマネジメントに取り組んでいる。
内容としては、教育、グループ間配置、人材発掘に分かれ、教育については海外グループ会社も含めた横断的取り組みが広がっているが、グループ間配置については各社でかなり濃淡があり、持株会社ではなく事業会社の場合、従来から行っている本体からの経営人材派遣に加え「主要グループ会社間での人材交流を始めた」というあたりが標準的ポジションと思われる。グループ会社からの人材発掘については、未着手の会社も散見される。
一方、基本的に本体の人材を対象にしているという会社は、「基本的に本体が対象だが、教育は海外含めグループ会社統一で行っている」、「実質的には本体が対象。教育はグループ横断で行っているが、人材配置の面ではノータッチ」、「人事部門は基本的に本体の総合職が対象。グループ会社のプロパー人事には関与していない。グループ会社の事業をみている別部門があるが、どの程度管理する必要があるのか、社内で議論がある」など、グループ間配置を行うかどうかがグループ横断のタレントマネジメント実施状況の指標になっている。
【III-2】次世代経営人材プールの対象ポジション
- 役員・事業責任者への登用をターゲットにした人材プールを形成している会社が75%(12/16社)
役員・事業責任者への登用をターゲットにした人材プールだけを形成する会社、それに加え上級管理職/初級管理職と3つのレイヤーの人材プールを形成する会社など、いくつかのパターンがあるが、従業員を対象とする人事制度の範疇を超えて次世代経営者育成を進めている会社が75%(12/16社)であり、タレントマネジメントの最優先テーマとしての取り組みが進んでいる。
【III-3】サクセッションプランとの関係
- 人材プールが個別ポジションとある程度結びついている会社が6割強(11/16社)
人材プールとポジションが結びついているサクセッションプラン型が多いようにみえるが、「専門分野が明確な人はサクセッションプランとしてポジションにひもづき、緩やかな場合は営業系ポジションなどといった感じになっている」とのコメントが多く、実態として大半はタイトなサクセッションプランというかたちではない。
「サクセッションプランは別途作成しており、プール人材は今後10年間の育成を視野に入れた上での将来に向けた育成人材との位置づけにしている」とのコメントにあるように、人材プールを明確に中長期育成投資と位置づける会社もみられる。
【III-4】人材プールの人数と構成
- 役員・事業責任者を対象にした人材プールの人数はポジション数の2倍程度(10/15社)
サクセッションプランとして各部門が後継者推薦を行うパターンを除くと、人材プールの人数や構成は必ずしもポジション数との関係を意識したものではない。人材プールの中はレディネスの程度によって区分するパターン(下記a)が多いが、中長期育成投資型人材プールの場合はポテンシャルの程度による区分(下記b)や、年齢による区分もみられた。
a. レディネスの程度によって「Ready Now、Ready 3-5y、Ready 6-9y」等に区分するもの
b. ポテンシャルの程度によって「VIP、HIPO、FastTrack」等に区分するもの
【III-5】人材プールの選抜基準
- 人材プールの選抜基準としては「これまでの業績」が優先順位1位(10/18社)
- 優先順位1位から3位の合計では「将来性(バリュー・コンピテンシー)」(14社)も「これまでの業績」(15社)とほぼ同数
「これまでの業績やキャリアは、選抜基準として外せない」、「ポテンシャル×パフォーマンスの4象限で考えた場合、ポテンシャルはあるがパフォーマンスがいまひとつである人材は、救えない感がある」との声はあるものの、将来性を評価したいとの意向は強い。将来性とアセスメントとの合計を優先順位2位以上で見ると業績と同数、優先順位3位以上では業績よりも多くなる。
ただ、将来性を何で測るかというと「コンピテンシー項目を社内で評価している」、または「長期間のローテーションの中で複数の上司が観察している」というかたちであり、各社とも課題感が大きい。
【III-6】アセスメント(適性検査)の活用状況
- アセスメント(適性検査)を実施している会社は7割(14/20社)
- 用途としては選抜よりも育成・配置の参考にしている傾向(9/14社)
ほとんどの会社でアセスメントの実施対象はプール人材候補の一部などに限定されており、「実施範囲が狭く、客観的データをどこまで信用するか、まだ踏ん切りがつかない」という声が聞かれる。アセスメントを積極的に実施・活用しようとする会社は、「客観的データのニーズは大きい」、「トップの理解がある」、「アセスメントは自分が受けてみないと見方が分からないので、まず執行役員全員に実施し、順次、下の階層に広げている」とコメントしている。
一方、アセスメントを検討していない会社は、「適性は長期間のローテーションを通じて複数上司の目で観察できていると考えている」とのことだ。
【III-7】上司推薦の重視度
- 上司推薦をプール人材選抜の優先順位1位とした会社がおよそ25%(5/19社)
- サクセッションプラン型運用の場合、上司推薦の重視度が高くなる
上司推薦は、部門判断をどの程度尊重するかという指標でもある。各部門が重要ポジションのサクセッサーを2~3名リストアップするというような運用の場合、「基本的に横串の全社調整は行わず、各部門推薦をもって人材プールとする」例も見られる。一方、中長期育成投資型人材プールの場合は、横串審査・選抜指向が強く、中には「上司推薦は重視しておらず、基本的には考慮しない。将来においてはほとんど見ないようになるのでは」とのコメントもあった。
【III-8】プール人材の年齢層
- 人材プールの年齢層をコントロールする会社と、しない会社は半々
- 中長期育成投資型は年齢層をコントロールし、30代半ば前後の若手で次世代経営人材プールを形成する傾向にある
中長期育成投資型の会社の役員候補経営人材プールの年齢層は、「30代半ば~40代半ば。普通に選ぶと50代が多くなるが、人材プールは育成目的であり、育成の伸びしろを重視して意図的にこの層にしている」とのコメントが典型的。最も若い例では「本体役員やグループ会社社長に40代前半で就任するとした場合の逆算でプール人材の年齢を考えており、20代~30代前半の若手HIPO人材をピックアップしている」という会社もあった。
一方、サクセッションプラン型運用の色合いが濃い会社は、「結果として40代半ば中心」とのコメントが多い。人材プールの年齢層が高い会社には、「(ポテンシャルによる)選抜が難しく、40半ばまではトーナメントによる勝ち上がりにせざるを得ない」との声がある。
【III-9】タレントマネジメントの社内専門委員会
- プール人材をタレントマネジメントに関する専門委員会で決定している、とする会社が半数超(8/15社)
- 社内のタレントマネジメント専門委員会ではプール人材が個別に認識されており、今後の育成方針と部門間異動配置を検討するケースが多い
プール人材の決定について、指名委員会を設置していればそこで行うことになるだろうが、その前段階においては社内のどこで決定しているのだろうか。結果は、社内にタレントマネジメントの専門委員会を設置し、その委員会で決定する会社が半数超。タレントマネジメントの専門委員会メンバーは、各事業責任者や各部門代表を含む比較的多人数のものから、経営トップ+αの少人数のものまで幅があるが、いずれも経営トップが参加するものとして設定されている。
多くの場合、専門委員会では人材プールの更新、プール人材の個別レビュー、今後のアサインの検討を行っている。トピックスとしては、会社/部門横断的な配置とともに、女性役員登用が優先課題になっている。
会社/部門横断的配置の促進のために「各部門の人材輩出度合いをグラフ化し委員会に提示しており、 HIPOの部門間異動ができるようになってきた」、また、女性役員登用促進については「男性よりも枠を拡げて委員会でレビューしている」とのコメントがあった。
社内のタレントマネジメント専門委員会の開催頻度は年1回あるいは半期ごとである会社が多い中、「社外取締役が委員長を務める指名委員会を毎月開催しており、実質的にもそこで検討している」という会社もあった。
一方、委員会を設置していない会社では人事評価調整会議の場で人材の棚卸しを行うほか、経営トップとの個別調整を行っているとする会社が多い。委員会を設置している会社の中にも、「従来は部門責任者を集めて横串での全体会議を開催していたが、全体会議では対象者数が多く議論が浅くなるため、経営トップ数名と各部門責任者との個別会議に変更した」との声があり、個別のプール人材について経営トップと直接意見交換する機会を増やしていこうとする会社もあるようだ。
【III-10】タレントマネジメントの専任常設組織
- 専任組織を常設する会社は4分の1ほど(5/21社)
- HRBPの体制を整備し活用していこうとの動きも出てきている
「人事部とは別に、本体の部長級以上と子会社トップを対象とする専門部署を設置しており、責任者は外国人」、「人事部門傘下にサクセッションプランの専任組織を新設した」という会社もあるが、多くの会社は「なかなかそこまで人員を割けない」のが実態か。
HRBP(HRビジネスパートナー)については、体制が整っている会社は「数十名規模のHRBP組織があり、その中でHRBPは半数程度。HRBP1人当たり500名程度の組織を担当している」という状況。多くの場合、HRBPの本格的な体制整備はまだこれからと思われる。
【III-11】人材プールの更新、プール人材への情報開示
- 人材プールを毎年定期更新する会社が7割(12/16社)であり、仕組みとして安定的に運用されている
- 人材プールに入ったことを本人に情報開示している会社は約3割(5/16社)であり、伝達する場合も選抜研修への招集というかたちがほとんど
人材プールを毎年定期更新する会社が7割であり、次世代経営人材の選抜・プール化・更新が仕組みとして定着している様子がうかがえる。
一方、定期更新ではないとする会社は、「極論すれば毎月のように人材プールを適宜更新しており、定期更新というかたちではない」、また「人材プールは人事で内部管理しており、フラグを立てた人材をアセスメントやインタビューの対象にしているが、あまり明確には打ち出していない。プールから外すというより、だんだんアセスメントなどの対象にならなくなるといった運用」とのことだった。
全従業員に周知徹底を図る人事制度とは異なり、たいていは「タレントマネジメントの枠組みや人材プールの存在が、社員には開示されていない」。それに加え、「プールから外れた時の本人のモチベーションや年次管理慣行にも配慮」し、人材プールに入ったことを本人に通知する会社は3割にとどまる。
通知する場合も、ほとんどは選抜研修への招集というかたちであり、「研修ノミネートされるため、ある程度分かる」というレベル。「役員からの非開示要請もある」とのコメントもあった。
【III-12】人材プールと選抜教育
- 選抜型の次世代経営人材教育は「人材プールありき」のパターンと「選抜研修先行型」のパターンが半々
- 若手層を対象とした選抜型研修では、研修キャパシティ上、順番に受講させて研修を通じて次世代経営人材候補を発掘しようとのニュアンスも強い
プール人材を対象とした次世代経営人材教育としては、多くの会社が社長塾のようなものや外部派遣研修、コーチングなどを行っている。プール人材が一律に受講するものではなく、各人に合わせて個別研修の組み合わせメニューを用意する会社もある。
個別育成という意味では、タレントマネジメント専門委員会等での配置検討に見たとおり、ストレッチアサインや他部門経験が重視されており、「数年前から執行役員候補は他部門経験を必須とし、異動経験がない人は他部門へ異動させる方針にしている」、「人材プールに入るといずれ異動することになる、異動を拒否すると以降の昇進機会が失われるということを、プールに入れる際に候補者の上司に明示している」とのコメントもあった。
若手層対象の場合は、選抜型研修であっても研修受講者は必ずしもプール人材というわけではなく、「研修のキャパシティ上、選抜形式になるが、受講者を順次入れ替えて若手人材を幅広く見ていこうという考え方」が強くなる。
【III-13】人材プールからの登用
- 人材プールからの登用年数目安は特に決まっておらず、現任者の在任状況によるとする会社が多い(6/9社)
- 現任者のポストオフの仕組みに課題感を持つ会社も散見される
「プール人材の中からさらに選抜し集中教育を行い、その後登用する。だいたい2年くらい」という会社もあるがこれは例外的であり、登用年数目安を特に定めておらず「人材プールは中長期的育成を目的にしている」、「現任者がいつまで在任するかに左右される」という会社が多い。プール人材をどのように選抜するかもさることながら、「現任者のポストオフの仕組みや基準がなく、むしろ、そちらのほうが悩ましい」との声も聞かれた。
調査結果(項目別サマリ):「戦略的ポジション人材の発掘・育成」
【IV-1】戦略的ポジションの特定
- 人材プールからの登用年数目安は特に決まっておらず、現任者の在任状況によるとする会社が多い(6/9社)
- 現任者のポストオフの仕組みに課題感を持つ会社も散見される
「最注力しており、戦略に基づく重点事業のポジションということで経営陣のコンセンサスがある。事業企画系、研究開発系、グローバル系のポジションがそれぞれ10ポジション程度」、「経営のコンセンサスを得ており、全社で数ポジション。要件定義もできており、それらのポジションについてエグゼクティブサーチなどを使い、責任者クラスからメンバーまでキャリア採用を行っている」、「特定を進めておりポジション数は100程度、全体からするとごく一部になる」など、各社とも対象ポジションを絞り込んでいる。
一方、「必要性は感じているが次世代経営人材育成の優先度が高く、戦略的ポジションへの取り組みが遅れている」、また、純粋持株会社では「事業系専門人材はグループ各社で推進しており、個社最適でよいと考えている」とのコメントがある。
【IV-2】具体的な戦略的ポジション
- 職種は異なるが、事業構造転換に関わる新規ポジションを挙げる会社が大半
- 財務・法務・人事などのポジションを挙げる会社もみられる
「事業構造転換を求められている。既存事業も重要だが、新規事業に関わるものがキーポジションと考えている」とのコメントが典型的。事業企画系、DX系、研究開発系、グローバル系など職種は異なるものの、事業構造転換に関わる新規ポジションであるとするコメントがほとんどであり、ミッションとしては共通項がある。
特に事業企画系・DX系については新規ポジションであるため社内に人材がおらず、「DXは社内育成が難しい。キーマンをキャリア採用し、その下にメンバーを配置して育成している」など、各社ともキャリア採用を軸に推進しようとしている。
新規事業に偏らないという意味では、「ジョブ型人事制度への移行に伴ない、役員の合議で各ポジションのグレーディングを見直した。経営幹部級の高グレードポジションがすなわち戦略的ポジションとの考え方」という会社もある。
また、「CxOは高度専門職であるべきと考えており、財務・法務など、CxOのサクセッサーのポジション」、「グローバルCHOなど経営ポジションと被るものが3分の1で、ほかはエキスパートポジション」など、経営管理系を戦略的ポジションとする動きも見られる。
【IV-3】高度専門人材の処遇
- ジョブ型人事制度やフェロー制度などで高度専門人材を処遇する会社が8割超(10/12社)
事業企画系やDX系を中心に戦略的ポジション人材をキャリア採用しようという意向が強く、それに伴ない高度専門職処遇を見直そうという動きが顕著だ。8割超の会社が運用上の個別対応ではなく、ジョブ型人事制度やフェロー制度などの制度によって対応しようとしている。
この動きは、「既存人材の処遇ではなく将来に向けての準備として、高度専門人材の準備報酬レンジ等を市場適合させるために人事制度改革を実施した」というように、高度専門人材ニーズが例外的な特定少数に対する一時的なものではなく今後も継続的に発生するであろうこと、増加するであろうことを想定しているためだと思われる。
「戦略ポジション人材はホールディングスで採用する。ホールディングスの人事制度改革を行ったが、基本的にホールディングスの社員は出向者ばかりで、人事制度改革はキャリア採用への適合を狙いとしている」とのコメントもあった。
調査結果(項目別サマリ):「中間層人材の適正配置」、「人材データ管理」など
【V-1】人事異動の端緒
- 年間の異動件数はおおむね社員数の2割前後
- 人事異動端緒の頻度1位は「異動先部門ニーズ」が6割超(11/18社)、「本人ニーズ」も3割弱(5/18社)を占める
- 中間層人材については手挙げ重視の流れ
年間の人事異動規模については、各社とも「発令件数はわかるが組織名称変更等も多いため、異動件数を正確に把握することは難しい」とのことだったが、おおむね社員数の2割前後という会社が多いようだ。
人事異動の端緒の頻度1位は「異動先部門ニーズ」が6割超(11/18社)。自己申告、社内公募、フリーエージェント制など、何らか「本人ニーズ」に基づくものも3割弱(5/18社)を占め、人事異動者のうちの3~4人に1人は本人ニーズによって異動しているということになる。
「(昇進など)ポジティブな目的の異動については異動先部門ニーズ、ポジションありきの適所適材が中心になっているが、《2:6:2》の中間層の《6》は本人ニーズを重視しており、社内公募になっている」、「階層によって異なるが、マネジャー層・リーダー層は本人起点が多い。意欲を重視している」など、中間層人材や初級管理職以下のレイヤーについては、本人ニーズによる異動を重視する動きが目立ってきている。
中には「ジョブ型の新制度では、原則としてすべての異動が公募制になる。ポジションは部門ニーズだが、誰が異動するかは本人ニーズによる。管理職、一般職とも同様」との会社もある。現状では、社内公募による異動は数十名程度という会社が多いが、「ジョブポスティングで400~500人、フリーエージェント制度で150人が異動する」との会社もある。
一方、「少なくともこれまでは総合職全員をローテーションによってジェネラリスト、経営人材に育成しようとの考え方。新卒入社後10年間は育成期間との位置づけで、事業部門、管理部門、子会社、海外現地法人など広範に10年間で3部門を経験させる」など、若年層については10年間に3回のローテーションを原則とする会社が4分の1ほどあった。
こうした「10年間で3回」というローテーション原則については、必ずしもジェネラリスト育成を目的とするものばかりではなく、多拠点への要員配置など、異動の柔軟性確保を重視しているといったコメントもある。
【V-2】職務記述書の整備状況
- 主要ポジションについては職務記述書を整備済みの会社が多い(9/12社)
- 職務記述書の粒度は大まかなものとの会社が多い
「ジョブ型の制度なので大半のポストについて職務記述書が定めてあり、一般社員にも開示している」、「主要会社の管理職ポジションについて職務記述書を定めている」、「ジョブ型人事制度への改定に向け、デジタル系職種など新しいものから順に主要ポジションについて明確化していく」など、職務記述書の整備が進んでいる。
一方一部の会社を除くと、職務記述書の粒度は「おおまかなもの」、「役割基準のようなもの」とのことであり、少なくとも現段階では全ポジションについて詳細な職務記述書を作成しようという流れではないと思われる。
【V-3】人材データ(職務経歴情報)の管理状況
- 人材データの一元管理状況は、詳細かつ多様なデータを収集管理しようとする会社(6/11社)と、発令情報レベルに留める会社(4/11社)に分かれている
人材データの代表的なものとして従業員各人の職務経歴情報の一元管理状況を聞くと、キャリア採用の職務経歴書のようにこれまでの具体的な担当職務内容などの詳細な情報を収集・管理する会社と、所属歴などの発令情報レベルの管理に留める会社とに分かれている。
詳細な人材データを管理する会社は、「職務経歴書レベルの情報を一元管理しており、キャリア面談情報やこれまで苦労したこと、成功したことなどをテキストベースで蓄積している。各人の詳細な職務経歴は、人事部が全員面談を行い情報収集した。今後は毎年実施予定」、「人事が定期的に面談したり、面談や研修でのコメント情報を収集したりしている。不確実な場面での対応や、どういうタイプのどういう人材か、どのようなチャレンジをしたいかなど、レイティングするのではなく個々人の定性情報、詳細を記したカルテを作成している」など、ソフトデータも含め、さらに詳細で多様な人材データを収集・管理しようとしている。
一方、発令情報レベルとする会社は、必ずしも従業員全員について人材データを拡充しようという方向とは限らない。「優秀層については詳細なキャリア情報を一元管理しているが、中間層、《2:6:2》の《6》についてはできていない」、「キャリア情報は発令情報レベルに留めている。それ以上の情報を集めてもマイニング工数がかかりすぎるのでは。キャリアプラン希望等は収集している」など、メリハリをつけた対応を行う会社もある。
【V-4】タレントマネジメントシステムの活用状況
- タレントマネジメントシステム導入済み/導入中が過半数(11/20社)
- 人材データベースとしてだけではなく人事評価制度や社内公募制度をワンストップで運用するプラットフォームとしてのニーズが高く、本格的なデータ分析・活用はこれから
2019~2020年頃でタレントマネジメントシステムの導入が進んでおり、導入済みが約半数(9/20社)、システム導入設定・移行中、システム選定中の会社を加えると7割(14/20社)がタレントマネジメントシステムを活用しようとしている。
「米製タレントマネジメントシステムを導入し、国内の人材情報を一元化。発令情報+α、目標管理データ、評価コメントなどを集約し、人材レビューに活用している。海外はプール人材+αを管理している」、「キャリアプラン、評価制度を人材情報と同一プラットフォーム上で運用することを主目的に和製タレントマネジメントシステムを導入した。導入と同時に、作り込みの人事評価制度をタレントマネジメントシステムパッケージで運用可能なかたちに改定した」、「和製タレントマネジメントシステムを導入中。全従業員の使用を想定しており、人事評価、公募制度、自己申告制度、アンケートを運用する。タレントマネジメントそのものもそうだが、人材の強みを分析するためにタレントマネジメントシステムを導入」など、用途としては人材情報の一元化とともに制度運用を想定する会社が目立つ。
システム導入後、日が浅い会社が多いため、本格的な人材データの分析・活用はまだこれからという状況であり、現状は制度運用の効率化を図りつつ、制度運用を通じて人材データを充実させている段階にある。
【V-5】新卒ハイポテンシャル(HIPO)人材の初任給対応
- 大半の会社(11/13社)は、新卒HIPO人材の初任給での高処遇対応は検討していない
- 特定職種の初任給対応を含む職種別採用については積極的
今回の調査対象は就職人気企業が多く、「ポテンシャルある人材、AI人材も現状の枠組みで採用できている」、「新卒HIPO人材の初任給対応は考えていない。人事制度改定によって、入社後、抜擢昇格などができるようになっている」とのコメントが典型的。「そもそも新卒採用段階でHIPO人材を見極めることは難しい」、「今は入社後数年間のローテーションの中でHIPO人材を見極めていくやり方」との声も聞かれる。
一方、デジタル系など特定職種の職種別採用については初任給対応も含め、すでに実施している会社も多い。
むしろ、「基礎能力が高くても入社してしまえば安泰という安定志向の人材ばかりではダメとの問題意識がある。HIPOというより人材ポートフォリオ、採用人材タイプの多様化を意識しており、人材タイプを堅実型、チャレンジ型などにタイプ分けして人材ミックスを図る試みを行っている」、「外国籍など新卒のバラエティを模索中」など、人材の多様化を意識した動きがある。
【V-6】リテンション
- 離職率そのものではなく、若手とキャリア採用者の離職へ課題感(11/16社)
- リテンションより、新陳代謝が気になるとの声も目立つ
総じて各社とも離職率は業界平均より低く、離職率そのものに対する課題感は高くないものの、「全体の離職率は2%未満であり離職率はさほど高くないが、期待されている優秀人材の離職が散見される」、「若手の離職が気になる」、「キャリア採用者の離職が目立っており、カルチャーフィットに問題を感じている」など、誰が辞めているか、主として若手とキャリア採用者の離職へ課題感を持つ会社は、「課題感低いが懸念あり」とする会社も含めて約7割(11/16社)。
また、「リテンションではないが、むしろ新陳代謝のほうが気になる」とのコメントも聞かれる。
※本記事は、株式会社パーソル総合研究所が行った調査をもとに作成しました。
※本調査を引用する場合は、出所を明示してください。
記載例:パーソル総合研究所「大手企業のタレントマネジメントに関する実態調査(2020)」
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、社員研修などを行っています。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしています。
https://rc.persol-group.co.jp/
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