経験から進化させるテレワーク
―場所や時間の議論を超えて
リクルートワークス研究所 萩原牧子氏
2020年春、緊急事態宣言が全国に拡大したことを受け、多くの人たちの在宅勤務が急にスタートした。「全国就業実態パネル調査2020」 と「臨時追跡調査」 (リクルートワークス研究所)によると、2019年12月時点で週に1時間以上のテレワークをしていたのは雇用者の6.5%に過ぎなかったのが、緊急事態宣言下では26.4%に増え、とくに緊急事態宣言期間が長かった7エリア(東京/埼玉/千葉/神奈川/大阪/兵庫/福岡)では、35.6%に達している。
経験してこそ得られた気付き
働き方改革の中でもなかなか進まなかったテレワークが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて一気に進んだ形だ。以前は、職場からテレワークを認められていても、そのうちテレワークをしている人は半数ほどに過ぎなかった(「全国就業実態パネル調査2020」)。
背景のひとつは「出社しないとできない業務だから」という考えによるものであるが、今回をきっかけに、まずは経験して気付きを得られたことは、テレワーク推進を大きく前進させたと言える。
厚生労働省委託事業「テレワークの労務管理等に関する実態調査」(2020)によると、新型コロナウイルス感染症の影響によって在宅勤務を経験したもののうち約7割が「出社しないとできないと思われていた仕事もテレワーク(在宅勤務)で可能であると気付けた」という設問に「そう思う(計)」と回答している。
やってみたらできた、という気付きは、テレワーク未経験者だけのものではなかっただろう。以前からテレワークを行っていた者も、テレワークをする日には、集中して取り組める作業を切り出すなど、テレワークに向いている業務と、向いていない業務があると考えていたのではないか。
それが、緊急事態宣言下で、すべての業務を在宅勤務で行うことを余儀なくされ、かつ、職場の仲間のほとんどが在宅で勤務するという状態になってはじめて、どうすればテレワークでうまくできるのかに対峙し、工夫を出し合いながら、結果、意外とあらゆる業務がテレワークでできるのだという新たな気付きを得られたのではないだろうか。
離れたからこそ気付けた職場の機能
一方で、職場を離れたからこそ気付けた、リアルな職場の機能もある。「同じようなミスの発生が明らかに増えているんです」というのは、新型コロナウイルス感染症をきっかけに、完全にテレワーク勤務に移行させた企業の人事の方の話だ。オフィスであれば、同僚が上司に叱られる内容が自然と耳に入ってきた。なるほど、こういう過程でミスが発生したのだな、自分も注意しようと、同じミスを防ぐことができた。
こういったリアルな職場での無意識な学びの機能が、テレワークの移行によって失われ、なかでも新入社員の成長に負の影響を与えた可能性がある。「全国就業実態パネル調査2020」と「臨時追跡調査」(リクルートワークス研究所)で、仕事を通じた成長実感の変化を2019年12月時点と緊急事態宣言下で集計した。
マイナスが大きいほど、緊急事態宣言下の成長実感が、2019年12月時点と比べて低下し、逆にプラスが大きいほど、成長実感が増加していることを表している。図をみると、緊急事態宣言下でテレワークをしているほうが、成長実感が低下している割合が高いこと、また、現職1年未満、3年未満といった入社して間もないほうが、成長実感が低下している割合が高いという傾向がみてとれる。
※「仕事を通じて成長しているという実感をもっていた」に対して「あてはまる(=5点)」から「あてはまらない(=0点)」の5段階の2時点の差の分布。マイナスは、2019年12月時点と比べて緊急事態宣言下の成長実感が下がっていることを示し、プラスは逆に上がっていることを示す。
※1%以下の数値は非表示
※ウエイトバック集計(XA20TC)
いま、緊急事態宣言下の経験を踏まえ、多くの企業がこれからの働き方について、あるべき姿を議論している。今回の経験を緊急避難的にとらえるのではなく、そこから得た気付きを大切にしたい。
これまで職場にいることが当たり前であった時に、無意識だったけれど重要な機能はなんであったか。逆に、無意識的だったけれど、目の前にいることに甘えて、曖昧を許し、生産性を下げていた制度や慣習はなかったか。無意識なものを意識的に整理し、望ましい形に再設計していく。そうすることで、テレワークの推進というのは、単なる場所や時間の選択肢を増やすことに留まらず、本当の意味での働き方の改革につながると思う。
リクルートワークス研究所は、「一人ひとりが生き生きと働ける次世代社会の創造」を使命に掲げる(株)リクルート内の研究機関です。労働市場・組織人事・個人のキャリア・労働政策等について、独自の調査・研究を行っています。
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