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勤務時間限定正社員/勤務地限定正社員/職務限定正社員
タイプ別 限定正社員の制度設計

野口&パートナーズ法律事務所 弁護士 野口 大/弁護士 大浦 綾子

3.「勤務時間限定正社員(短時間正社員および勤務日数限定正社員)」の制度設計

(1)賃金設定について

法律的に賃金を正社員より安くしなければならないと決まってはいませんが、有識者懇談会報告書※2は「労働契約法第3条2項では、労働契約は就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとしている。これには、いわゆる正社員と多様な正社員の間の均衡を考慮することも含まれる。」としています。短時間正社員や勤務日数限定正社員のように所定労働時間が短い社員については、正社員との均衡を維持し、通常の正社員の納得感を増すために一定の減額が妥当である場合が多いと思われます。

ビジネスガイド:勤務時間限定正社員/勤務地限定正社員/職務限定正社員タイプ別 限定正社員の制度設計

賃金を安くする場合、パート労働法や育児介護休業法を意識しておく必要があります。すなわち、短時間正社員や勤務日数限定正社員は所定労働時間が通常の正社員よりも短いのでパート労働法の適用があります。よって、通常の正社員と「職務の内容」「人材活用の仕組み」が同一であれば、差別的取扱いは禁止されることとなります(パート労働法9条)。また、育児介護休業法に基づく制度利用の場合、制度利用を理由とする不利益取扱いは禁止されます(育児・介護休業法23条の2)。

この2点に抵触しないためには、要するに「差別的取扱い」「不利益取扱い」をしなければよいのです。この点、時間比例による減額は「差別的取扱い」※3「不利益取扱い」※4には該当しませんので、結局は時間比例による減額程度にとどめる限り、問題ないという結論となります。逆に時間比例による減額以上に格差をつける場合には、入念な検討が必要となります(例えば、通常の正社員と「職務の内容」「人材活用の仕組み」が違うと言えるのかの検討が必要となります)。

※2:「多様な正社員」の普及、拡大のための有識者懇談会報告書(平成26年7月30日付)
※3:「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律の施行について」第3-4(9)
※4:「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家族生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」第2-11-(3)ニ(イ)

(2)基本給

通常の正社員との格差のつけ方ですが、大きく言えば、基本給は通常の正社員と同一テーブルにして、手当で賃金差を設ける方法と、通常の正社員の賃金テーブルに一定割合を乗じて減額する方法があります。

ア. 本給は通常の正社員と同一テーブルにして、手当で賃金差を設ける方法というのは、【例1】の3項のようなものです。通常の正社員を含めて賃金体系を再構築しなおす必要がありますが、多様な働き方に対応しやすく(例えば、短時間勤務かつエリア限定等、複合的な限定正社員の場合でも処遇を決めやすい)、社員区分を転換する際もスムーズで説明しやすい、という利点があります。

イ. 正社員の賃金テーブルに一定割合を乗じて減額する方法とは、所定労働時間に比例して減額する方法が一般的です。通常の正社員の所定労働時間が8時間であり、これを6時間に短縮するのであれば、基本給は75%で支給するというイメージです。規定例としては、【例2】6条(1)のようになります。

【例1】

【厚生労働省 「多様な正社員及び無期転換ルールに係るモデル就業規則と解説」 29頁】

第○条(賃金)

 正社員及び限定正社員の賃金は、毎月定期に支払う月例賃金と、原則として1年に2回臨時に支払う賞与及び、退職に際して支払う退職金で構成する。

2. 月例賃金の賃金形態は月給日給制(固定的支給項目については月額で決定し、欠勤等不就労日・時間についてはそれに対応する額を控除する)とし、基本給については、職務給表により等級及び号ごとに定められた額を毎月支給する。

3. 月例賃金は、基本給に次に定める額の手当を加算して支給する。

(1)正社員 ○万円
(2)限定正社員 職務限定 高度な職務… ○万円~○万円
一般的な職務… 加算無し
時間限定 時間外・休日勤務除外… ○万円
短時間勤務… 加算無し
シフト勤務適用除外… 加算無し
勤務地限定 地域限定… ○万円
地区限定… ○万円
事業場限定… 加算無し

4. 無期転換社員の賃金形態、その他各種手当については、本条の規定を参考にしつつ、転換時に締結した雇用契約書の内容に従うものとする。

5. 本条以外の詳細な事項については、別途賃金規程で定める。

【例2】

(賃金)

第6条
短時間正社員の賃金については、次の通りとする。

(1)基本給:正社員の所定労働時間に対する、短時間正社員の所定労働時間の割合に応じて支給する。
(2)役職手当:当該短時間正社員の果たす役割に応じて、正社員の所定労働時間に対する、短時間正社員の所定労働時間の割合に応じた額以上を支給する。
(3)通勤手当:所定労働日数が1カ月に○日以上の場合は1カ月の通勤定期券代を支給し、1カ月に○日未満の場合は1日当たりの往復運賃に出勤日数を乗じた金額を支給する。

(賞与)

第7条
 短時間正社員の賞与は、正社員の所定労働時間に対する、短時間正社員の所定労働時間の割合に応じて支給する。

(退職金)

第14条
 限定正社員にも、正社員の退職金規程を適用するものとする。

(3)手当

手当について時間比例で減額するかどうかは、手当の趣旨に応じて検討すべきです。労働時間の長短と関連性を有しない手当は減額するべきではありません。

また、通常の正社員について、遅刻・早退の控除の際に、時間比例減額をしていない手当や、所定労働時間の短い非正規パートにも通常の正社員と同額の手当を支払っている手当については、勤務時間限定正社員についても減額しないことが整合的となります。

一般的には次のような検討をすることとなります。規定例としては、【例2】6条(2)(3)のようになります。

通勤手当、食事手当、宿直手当 労働「日数」に応じて、減額するかどうかを検討する
職務関連手当
(役務手当、資格(技術)手当)
手当の趣旨・支給基準を踏まえて減額するかどうか検討する。
例えば、短時間勤務であっても、与えられた役職を全うできているのであれば、役職手当は変更しない、または、短時間勤務であることによって、役職の一部を担当できていない等の 事情がある場合は、役職手当を減額する、といったことが考えられる
生活関連手当
(扶養手当、住宅手当)
手当の趣旨を踏まえ、支給額は、原則として減額しない
特殊作業手当、特殊勤務手当
(危険手当・作業手当・交代勤務手当)
該当する作業・勤務があるならば、支給。時間比例減額すべきかは手当の趣旨を踏まえて検討する
出張旅費 支給額は減額しない
単身赴任手当、地域手当 支給額は減額しない

(4)賞与

賞与は通常の正社員と同じ計算式で支給をするのが基本となります。(2)で述べたように、基本給が時間比例の範囲ですでに減額されている場合が多く、賞与を基本給×係数として支給している場合、基本給を労働時間に比例して減額したうえで、さらに係数まで労働時間に比例して減らすことは、二重に減額することになってしまうからです。

賞与支給を基本給の2ヵ月分として計算している制度では、以下のようになります。
通常の正社員:基本給×2ヵ月分
短時間正社員: 時間比例減額された基本給×2ヵ月分

(5)人事考課

短時間正社員については、「働いている時間が短い以上評価が低いのが当然」という考え方が誤りであることを教育(評価者教育)する必要があります。わが国の場合、具体的な成果ではなく、長時間頑張っているという外形自体を評価するという意識の強い企業が多いので、要注意です。

成果目標の「量」は労働時間に合わせて減らすべきでしょうが、成果目標の「質」は変える必要はありませんし、短時間であっても仕事の成果を出している社員は正しく評価する必要があります。また、能力・行動・勤務態度に対する評価は、労働時間とは関係ありませんので、通常勤務者と同じ評価基準・要素とすることが必要です。

(6)昇進

有識者懇談会報告書には「勤務時間が限定されていても経験することができる職務の範囲や経験により習得する能力に影響が少ない場合には、昇進のスピードや上限はいわゆる正社員との差をできるだけ小さく設定することが望ましいと考えられる」とあります。

業種や職種にもよるでしょうが、労働の量よりも質が重要な業種(例えばクリエイティブな職種)の場合には、通常の正社員よりも成果を上げている短時間正社員も多数います。そのような場合にも、当然のように通常の正社員より昇進が遅いという制度は合理的とは言えないでしょう。

仮に昇進に差をつけざるを得ないとしても、通常の正社員に戻れば昇進の遅れを取り戻しやすい制度設計(例えば、通常の正社員に復帰後の勤務成績が優秀であれば、通常よりも早く昇進することを可能とするような制度)にしておくべきです。

(7)教育

短時間正社員も通常の正社員同様に教育を受ける機会を与えるべきであり、自宅等自由時間を使って学べるeラーニング等を充実させるのも一案です。

(8)退職金

ア 最終給与比例方式
通常の正社員と同じ計算式で計算するのが基本となります。ただし、算定根拠勤続年数を考慮する場合に、勤続年数を短縮された時間分減らす計算(10年勤続×75%)をするかどうかは、退職金の位置付け(賃金の後払い・功労報償・生活保障)次第です。基本的に勤続年数に連動して金額が決まるような退職金の場合には、賃金の後払い的性格が強く、時間比例で勤続年数を減らすことの合理性が認められやすいでしょう。

イ 点数方式
等級格付けによるポイントは労働時間や労働日数と直接の関連性がないので、通常の正社員と同様に付与し、勤続年数によるポイントは、労働時間に比例して減らすことも可能です。

(9)業務内容

通常の正社員から勤務時間限定正社員への転換の場合には、通常の正社員同様の業務内容に従事させる場合が多いと思われます。

逆に、非正規社員から勤務時間限定正社員になる場合には、引き続き補助的な業務のみに従事させるという場合もあると思います。この場合、非正規社員は一般には有期労働契約であり、勤務時間限定正社員は一般に無期労働契約ですので、労働契約法20条の均衡待遇に抵触しないように留意が必要です。すなわち、補助的な業務に従事する勤務時間限定正社員が、同じ補助的な業務に従事する非正規社員より待遇が良い場合(例えば、賞与を支給する、退職金を支給する等)、非正規社員からみれば、同一労働同一賃金に反するとの不満が発生しやすくなり、紛争となる危険性があるのです。非正規社員と勤務時間限定正社員とで、「職務の内容」「人材活用の仕組み」等の違いを明確にしておく必要があるでしょう。

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