【違反タイプ別に解説!】近時の最低賃金法違反にまつわる指導・トラブル事例と実務のポイント
特定社会保険労務士
角森 洋子
4. 近時見られる違反類型と実務上の留意点
(1)タイプ1:オール歩合給導入企業における違反
違反事例
「オール歩合賃金制度」のもと、売上低迷のため賃金が最低賃金を下回る状態が継続していたタクシー会社において、タクシー運転手6人に対し、4カ月にわたり最低賃金額以上の賃金を支払わなかったとして送検された。
(「平成24年の北海道労働局における送検事例」参照)
この類型への対応として、まず、歩合給に関する規定等を確認しておきます。
労働基準法27条では、「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」としています。しかし、労働基準法は、保障給の割合については何も定めていません。
そこで、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準について」(平成元年3月1日基発93号、平成9年3月11日基発143号改正)では、タクシー業に対して、「歩合給の場合、通常の賃金の6割以上の賃金が保障される保障給を定めること」とし、労働基準監督署においては、この通達に基づいて指導を行っています。
タクシー業に限らず、営業職で完全歩合制度を採っている場合は、保障給を定めることと、売上が少ない場合に支給額が最低賃金を下回っていないかどうかを検証する必要があります。タクシー業も含めて保障給の目安については、休業手当が平均賃金の6割としていることからすると、労働者が就業していることから、平均賃金の6割程度とすることが妥当と思われるということです(厚生労働省労働基準局編「労働基準法 上」)。
(2)タイプ2:固定残業代制導入企業における違反
違反事例
品川労働基準監督署が、2013年度に同労基署管内にチェーン展開している洋菓子店(パティスリー)や各種飲食店などに対し行った重点監督の結果、最低賃金額(869円・当時)を下回る事業場が少なくないことが判明した。多く見られた違反ケースは次の通り。
- 最低賃金額の引上げを知らないまま時給を据置きにしていた
- 月給にいわゆる「固定残業代」を含めた状態で最低賃金額を割り出していた
- 修行中の者には最低賃金法が適用されないと考えていた
(「労働新聞」第2988号参照)
「固定残業代制を採用すると毎月の賃金計算が簡単になる」と誤解をされている企業がありますが、実際には、時間外労働等の時間数を把握する義務を免れたり、時間外労働等の時間数による時間外割増賃金等の額を計算し、それを支払う義務を免れたりするものではありません。毎月、実際の時間外労働等の時間数による時間外割増賃金等の額を計算し、その額が固定残業代を上回る場合にはその差額を追加して支払わなければならず、実際の時間外割増賃金等の額が固定残業代を下回る場合であっても固定残業代を減額することはできないので、実際の時間外割増賃金等の額が常に固定残業代を下回るような制度設計がされている場合には、常に余分に残業代を支払わなければならないこととなります。
このような理由から、筆者は、時間外賃金等は実績に応じて支払うほうが合理的と考えますが、それでも固定残業代制を採用したいという場合は、最低賃金法4条等において、次の賃金は最低賃金に算入しないと規定されているので、[3]に該当する固定残業代は、賃金の額から控除して計算しなければなりません。
[1]臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
[2]1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
[3]所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
[4]所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
[5]午後10時から午前5時までの労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
[6]精皆勤手当、通勤手当および家族手当
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。