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ATD 2018 International Conference & Expo 参加報告
~ATD2018に見るグローバルの人材開発の動向~

株式会社ヒューマンバリュー 取締役主任研究員 川口 大輔

参加者の声

日産自動車株式会社
アライアンスR&D人事部R&D人財育成グループ 西出恵美さん

「学習する組織」「組織開発」「ATD-IMNJタレントデベロップメント委員会」への関心から、個人で参加しています。75周年記念とオバマ前大統領の講演が聞きたいと直感的に参加しました。昨年までバズワードとして使われていた「VUCA」はプレゼン資料から消え、VUCAワールドは当たり前のこととなり、HRのプロフェッショナルとして「デジタル・トランスフォーメーションの時代において、一人ひとりのヒューマニティを基軸とし、人間の価値や素晴らしさをいかに解放していけるか」という命題に、私たちはどう向き合っていくのかを問われました。

前回参加した2015年は「一人ひとりの強みや主体性が大切」「日々の経験や他者との関わりの中から自律的・協働的に学び、創造性を育む」というメッセージを受け取り、ビジネスの世界はすでにデジタル・トランスフォーメーションの波の中、電気自動車・自動運転車・IoTなど日々変化を求められながら、「人間力」に向き合い人をひきつける魅力について論議しました。2018年は「人々が自分の強みを発見し解放するには、仕事を愛することが重要」というメッセージを受け取り、「人」にフォーカスし取り組む施策の数々を、HRとして自信をもって向き合い続けるパワーをもらった四日間でした。

凸版印刷株式会社
人事労政本部 人財開発センター 横山雄平さん、若林美鈴さん

「ATD全体を通して我々が感じ取ったテーマは、「デジタル・トランスフォーメーション」と「ヒューマニティ(人間性)」の二つです。「デジタル・トランスフォーメーション」に関しては、急速にテクノロジーが進化し、その活用がHR分野にも活用されている(と言うよりも激流のように流れ込んでいる)スピード感を感じました。

テクノロジーの活用は、「効率的に」「効果的に」という部分では非常に可能性を広げますが、その一方で、「ヒューマニティ(人間性)」については見えづらくなってしまうと考えています。ただ、今回のATDでのセッションテーマや、基調講演では、そのような今だからこそ今一度、HR担当者でもある私たちが「ヒューマニティ(人間性)」を重要視すべきであると言われたように感じています。

国は違っても、悩んでいることは一緒であり、それに対しての各国のHR担当者とともに(最先端の事例を基に)一緒に考えることができるのがATDの醍醐味の一つだと思います。非常に貴重な経験と学びを得た期間でした。

三菱商事株式会社
人事部 和光貴俊さん

サンディエゴは、その成り立ちや地理的要因もあってラテン・アメリカ(特にメキシコ)文化の影響が強く、また軍の関係施設が多いことから、比較的リベラルな気風が強い西海岸の中では共和党支持者が多いことでも知られている。そうした多様な文化や主義がミックスした都市で開催された今回のATD ICEは、新たな潮流と従来からのトレンドが入り交じり、それらが融合して、ダイナミックな変化の始まりを感じさせる、75周年にふさわしいイベントとなった。

特に印象的だったのは、昨年度、あまりダイレクトに取り上げられることがなかった「デジタル・トランスフォーメーション」について前向き且つ実践的に取り組み、対応しようとするセッションが大幅に増加したことだった。

HRに関係する文脈で用いられることが少なかった、“dashboard”(一般には、飛行機や自動車などの運転席前面にある計器盤)という言葉が各セッションでも頻繁に用いられ、財務、会計、マーケティングなどの経営情報とHRの人事データ、研修履歴などを同等に取り扱い、会社も社員もそれらを参考にしながら、更なる成長のためのポートフォリオを共に考え、実践していく、という理想が提示されていた。

毎年、テクノロジーを含む新しいトレンドをわかりやすく解説してくれるメーガン・トランスのセッションでは、SCORMに替わるラーニング・プラットフォームの新しい基盤として注目されるxAPIについての紹介があり、こうした新たな動きのスピード感と、デザイン思考的なアジャイルさ、トライ・アンド・エラーを恐れず繰り返すことの重要性を痛感する四日間だった。

株式会社博報堂
人材開発戦略室 永井央子さん

ATD ICE初参加の理由は、最新動向の把握や実践的知識の習得などでしたが、人材開発における多種多様な知識、考えや解釈に触れるうちに、テーマに対して解釈を述べられるようになるため参加したと再認識し、マーカス・バッキンガム氏が基調講演で引用したマーク・トウェインの「問題なのは何も知らないことではなく、実際は知らないのに知っていると思い込んでいること」という言葉も真摯に受け止めました。

オバマ前米国大統領は基調講演の中で、価値観とは人と接するなかで体現され、つらいときにも困難を乗り越える原動力となり、最終的には何かを成すときに意味と目的(パーパス)をもたらすと実体験から語っており、その姿から高潔な人格を垣間見ました。「パーパス」は、別セッションの神経科学の研究からも深い洞察が提示され、働くことを通じて人生の意義や目的意識を本質的に捉え直す機会を与えられました。この言葉なしに今年のATD ICEは語れない印象があり、組織で「パーパス」を高めるポジティブな議論が活性化することが想定されます。

デジタル・トランスフォーメーションにより学習自体の変革が起こる衝撃も実感しましたが、サンディエゴで得た多くの学びや気づきを業務に落とし込み、人や組織に貢献していきたいと思います。

パーソルキャリア株式会社
コーポレート本部 戦略人事統括部 加々美祐介さん

初めて参加したATD。場所にはこだわりはありませんでしたが、南カリフォルニアで気候も温暖なサンディエゴでの開催とあって、参加前から、よりワクワクしていました。参加してみてまず驚いたのは、規模の大きさと熱気です。予想以上に多くの人が集い、熱量の高いセッションが数多く開催されていることに驚きました。

カンファレンスのテーマとして、印象に残ったのが「Purpose」という言葉です。セッションやメンバー同士のダイアログでも、「Mission」や「Vision」より「Purpose」がよく使われていました。セッションの一つに『なぜ人が「Purpose」を追い求めるのか』を神経科学から解き明かそうとする内容のものもあり、会場が聴講者であふれかえる超人気セッションになっていたことがとても印象的でした。

これは会社や組織、ひいては社会が、人の内に根源的に存在するあり方や目的意識に目を向け始めていること、また、人々をひきつけるために、組織が自らの「Purpose」を創り出し、定義する必要性に迫られている傾向なのかなと思いました。オバマ元米国大統領の基調講演でも、「Purpose」の重要性は垣間見えました。彼曰く、「大統領になる準備は突然できるものではなく、何十年もの時間をかけ、基本原理として育んできた価値観や信念を形にし、大統領として発揮するだけである」と。私の解釈では、「こういう社会にしたい、こういう国を実現したい」という信念こそ彼の「Purpose」であり、それに真摯に従い、オーセンティックなリーダーシップを発揮することが人々の「Purpose」に火をつけ、人々をひきつけることにつながったのだと思います。今回ATDに参加することで、多くの刺激と示唆を得ることができました。また機会を自ら創り、参加したいと強く思います。

日本電気株式会社
人事部 木目田康光さん

昨年に引き続き2回目の参加となった今年のATDは、創立75周年の記念大会として開催され、バラク・オバマ前米国大統領を基調講演に招くなど、主催者側も力を入れていて、前年よりも熱気のある会になった印象を受けました。

今年のATDをキーワードで表すなら「デジタル・トランスフォーメーション」と「ヒューマニティ」ではないでしょうか。AIをはじめとしたテクノロジーの進化が急激に進む中、人としてのあり方を大切にすることが求められていると思いました。学習のツールや手段のデジタル化より広い文脈でデジタル・トランスフォーメーションを捉え、ヒューマニティを重視する傾向は、基調講演にとどまらず、コンカレント・セッションでも感じることができました。

オバマ前米国大統領は基調講演で、「正直であること」「親切であること」「他者を尊敬すること」といった価値観が、我々の行動や考えに影響を与え、我々をより良い未来に導くものであることを語り、人の持つ価値観に立ち返ることの重要性を強調しました。また、『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し、活かす』で著名なマーカス・バッキンガム氏が登壇し、すべてに均整の取れた人を育てるのではなく、強みにフォーカスし、それぞれが個性を発揮できるようにするのが重要であると強調しました。

コンカレント・セッションでも、AIが広く活用されることに言及しているセッションが多くなり、職の転換やデジタル化時代に即した技術の獲得の必要性が新しいキャリア観につながることが、今後促進されていく可能性を感じました。

サントリーホールディングス株式会社
Global HR Department 橋本八洋さん

サントリーとして2度目の、個人としては初めてのATD参加となりました。グローバルHRDの担当として参加しましたが、ラーニングの観点から非常に多くの学びがありました。

全体のトレンドで面白かったのは、デジタル世界だからこそ人間性に焦点があてられていた点です。デジタル化の流れは止められませんが、その中でも人間性の大切さに注目し、社内におけるプログラム企画・運営を実施していきたいと思います。

プログラムで最も印象的だったのは、マーカス・バッキンガム氏の基調講演です。特に、強みにフォーカスし、一人ひとりのユニークネスを発揮できるようにすることが重要だという話は印象的でした。後輩育成など、さまざまな局面で生かせそうです。

経年で参加することで、年ごとのトレンドの変化をいち早く感じ取れるとのことでしたので、次回以降も機会があれば積極的に参加したいと考えています。

ATDとは

ATD(Association for Talent Development)は、企業や政府などの人材開発・組織開発の支援をミッションとし、米国ヴァージニア州アレクサンドリアに本部を置く会員制組織(NPO)であり、1943年に設立されました。世界120カ国以上に約40,000人の会員を持つ、タレント開発に関する世界最大級の組織です。

ATD International Conference & Expo(ATD国際会議)とは

ATD International Conference & Expo(ATD国際会議)は、ATDが年に一度開催している人材開発や組織開発に関する世界で一番大きなイベントです。通称ATD ICE(アイス)と呼ばれています。

ATD2018 International Conference &Expo開催概要

日程 2018年5月6日(日)~9日(水)
場所 米国カリフォルニア州サンディエゴ、サンディエゴ・コンベンション・センター
セッション数 約400件
  • 基調講演:3件
  • コンカレント・セッション
  • ワークショップ
  • エキスポ展示者によるデモセッション
コンテント・トラック
(10カテゴリー)
  • Career Development(キャリア開発)
    組織と個人を含めたキャリア開発
  • Global Human Resource Development(グローバル人材開発)
    文化の多様性、グローバリゼーション、ローカライゼーションと、地域別のベストプラクティスに焦点を当てる
  • Talent Management(タレント・マネジメント)
    コーチング、メンタリング、パフォーマンス改善、学習機能の管理、チェンジ・マネジメントとタレント・マネジメントなどが含まれる
  • Instructional Design(インストラクショナル・デザイン)
    効果的な学習のデザインについての基本から応用までのアプローチや実践事例など、幅広いテーマで構成される
  • Leadership Development(リーダーシップ開発)
    個人や組織、両方の開発アプローチをカバーしている
  • Learning Technologies(ラーニング・テクノロジー)
    新しいデバイスやアプリケーションの活用など、ラーニングを効果的にする様々なテクノロジーを扱っている
  • Learning Measurement & Analytics(ラーニングの測定と分析)
    ラーニングに関する様々な施策の対する効果測定や、より成果を高めるための分析について扱っている
  • Management(マネジメント)
    チェンジ・マネジメント、エンゲージメント&モチベーション、マネジャーとトレーナーのコラボレーションなどのテーマが含まれる
  • Training Delivery(トレーニング・デリバリー)
    デリバリーの技術や学習効果を高めるゲームやアクティビティ、技術学習のためのデリバリー、 ファシリテーションスキルに関するセッションから構成される
  • Science of Learning(ラーニングの科学)
    昨年までの「デザイン&ファシリテーティング・ラーニング」から分科し、今年新設されたカテゴリー。ニューロサイエンスを踏まえた学習や人材育成の促進をテーマとして掲げている
インダストリー・トラック
(4カテゴリー)
  • Higher Education(高等教育)
    大学の学部、部長、および教育の指導者に向けたセッション
  • Sales Enablement(セールスの有効化)
    ソート・リーダーシップ(考え抜かれたリーダーシップ)、デザインと開発、販売スキルとコンピテンシーをカバーしている、販売トレーナー、コーチ、リーダー、役員を含むセールス・イネーブルメント専門家のためのプログラム
  • Healthcare(ヘルスケア)
    ヘルスケア業界におけるカスタマー・サービス・カルチャー、ダイバーシティ・トレーニング、スキル・ギャップなどのテーマをベースとしたセッション
  • Government(行政)
    連邦、州、および地方など、政府のあらゆるレベルにおける、政府で働く人に向けた、政府関係者によるセッション

ATD2018 International Conference &Expo開催実績

  • 参加人数:13,000名
  • 海外からの参加:2,450名
  • 参加国数:93ヵ国
  • 参加者の多い国の状況:カナダ…349名、韓国…298名、日本…269名、中国…180名、ブラジル…123名
※参考 過去の参加者数
2017年 10,000名
2016年 10,200名
2015年 9,600名
2014年 10,500名
2013年 9,000名
2012年 9,000名
2011年 8,500名

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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