時間単位年休制度のルールや、賃金計算例について
時間単位年休制度とは、労働者が年次有給休暇(有給休暇)を、時間単位で年5日分まで取ることができる制度です。年次有給休暇を時間単位で付与する「時間単位年休制度」を利用すれば、労働者は子どもの学校行事や通院、手続き、介護など、数時間で済む私的な予定に有給休暇を活用しやすくなります。制度が浸透すれば有給休暇取得へのハードルが低くなり、労働者のワーク・ライフ・バランスの実現や企業の社会的価値の向上が期待されます。
1. 時間単位年休制度の概要
労働基準法では、労働者の心身リフレッシュを目的として、会社側が労働者に毎年一定日数の有給休暇を与えることが規定されています。しかし、「周囲に迷惑がかかる」「有給休暇を取ったらあとで忙しくなる」「評価が悪くなる」などと考える労働者は多いようで、有給休暇の取得率は平成以降、45〜55%前後の低い水準で推移しています(令和3年就労条件総合調査)。この状況を受け、有給休暇を取得しやすくし、労働者のワーク・ライフ・バランスを実現することを目指して、2010年4月の改正労働基準法で新たに時間単位年休制度が定められました。
時間単位年休制度の導入手続き
企業が時間単位年休制度を導入するかどうかは任意で、導入する場合は、以下2点の手続きが必要です。
- 就業規則への記載
- 労使協定の締結
労使協定では、時間単位年休に関する以下の内容を定めます。
- 対象者
- 日数
- 1日分の時間数
- 1時間以外の時間を単位とする場合の時間数
「対象者」を定める場合、一部の労働者を対象外とできるのは「事業の正常な運営を妨げる場合」だけです。「日数」は年間5日までで、「1日分の時間数」は有給休暇1日分に相当する時間単位年休の時間数です。
厚生労働省は時間単位年休制度において示した就業規則の規定例で、1日分の有給休暇に相当する時間数を次のように示しています。
所定労働時間が6時間を超え7時間以下の者・・・7時間
所定労働時間が7時間を超え8時間以下の者・・・8時間
「単位となる時間数」については1時間以上で、1日の所定労働時間を超えない範囲とします。15分や30分単位で設定することはできません。
時季指定義務の対象にならない
2019年4月から、企業は年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、有給休暇日数のうち年5日以上を、時季を指定して取得させることが義務づけられました(時季指定義務)。ただし時間単位年休については、使用者が時季を指定して取得させる年5日以上の年次有給休暇の対象にはなりません。
2. 時間単位年休を利用した場合の賃金計算例
時間単位年休の1時間分の賃金は、以下のいずれかをもとに計算します。
- 平均賃金
- 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
- 標準報酬日額(労使協定が必要)
これら1〜3のいずれかを、その日の所定労働時間数で割った金額が1時間分の賃金額です。たとえば、1日の勤務時間が8時間で、1日当たりの通常賃金が1万2,000円の場合は、「1万2,000円÷8時間=1,500円/時」と計算します。
時間単位年休を取得した日に残業した場合
週5日、1日1時間の休憩時間を挟んで10〜18時に働く場合、時間単位年休を取得しても、実際に働いた時間が1日7時間を超えなければ所定時間外労働(残業)とは見なされません。労働基準法は、実際に労働した時間が1日8時間(法定労働時間)を超えると割増賃金の支払い義務が生じるとしています。
たとえば、1時間当たりの賃金が2,000円で、1日6時間働き、2時間分の有給休暇を取得後、その日のうちに追加で1時間働いたとしても、実際に働いた時間は8時間を超えず、賃金は「(6時間+2時間+1時間)×2,000円」と計算されます。
中抜けをして時間単位年休を取得した場合
労働者は時間単位で有給休暇を取り、中抜けができます。この場合、勤務先の事業の正常な運営を妨げない範囲であれば会社側はこれを認めることになります。ただし、同時期に有給休暇取得の希望が集中するなどして、企業の運営に支障が出る場合は、企業に時季変更権が認められます。
中抜けをした場合の賃金の計算方法を整理します。8時間勤務で1日当たりの通常賃金が1万6,000円だとすると、有給休暇1時間当たりの賃金は「1万6,000円÷8時間=2,000円/時」です。残業なしで8時間勤務した場合と、時間単位で有給休暇を取得した場合の賃金に差はありません。
- 通常勤務:1万6,000円(8時間×2,000円)
- 6時間通常勤務+2時間有給:1万6,000円(6時間×2,000円+2時間×2,000円)
所定労働時間が8時間未満の会社における計算例
1日の勤務時間が7時間30分の場合、1日分の年休は8時間として考えます。
時間単位年休において、所定労働時間は最初に週単位、月単位で捉えるのではなく、1日当たりの時間数の分数を切り上げて考えます。
- 5時間40分→6時間
- 6時間30分→7時間
- 7時間45分→8時間
3. 時間単位年休制度についてよくある質問
時間単位年休を取得後、時間単位の端数の繰り越しについて
時間単位年休は時間単位で計算します。分単位での取得は認められていません。
たとえば、2時間の有給休暇を取得予定で、実際には使用したのが1時間45分しかなかったとしても、15分を次回以降に繰り越すことはできず2時間の取得扱いとなります。使用しなかった15分を次回以降に繰り越すことはできません。
年5日以上の時間単位年休の要望があったときの対応
時間単位年休について、労働者から「1年間で10日取りたい」「労使協定を結び1年5日以内ではなく20日以内にしたい」と要望があったとしても、労働基準法により決められたルールのため、年5日を超える取得はできません。
年5日の時間単位年休を使用しなかった場合の翌年の時間単位年休
労働者が取得しなかった有給休暇そのものの「残日数」と「時間数」は、次年度に繰り越されます。ただし、時間単位の有給休暇は、繰り越しがある場合でも、年5日までに制限されています。
たとえば、1日8時間勤務の労働者が有給休暇を10日と5時間分残したとしても、次年度に前年度繰越分の5時間分を加算して、時間単位で有給休暇を取ることはできません。時間単位で有給休暇を取ることができる時間数は、45時間ではなく、8時間×5日分の最大40時間です。
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