産後パパ育休
産後パパ育休とは?
2022年10月に創設された「産後パパ育休」は、子どもの出生後8週間以内に、父親が最長4週間の育休を取得できる制度です。2回までの分割取得ができるほか、育休中の就業も可能になるため、男性従業員の育休取得を後押しする効果が期待されています。
参考:育児・介護休業法改正のポイント│厚生労働省
産後パパ育休とは
産後パパ育休とは、「改正育児・介護休業法」によって2022年10月に施行された新たな育休制度です。正式名称は「出生時育児休業」で、子どもの生後8週間以内に、父親が2回に分割して4週間の育休を取得できるようになりました。労使協定を結ぶことによって育休中の就業が認められるため、男性従業員が育休を取得しやすくなります。
産後パパ育休でできること
産後パパ育休のポイントは以下の通りです。
- 子どもの出生後8週間以内に4週間まで、2回に分割して取得できる
- 産後パパ育休中に一部就業することが可能(労使協定と個別合意が必要)
- 産後パパ育休の申請期限は、原則として休業の2週間前まで
対象は、日雇い労働者などを除いたすべての男性社員ですが、養子縁組などの事情で産休を取得していない場合は、女性も取得することが可能です。また、有期雇用労働者は以下の条件を満たしている必要があります。
- 子どもの出生の日、または出産予定日の遅い方から起算して8週間を経過する日の翌日から6ヵ月を経過する日までに契約が満了することが明らかでない場合
例:子どもの出産予定日が3月28日で、誕生日(出生日)が2023年4月1日だった場合は、2023年11月26日までに契約が満了することや更新されないことが明らかでない人
産後パパ育休は、「出産直後」の「父親」の育休取得を目的としています。子どもが生まれて生活が変化するタイミングで育休を取ることで、父親が育児参加することを目的としています。
これまでは、子どもの出生後8週間以内に育休を取得して終了していれば、1歳までの間に2度目の育休を取得できた特例の「パパ休暇」がありましたが、2022年10月の改正で廃止されました。産後パパ育休は、産後に焦点を当て、パパ休暇をアップグレードしたものといえます。
産後パパ育休と育休の違い
産後パパ育休と通常の育休の違いは下記の通りです。
産後パパ育休 | 育休 | |
---|---|---|
対象期間 取得可能日数 |
子どもの出生後8週間以内に4週間まで | 原則子どもが1歳になる まで(最長2歳) |
申出期限 | 原則休業の2週間前まで | 原則1ヵ月前まで |
分割取得 | 2回まで取得が可能(最初にまとめて 申し出ること) |
2回まで取得可能(取得の際に それぞれ申し出ること) |
休業中の就業 | 労使協定を締結している場合に限って、 労働者が合意した範囲で休業中に 就業することが可能 |
原則就業は不可 |
通常の育休と産後パパ育休は、併用することができます。そのため、父親は子どもが原則1歳になるまでに、最大で4回まで分割して育休を取得することが可能です。特に出産直後は、母親の心身の回復にむけてサポートすることが大切です。産後パパ育休は、休業開始日の2週間前までに申請すればよいため、前後することが多い出産予定日にあわせて柔軟に育休が取得できます。
産後パパ育休とパパママ育休プラスの違い
育休の柔軟な取得を促進する制度として、ほかに「パパママ育休プラス」があります。2010年6月に創設された制度で、父親・母親の双方が育休を取得した場合、育休の期間を原則の「子どもが1歳になるまで」から、「子どもが1歳2ヵ月」まで延長できます。
通常、保育所に入所できないなどの理由がある場合に限り、子どもが1歳6ヵ月まで(再延長で2歳まで)延長が認められています。パパママ育休プラスでは、そのような理由がなくても延長できるため、働き方と保育状況に合わせて柔軟に育休を取得することができます。
・パパママ育休プラスの条件
(1) 育休を取得しようとする労働者(以下「本人」)の配偶者が、子の1歳に達する日 (1歳の誕生日の前日)以前において育休(産後パパ育休含む)を取得していること
(2) 本人の育休開始予定日が、子の1歳の誕生日以前であること
(3) 本人の育休開始予定日が、配偶者が取得している育休(産後パパ育休含む)の初日以降であること
産後パパ育休で人事担当者が知っておくべきこと
産後パパ育休を活用する際は、社会保険料の取り扱いや育休給付金の条件を確認しておく必要があります。
産後パパ育休中の社会保険料免除
育休期間(産後パパ育休を含む)中は、各月の月給・賞与に係る会保険料が、被保険者本人、事業主負担分ともに免除されます。
従来、社会保険料免除の対象は、「育休開始日が属する月から、育休終了日の翌日が属する月の前月まで」でした。2022年10月以降は、同一月内で育休を開始し終了した場合(「開始日」と「終了日の翌日」が同じ月にある)でも、その日数が14日以上の場合は保険料の免除対象になります。
なお、産後パパ育休中に就業した日がある場合、その日は育休の日数に数えられません。また、賞与に係る保険料は、賞与支払月の月末を含み、連続1ヵ月を超える育休を取得した場合に限り免除されます。
出生時育休給付金
「出生時育休給付金」とは、産後パパ育休を取得した際に支給される育休給付金です。育休中に支給される「育休給付金」と同様に、一定の条件を満たす必要があります。
出産時育休給付金の計算方法と支給要件は以下の通りです。
- 休業開始時賃金日額×支給日数×67%
※休業開始時賃金日額とは育児休業給付金を計算する基となる金額で、原則として育休開始前6ヵ月間の賃金の総額を、180で割って計算します。出生時育休給付金で支給された日数は、通常の育休給付の支給率67%の上限日数「180日」に通算されます。
【支給要件】
- 休業開始日前の2年間に、雇用保険の被保険者であった期間として賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヵ月以上あること(11日以上ない場合は就業している時間数が80時間以上)
- 産後パパ育休の取得日数を28日としたとき、休業中の就業日数が10日(10日を超える場合は80時間)以内であること
賃金支払基礎日数とは、賃金や報酬、給与などを計算する際の基になる日数のことです。病気やケガなどにより、30日以上勤務先企業から賃金の支払いが受けられなかった期間がある場合は、休業開始日前2年間を最長4年間まで緩和する措置があります。
また、産後パパ育休期間中に働き、事業主から賃金が支払われた場合は、賃金額に応じて支給額が調整されます。
産後パパ育休における企業の対応チェックリスト
産後パパ育休の創設に合わせて、就業規則を改定する必要があります。また、従業員に制度を周知できるよう、取得意向の確認方法や説明の仕方を整理します。
・就業規則の改定
育児介護休業に関する規定を、最新の法律に対応できるように改定します。産後パパ育休の対象者や申請期限、休業中の就業の可否について就業規則に明記。産後パパ育休中の就業については、使用者と労働者の間で協定を交わす必要があります。
・制度の周知、取得意向確認
育休は法律で定められた労働者の権利です。従業員から「制度について知らなかった」「自分が育休を取れると思わなかった」と言われることのないよう、説明の機会を設け、対象者がスムーズに育休を取得できるように取り組むことは、企業の義務です。
出産する本人はもちろん、配偶者の妊娠・出産を申し出た従業員に対して、企業は個別に育休およびパパ育休の制度について説明し、取得の意向を確認しなければなりません。また、取得を控えさせるような周知や意向確認をしてはいけません。
- 育休、産後パパ育休の取得可能期間などの概要
- 育休、産後パパ育休を希望する場合、どこに申し出ればよいのか
- 育児休業給付金についての基本的な内容
- 育休、産後パパ育休を取る期間は、健康保険料・厚生年金保険料などの社会保険料の負担がどのようになるのか
・育休を取得しやすい環境整備
従業員が育休を取得しやすいように、相談窓口の設置や研修の実施といった環境整備が、企業に義務付けられています。
- 育休、産後パパ育休の内容を理解するための研修を実施する
- 育休、産後パパ育休に関する相談窓口を設置し、従業員が利用しやすいように周知する
- 自社で育休、産後パパ育休を取得した従業員の事例を集め、書類やイントラネットなどで情報を提供する
- 育休、産後パパ育休の取得の促進に関する会社の方針を、会社内掲示板やイントラネットなどで労働者に周知する
・育休取得状況の公表
2023年4月から、従業員数が1,000人を超える企業は、男性労働者の育休の取得割合などを年1回公表することが義務付けられています。対象となる従業員数は、期間の定めなく雇用されている従業員だけではありません。パートやアルバイト、契約社員など、1年以上雇用されている者や1年以上雇用されることが見込まれる従業員も含みます。
公表の際は、以下のいずれかの割合を採用します。
- 育休などの取得割合=育休などを取得した男性労働者の数/配偶者が出産した男性労働者の数
- 育休などと育児目的休暇の取得割合=育休などを取得した男性労働者の数+小学校就学前の子どもの育児を目的とした休暇制度を利用した男性労働者の数/配偶者が出産した男性労働者の数
チェック | TO DO | 概要 |
---|---|---|
就業規則の改定 | 義務。産後パパ育休の対象者や、申請期限、 休業中の就業の可否について就業規則に明記 |
|
制度の周知 | 義務。育休の取得期間など概要や、給付金や 社会保険料の負担などについて説明する |
|
取得意向確認 | 義務。配偶者が妊娠した従業員に、 個別に育休取得の意向を確認 |
|
育休を取得しやすい環境整備 | 義務。相談窓口の設置や研修の実施など、 取得しやすい環境整備 |
|
育休取得状況の公表 | 従業員数が1,000人を超える企業は義務。男性 労働者の育休取得割合などを年一回公表 |
男性の育休の現状
産後パパ育休は、男性従業員の育休取得率向上を目的としています。実際の取得状況はどうなっているのでしょうか。
男性の育休・産後パパ育休の取得状況
パーソルキャリアが2021年に実施した意識調査によると、将来育休を取得したいと回答した男性は80.0%でした。しかし、育休を取得する男性は多いとはいえません。
『人事白書2023』によると、男性従業員の育休の取得率について「3%未満1日以下」と回答した企業が約3割で最多でした。
取得平均日数は「1週間以上1ヵ月未満」が約3割で最多でした。株式情報別では、上場・未上場に限らず「1週間以上1ヵ月未満」が最多で、取得日数が長いとはいえない状況です。
産後パパ育休の取得率は、「3%未満」が約3割と最多で、まだ制度が浸透していない状況がうかがえます。
男性が育休を取れない理由
厚生労働省の調査によると、女性従業員の育休取得率は8割です。男性は1996年度の0.12%から2021年度の13.97%に上昇したとはいえ、取得率は2割に満たず、低水準だといえます。また、男性の育休は取得日数が短い傾向にあります。
厚生労働省の2018年度のアンケートでは、男性が育休を利用しなかった理由として「収入を減らしたくない」「育休を取得しづらい雰囲気」などの回答がありました。
近年では、働き方の多様化に伴い、共働き世帯が増加しており、父母ともに育児に携わる必要性が増しています。男性が育休を取得するか否かは、女性のキャリア形成にも大きな影響を与えます。
対象者に制度を周知し、育休の取得意向を個別に確認することは企業にとって義務です。取得率を向上させるためには、育休を取得しやすい環境整備が求められます。
育休中も手取り10割補償か 2023年7月現在の最新動向
政府は男性の育休取得率について「2025年度に50%、30年度に85%」という目標を掲げています。2023年6月に、岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」の戦略方針が閣議決定されました。この方針には、父母で育休を取得した場合、育休取得期間中の28日を限度に、現状67%の給付率である育休給付金を、手取り10割相当に引き上げる施策が盛り込まれました。
2025年度の実施予定に向けて、2023年7月現在は具体的な予算と財源を検討。2023年末に結論を出す方針です。
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