「世界中の人々を魅了する会社を創る」を掲げ
日本全体の「人材の流動化」と
「組織変革の支援」を担う
株式会社アトラエ 代表取締役CEO
新居 佳英さん
「役職の撤廃」「日本初となる全従業員に対する特定譲渡制限付株式の付与」「勤務時間や働く場所を管理しない、自由度の高い働き方」――。従来の会社組織の枠にはまらない取り組みで、数多くのメディアに取り上げられ、業界内外から注目を集めているテック企業があります。成功報酬型転職メディア『Green』を運営し、2018年6月にわずか50人弱の社員数で東証一部への市場変更を果たした株式会社アトラエです。代表取締役である新居佳英さんが目指す、理想の組織・チームのあり方とはどういうものでしょうか。新居社長のキャリアの軌跡をたどりながら、創業時の思いやアトラエが描く未来、そして現代の日本企業が抱える「人と組織」の課題についてお話をうかがいました。
新居 佳英(あらい・よしひで)/株式会社アトラエ 代表取締役CEO。1974年生まれ、東京都出身。上智大学理工学部卒業後、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に入社。人材紹介事業部の立ち上げ、関連会社の代表取締役、本社で200人以上を率いる事業責任者を経験したのち、2003年株式会社アトラエを創業。IT・Web業界に強い成功報酬型の転職サイト『Green』の運営をはじめ、完全審査制AIビジネスマッチングアプリ『yenta』、組織改善プラットフォーム『wevox』などテック領域の新事業を次々と成功させ、2016年6月にマザーズ上場、2018年6月に東証一部への市場変更を果たす。共著書に『組織の未来はエンゲージメントで決まる』(英治出版)がある。
「ビジネスは面白い。でもサラリーマンには憧れない」と気づいた学生時代
大学生活を振り返って、新居社長はどんな学生でしたか。
全く勉強をしない学生でしたね(笑)。大学時代の仲間と一緒にイベント団体を運営していて、勉強よりもビジネスへの興味のほうが大きかったように思います。当時から、効率よく収益を上げられる仕組みを考えたり、仲間と一緒に何か新しいものを生み出したりすることが好きでした。
学生時代から、「起業したい」という思いを持たれていたのですか。
「起業」を初めて意識したのは、就職活動のときでしょうか。大学3年生になって将来について考えるようになり、私もほかの学生と同じように就職活動を始めました。当時、いちばん身近なサラリーマンといえば電車で出会うスーツを着た人たち。毎日よく人間観察をしていました。ただ、車内で見かけるサラリーマンはみんな一様に疲れた表情で、全然、楽しそうに見えなかったんですよね。そんな姿が、いわゆる“日本のサラリーマン”の象徴として印象に残りました。
「日本のサラリーマンは、いきいきとしていない」。この感覚は、就職活動で確信に変わります。どこの会社の説明会に行っても、どうしても興味がわかない。ビジネスの楽しさを語ってくれる経営者がいない。「この人と一緒に働きたい」と本気で思える仲間に出会えないのです。これから40年、50年と、自分の人生の貴重な時間を投資して、憧れないサラリーマンになるのか。そんなもどかしさを感じたことを覚えています。
一方、小さな規模ではありますが、学生時代に仲間と共に手がけたビジネスは、面白かった。収益を上げる仕組みを考えることは楽しく、やりがいがあり、多くの人に喜んでもらえることに醍醐味を感じました。「ビジネスは面白い。でもサラリーマンにはなりたくない」。それなら自分で理想の会社をつくればいいじゃないか。その発想が、起業を志すきっかけになりました。
大学卒業後、就職をせず起業する道も、検討されたのですか。
私が就職活動をしていた1996年当時は、まだインターネットも普及していなければ、学生ベンチャーなんて言葉もない時代。資本金には1000万円が必要で、今よりもずっと起業へのハードルが高かったのです。「いずれ起業したい」とは考えていましたが、すぐに会社を興すことは現実的ではありませんでした。それなら、最短距離で起業できる力を養える就職先を探そうと思い、検討した道は二つ。客観的に経営を学べる「外資系経営コンサルティング会社」か、創業社長の傍で経営に近い仕事を早期から任せてもらえる、今で言う「ベンチャー企業」か。その中で「この会社に入社したい」と唯一思えたのが、インテリジェンスという会社でした。
インテリジェンスのどのような点に惹かれたのでしょうか。
インテリジェンスは当時、リクルート出身者が立ち上げた勢いのあるベンチャー企業。会社説明会で、入社2年目・東工大出身の先輩がプレゼンテーションをしたのですが、その内容に圧倒されたんです。二つしか年齢が変わらないのに、こんなにうまくプレゼンができるのか、と驚きました。インテリジェンスには、年齢や社歴にかかわらず、実力がある人に仕事を任せる風土があり、実際に若くして事業をけん引するポジションに就いている人もいました。エネルギーあふれる異端児が集まっていることがわかって、「ああ、ここに仲間がいた!」と思いました。
ただ、インテリジェンスに就職すると言うと、周囲からは猛反対。母親からも教授からも友達からも「やめたほうがいい」と諭されました。上智大学の理工学部を卒業して、なぜメーカーや大手企業ではなく、名も知れない中小企業に就職するのか、信じられなかったようです。ただ、私自身には「将来起業する」という目標がありましたから、迷うことなく入社を決めました。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。