人材ビジネスを起点に、
個と組織をポジティブに変革する!
目の前の顧客と経営に集中する中で「理念」が生まれた
株式会社ウィルグループ 代表取締役会長 兼 CEO
池田良介さん
業種に特化した「人材派遣」「業務請負」「人材紹介・紹介予定派遣」などの人材ビジネスや語学教室、海外事業などを展開する30社近くのグループ企業を有する株式会社ウィルグループ。「個と組織をポジティブに変革するチェンジエージェント・グループ」を企業理念として、本業としてきた人材ビジネスにとどまらず、「遊ぶ」「学ぶ」「暮らす」などの分野でも事業展開も開始し、2020年までに年商1000億円の実現を目指しています。そんな同社を率いるのは、20年前の1997年にたった三人のベンチャー企業に飛び込んだ代表取締役会長兼CEOの池田良介さん。経営者になるための「修業」の場と考えて入社した会社で、わずか3年後に社長を任されることになります。しかし、経営者としての道は決して順風満帆ではなく、さまざまな困難や葛藤との戦いでもあったといいます。まっさらだったベンチャー企業を業界の有力企業にまで育て上げたプロセス、独自の経営理念が生まれた背景、さらには今後の事業構想や池田さんが考える市場の展望など、人材ビジネスから経営全般まで、幅広いテーマについて語っていただきました。
- 池田良介さん
- 株式会社ウィルグループ 代表取締役会長 兼 CEO
いけだ・りょうすけ/1968年、兵庫県生まれ。「事業を起こす」という起業への思いから、1997年株式会社ビックエイドの立ち上げに参画。2000年に株式会社セントメディアとの統合により代表取締役就任。以降、人材サービスを中軸に成長し、2006年親会社である株式会社ウィルホールディングス(現、株式会社ウィルグループ)を設立し、代表取締役社長に就任。2016年6月から現職。
「経営者として成功する!」強い思いを抱いてベンチャーに
学生時代から「経営者」を目指していたとお聞きしました。その理由は何だったのでしょうか。
きっかけの一つは、21歳のとき、大切な母を亡くしたことでした。少しさかのぼりますが、私の祖父は九州から神戸に裸一貫で出てきて、手広く事業を手がけて財を成した人だったそうです。ところが、資産家の息子として何不自由なく育った父の代になると、飲食業に不動産業と二度も会社経営に失敗して、財産を全部使い果たしてしまいます。そんな状態ですから、母ががんになっても入院費が払えず、十分な治療を受けさせることもできませんでした。
その意味で父は反面教師でしたが、同時に父が成功できなかった経営の道で成功したいと思うようにもなりました。祖父の代から経営者だった家の影響もあったのかもしれませんが、組織に属して安定したサラリーマンになるという選択肢は考えませんでした。経営者として成功し、守りたい人を守れる強い自分になりたいと思ったのです。そして、経営で成功するために必要なのは、経理の知識やスキルだと考えました。そこでまずは経営の裏側を勉強しようと、会計事務所に就職します。これが私の経営修業のはじまりでした。
会計事務所で経理を学び、その後に現在の仕事につながる転職をされるわけですね。
1995年に「阪神淡路大震災」を目の当たりにしたことも大きな転機でした。生きているうちにやりたいことを思い切りやらなくてはいけない。改めてそう痛感しましたね。そこで転職先として選んだのが、現在のウィルグループへと続く「ビッグエイド」という会社でした。
ビッグエイドを一言でいえばまさに草創期のベンチャー企業。スタッフは社長、支店長、私の三人だけ。すべてがこれからという環境でした。私にはそのほうが好都合だったのです。会計事務所で企業のお金の流れはわかるようになった。あとは営業さえ勉強すれば独立開業できる。大きな組織の小さな歯車になるよりも、小さな会社の大きな歯車になったほうが、将来起業する際には役に立つはず。そう考えていたのであえてスタートアップの経験を積める会社を探して転職したのです。
ビッグエイドではどのような経験をされたのでしょうか。
事業内容は製造業向けの業務請負。といっても何の実績もない、まっさらな会社です。社長は「これからは人材の時代だ。お客さんからガンガン電話がかかってくるから」と威勢のいいことを言っていましたが、実際に始めてみるとアポイントさえもまったく取れません。何とかしないといけないということで、事務所にずっと泊まり込んで一日20時間働くような日々。そして、根拠なき自信を持って、サービスよりも自分自身を売り込んでいく。「僕に任せてください!」と営業先で言い切ることで、少しずつ実績を積み上げていくわけです。もちろん、素人集団だから最初のうちは失敗の連続。顧客先で厳しく叱咤をうけることもありましたね。でも、スタッフと一緒になんとか現場を良くしようと、逃げずに向かっていく。この時の経験から生まれたのが、「Believe in Your Possibility(自らと仲間の可能性を信じよ)」という合言葉。今も私たちの会社の価値観として受け継がれています。
苦しい中から生まれたといえば「ハイブリッド派遣」というシステムもそうです。当時は派遣スタッフの人手が足りなかったので、苦肉の策で社員が現場に入って一緒に作業をしたのです。これが結果的に、現在の顧客に密着するスタイルにつながりました。社員が近くにいることで、作業のクオリティーもコントロールしやすいし、改善すべき点などにも即座に対応できる。顧客にもスタッフにも非常に好評で、現在では派遣ビジネスにおける私たちの大きなセールスポイントになっています。
がむしゃらに働いたかいがあって、ビッグエイドはわずか3年ほどで年商5億円規模へと急成長していきました。その間、社長が私の仕事ぶりを見て、事業運営を任せてくれました。営業以外にも、損益計算書を自分で作ったり、予算を組んだりもできたんです。人材採用なども含めて資金繰り以外は、経営に関するほとんどすべての業務を学べたと思います。ハードワークは続いていましたが、私としては「お金をもらいながら経営の勉強をさせてもらっている」という感覚。この経験をもとに将来は起業したい、成功したいという思いで取り組んでいたので、とにかく仕事が楽しくて仕方がない時代でした。
日本を代表するHRソリューション業界の経営者に、企業理念、現在の取り組みや業界で働く後輩へのメッセージについてインタビューしました。