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人は育てるのではなく、自ら成長するもの
人が育つ風土づくりを極め、さらなる飛躍のステージへ

株式会社日本能率協会マネジメントセンター 代表取締役社長

長谷川隆さん

人をあきらめない、一人ひとりが持つ成長の可能性をあきらめない

 JMAMは、人材育成支援の分野で圧倒的な地位を確立しています。「人を育てる」ということに関して、長谷川社長ご自身のお考えをお聞かせください。

長谷川 隆さん インタビュー photo

そもそも「人を育てる」という言い方自体、少し傲慢(ごうまん)なのではないでしょうか。当社のホームページにも書いたのですが、人は本来、育てるものではなく、自ら育つものです。成長を目指すのは人間の生来の姿であり、何よりも大切なのは、そのための環境を整えること。自ら育つ風土づくりを通じて、個人と組織の成長を支えていくことこそが、われわれの使命であると考えています。あらゆる業種・業界で、将来を担う人材が求められる中、その育成プロセスをどう支援すれば、もっとお客様のお役に立つことができるのか。まだまだ現状には満足していません。

当社はもともと日本能率協会の時代から、現場の基本能力を一律的に底上げする階層別教育に強みがありました。もちろんそれは引き継ぎますが、いま求められるのは、時代の変化を読み取り、自ら変化を創り出せる人材です。イノベーティブリーダー、チェンジエージェントと言い換えてもいいでしょう。そうした人材が育つための支援として、当社はお客様の課題やニーズに耳を傾けながら、時代に即した新しい学習の機会や場の提供に努めていきたいと考えています。

 第二の収益の柱である手帳事業について、その成長の要因を教えてください。

「なぜ、教育と手帳を一緒にやっているんですか」とよく聞かれるのですが、時間をマネジメントしたり、デザインしたりすることは、人の成長にとって非常に重要な要素だと、われわれは考えているからです。手帳はそのために最適なツールです。手前味噌ではなく、「人は手帳で育つ」といっても過言ではありません。

実際に、当社では “学生向けのビジネス手帳”というものを展開し、全国800以上の高校(一部中学)に、教材として採用していただいています。仕様はビジネスパーソンが使う手帳とほぼ同じ。いわゆる生徒手帳ではありません。ToDoや一日の振り返り、先生のコメント欄もついているので、これを活用すると、学生の頃からPDCAサイクルを回して、やるべきことを自己管理する習慣が自然と身につきます。なかには野球部やサッカー部など、部活動単位でご採用いただくケースもありますが、生徒が手帳を使い始めると、練習だけでなく、生活もきちんと管理できるようになる。手帳で強くなった、成績が上がったという報告も届いています。

 手帳に教育効果があるわけですね。

はい。実際、手帳の売上は年々伸びていますから。デジタル全盛の時代だから、スケジュール管理もスマートフォンだけで十分なのかと思いきや、意外に手帳と併用している人が多い。そういう私も両方使っています。デジタルがいくら進んでも、いいえ、進めば進むほど、人は書きたくなるのではないでしょうか。書いて、後で振り返ることに意味があるからです。スマホで振り返ることはほとんどありませんが、手帳なら、過去のメモや書き込みを見て、半年前、一年前の自分の思いや考えを振り返ることができます。自分で、自分の成長を確認できるわけです。人が自ら育つ上で、これはものすごく大きなことです。たしかな手ごたえを実感することで、その喜びがさらなる成長のエネルギーに変わり、自分の中のエンジンがどんどん回り始める。人から認められたり、ほめられたりすることも大切ですが、自らの歩みに自ら気づくことこそが最も重要な成長エンジンであると、私は確信しています。

 人事関連市場、とくに教育研修業界の現状をどう見ていらっしゃいますか。

活性化してきていることは間違いありません。競争が激化し、専門性や際立った特徴が評価される時代ですから、お客様に「これでなければダメ」と言われるほど、強く求められるものを出していかなければならない。「何でも揃っていて百貨店みたいですね」と言われるようでは、生き残っていくのが難しいでしょう。また、国内市場だけを見ていると、少子化の影響で、教育も手帳も先細りのように思えますが、海外では企業のグローバル展開の流れが加速しており、日系企業だけをとっても、進出先での人材育成に関する案件は増えているのが現状です。特に現地人材に、英語や現地語で学んでもらうための教育研修プログラムへのニーズが高まっていますが、日本語版をただ翻訳すればいいというわけではありません。現地の文化や伝統、生活習慣など、バックグラウンドを理解した上で作り込まなくてはならないので、難しいです。

 企業の人事部門の現状についても、ご見解をお聞かせください。

経営からも、現場からも、人事部門に対する期待や要求はますます高まっています。人事の責任者の方とお話しすると、みなさん、対応すべき課題が多すぎて悩んでいらっしゃる。人事は活動の重点をより絞りこんで、経営に資する戦略部門として強くなっていくべきでしょう。そのためには経営の意思を理解するだけでなく、それを具現化する現場の最前線も知っていなくてはなりません。だから、人事パーソンは机に座っているだけではいけないと、私は思っています。そしてもう一つ、社内の常識やネットワークだけですべてを解決しようとしないことが大事ではないでしょうか。異なる組織や業界の人と進んで交流し、社内にはない新しい知恵を取り入れながら課題に取り組むことが、今後ますます必要になってくると思います。

 ありがとうございました。最後に、ご自身の今後の展望と抱負、そして人事サービス業界に携わっている方々へのメッセージをお願いします。

歴史や伝統といったものをあまりあてにせず、とにかく「顧客起点」――たえずお客様のそばで、お客様の声に耳を傾け、お客様が何を本当に求めているかを確かめ、そこからすべての事業を見なおしていくことを、社員には求め続けていきたいです。ただし、経営者の思いが、現場にはなかなか伝わりにくいことも身に染みています。言葉で論理的に説得することも大切ですが、それだけでなく、思いに共感してもらわなければならない。そのため私は、現場にあれこれ求める前に、まず彼ら自身の成長を支援し、ハッピーになってもらおうと思っています。「紺屋の白袴」ではありませんが、お客様にいくら成長する喜びを提供しようとしても、自社の社員がそれを実感していなければ、お客様にも伝わってしまいますから。

人の成長を支援することは、本当にやりがいのある仕事です。しかし、人にはそれぞれ個性や違いがあり、こちらが思うようにはなかなか動いてくれません。時間がかかって、もどかしく感じることも多いでしょうが、決して人をあきらめないこと。一人ひとりが持っている成長の可能性をあきらめないこと。それが、この仕事に携わる上で一番大切なことではないでしょうか。

長谷川 隆さん インタビュー photo

(2016年4月8日 東京・中央区の日本能率協会マネジメントセンター本社にて)

社名株式会社日本能率協会マネジメントセンター
本社所在地東京都中央区日本橋2-7-1 東京日本橋タワー
事業内容人材育成支援事業(通信教育事業、eラーニング事業、研修事業、アセスメント事業)/手帳事業(手帳、システム手帳、カレンダー、家計簿などの開発制作および販売)/出版事業(ビジネス書の発行、資格関連図書・資料の出版)
設立1991年8月8日(営業開始日1991年10月1日)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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この記事ジャンル 能力開発関連制度

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