NTTコミュニケーションズ株式会社
きっかけを与え、フォローし続ける。
ベテラン社員の活性化に近道はない
一人で1000人と面談した人事マネジャーの挑戦(後編)[前編を読む]
NTTコミュニケーションズ株式会社 ヒューマンリソース部
人事・人材開発部門 担当課長
浅井 公一さん
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より手厚いフォローと多様なCDP作りが今後の課題
今後、浅井さんが人事関連で挑戦したい取り組みがあれば教えてください。
いま私が行っていることは、完成形ではありません。まだまだ2合目、3合目あたりだと思っています。私のエネルギーを10とすると、現状は研修に3、面談に6、フォローに1くらいの比率で配分していますが、今後はそれを、研修1、面談3、フォロー6程度の割合に変えていきたいですね。現在実施している面談後のフォローからも、フォローの効果は研修や面談以上のものがあると実感しています。キャパシティー不足のために実現できていませんが、今後はそれをさらに手厚くしたい。それができたら、完成形と言えるかもしれません。
そしてもう一つ、CDP(career development program)の考え方を見直したいと思っています。ベテラン社員が活躍できない要因は、本人たちだけにあるわけではありません。30代で課長に、40代で部長になって、その段階に応じて自己成長していく。そんなキャリアの道を、これまで多くの社員が信じてきました。しかし実際には、会社の年齢構成の変化などもあり、管理者になれない社員が増えていきます。
「管理者になる」という道しか知らなければ、管理者になれなかった場合、その後の自分のキャリアをイメージできなくなってしまいます。ベテラン社員が自分の力を活かせない背景には、そういった問題があるのです。しかし、管理者になれなかった社員に別の選択肢を示すことができれば、状況は変わるはずです。20代、30代の若い頃から、管理者になること以外にも、それに勝る素晴らしい道があること示してあげることが重要だと思います。
また、私の究極の目標は、採用面接に来た学生に応募動機を聞いたとき、「50代になっても活躍できる会社だから」と言ってもらうこと。ベテラン社員がいきいき働く姿に、若者が魅力を感じてくれるような会社を、人事としてつくっていきたいと思っています。
ベテラン社員の活性化に取り組む多くの会社の人事担当者に向けて、メッセージやアドバイスをお願いします。
当社のまねをしたところでうまくいかないと、お伝えしたいですね。会社にはそれぞれ、独自の企業文化や慣習があり、人事制度も違えば組織構造も違います。それらを理解した上で、自社にあった手法を作り上げていくべきだと思います。そのためには、できるだけ多くの社員の話を聞いて、自分たちの会社が今どうなっているのかを理解すること。また、社員の心の声にも耳を傾けていくことが大事です。
面談を行う中で感じたのは、上司と部下の間でコミュニケーションにギャップがある、ということ。部下は上司に、懇切丁寧に説明してほしいと思っているけれど、上司は形式的に説明しがちです。上司は「ちゃんと説明した」と言うけれど、部下は「きちんと説明してもらってない」と言う。そこに、ギャップが生まれてしまっているのです。問題は、その溝をどう埋めるのか、ということです。上司が自分の子どもと接するのと同じ気持ちで部下と接すれば、この問題は解決します。子どもには「どの塾に通わせようか」と能動的に検索するのに、部下に対して「どの研修を受けさせようか」と、能動的に自分で調べている上司がどれほどいるでしょうか。こういうやりとりができる上司であれば、部下も「がんばろう」「期待に応えよう」と思うのです。
ベテラン社員の活性化は、上司が行うべきテーマなのでしょうか。
本来は、上司が取り組むべきだと思います。ただ、現在の当社では、人事が行ったほうが良い面もあります。上司のほとんどがプレイングマネジャーなので、部下とじっくり関わることができず、ベテラン社員をフォローすることが難しくなっているからです。しかし、「わが社のHR部は自分のことをちゃんと気にかけてくれている」というよりどころがあることが安心と会社に対する信頼を呼び起こすのです。会社としてベテラン社員への取り組みが過渡期となっているだけに、HR部こそが、これをやらなければなりません。もちろん、ベテラン社員にかかわらず社員の育成、活性化は上司の本来業務であることは間違いありません。
ありがとうございました。最後に、浅井さんにとって人事のミッションとは何だとお考えなのか、お聞かせいただけますか。
個への対応です。「入社○年目の社員にはこう対応しましょう」などと層で対応しがちですが、同じ年代の社員でも一人ひとりの悩みは大きく異なります。しかし、最近は人事部がグローバル展開や新技術・新制度への対応に追われていて、個別の悩みにまで、対応できなくなっています。これは、大きな問題ですね。どんな状況にあっても、社員一人ひとりと個別に接すること。それこそが、人事の基本であると私は信じています。
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