2010年4月「改正労働基準法」施行が与える影響
事前に人事担当者が考えておくべき「人事管理システム」とは?
来る2010年(平成22年)4月1日、いよいよ「労働基準法の一部を改正する法律」(改正労働基準法)が施行される。長時間労働を抑制し、働く人の健康確保や仕事と生活の調和を図ることを目的としたこの法律。「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率を、50%以上に引き上げ」「5日以内の年次有給休暇を、時間単位で取得が可能」といった施策が、いよいよ実現することになる。まさに人事担当者にとっては、大きなターニングポイント。労働時間管理について、従来と変わらぬ姿勢で対応しているようでは、大きな問題へと発展する可能性もある。このような時こそ、法律に関する正しい知識を持ち、どのような制度や仕組みが望ましいのかを見極め、その運用方法をしっかりと定めていく必要があるだろう。特に、「給与計算システム」や「勤怠管理システム」は、プログラムの修正や導入が簡単には進まないケースも想定されるため、早急な対策が必要。それでは人事担当者は、法の施行を前にして、どのような姿勢をとるべきなのだろうか…。事前に検討しておくべきことについて、まとめてみた。
2010年4月「改正労働基準法」の内容
1990年代以降、企業を取り巻く経営環境は大きく変化した。その中で、規制緩和の動きが一段と活発化していった。とりわけ、人事担当者にとってみれば、労働関連法規が緩和の方向に舵を切っていったことは周知の事実であろう。さらに近年では、行き過ぎた長時間労働などへの反省から、「ワークライフバランス」の見直しも叫ばれている。今回の労働基準法の改正は、そうした動向と歩みをそろえたものと言えるだろう。最初に、今回改正された内容について、そのポイントを整理していこう。
(1)時間外労働の長さに応じて、「割増賃金率」が引き上げ
まず、時間外労働の「割増賃金率」が引き上げられたことが大きな改正点である(図1参照)。当初、経営体力を削ぐということで、企業側から強い反発があったが、結局、1ヵ月60時間を超える時間外労働について、法定割増賃金が現行の25%から、50%へと引き上げられることになった。これも、長時間労働を是正しようという行政側の狙いがあったからだ。ただし、60時間までは今まで通り、25%の割増賃金率となる。
また、今回の割増賃金の引き上げはあくまで「時間外労働」が対象であり、「休日労働(35%)」「深夜労働(25%)」の割増賃金率の変更はない。なお、中小企業については当分の間、法定割増賃金率の引き上げは猶予されることになった。施行から3年経過後に、改めて検討されることとされている。ちなみに、中小企業の要件は、以下の通りである。
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- 1.資本金の額または出資の総額が、
- 小売業:5000万円以下、サービス業:5000万円以下、卸売業:1億円以下
- 上記以外:3億円以下
または
- 2.常時使用する労働者数が、
- 小売業:50人以下、サービス業:100人以下、卸売業:100人以下
- 上記以外:300人以下
そして、事業場で労使協定を締結すれば、1ヵ月に60時間を超える時間外労働を行った労働者に対して、改正法による引き上げ分(25%から50%を引き上げた差の25%分)の割増賃金の支払いに代えて、有給の休暇を付与することで代行できるようになった。割増賃金率の引き上げに対して、企業側の言い分がこうした形で認められたと思われる。ただし、労働者がこの有給を取得した場合でも、現行の25%の割増賃金の支払いは必要となるので注意を要する。
(2)割増賃金引き上げなどの「努力義務」が労使に課される
また、「時間外労働の限度時間」により、1ヵ月に45時間を超えて時間外労働を行う場合には、あらかじめ労使で特別条項付きの「時間外労働協定」を締結する必要があるが、今回、新たに以下の3点が企業規模を問わず、「努力義務」として課されることになった。
- 特別条項付きの「時間外労働協定」では、月45時間を超える時間外労働に対する割増賃金率も定めること
- 上記1.の率は、法定割増賃金率(25%)を超える率とするように務めること
- 月45時間を超える時間外労働を、できる限り短くするように務めること
(3)年次有給休暇を「時間単位」で取得できるようになった
現行では、年次有給休暇は「日単位」で取得することとされているが、今回の改正により、事業場で労使協定を締結すれば、1年に5日分を限度として、「時間単位」で取得できるようになる(図2参照)。また、所定労働日数が少ないパートタイム労働者なども、事業場で労使協定を締結すれば、「時間単位」で取得することができる。
その際、年次有給休暇を「日単位」で取得するか、「時間単位」で取得するかは、労働者が自由に選択することができる。例えば、労働者が「日単位」で取得することを希望した場合に、使用者が「時間単位」に変更することはできない。この年次有給休暇の「時間単位」の取得というのは、労働時間や勤務体系の見直しが叫ばれている中にあって、これまでにない大きな改正だと言える。
このように見ていくと、今回の改正というのは企業の人事労務管理システムにとって、「時間・休日」「賃金」など実務の面で、大きな影響を及ぼすことになることは間違いないだろう。
人事担当者が事前に講じておくべきことは何か?
近年、労働関連法規の改正の頻度が高くなっており、企業の人事労務管理に大きな影響を及ぼしている。今回の改正でも、時間外労働の割増賃金率の引き上げや有給休暇の時間単位取得など、日常的な労働条件が改正されるということで、早期にその内容を把握し、対応策を決定する必要がある。
(1)「改正労働基準法」の「問題点」
■休日労働の賃金割増率との「逆転現象」
今回の「改正労働基準法」には、人事労務の実務面から考えた場合、幾つかの「問題点」がある。その点をまず、指摘しておこう。というのも、月の時間外労働時間が60時間を超えた場合、時間外労働の賃金割増率が50%となるのに対し、休日労働の賃金割増率は35%のままなのである。
そもそも労働基準法では、休日労働に時間外労働という概念は存在しない。休日に8時間を超えて労働したからといっても、それは時間外労働ではなく、あくまで休日労働なので、35%割増のままということになる。その結果、月の時間外労働時間が60時間を超えた場合、休日労働の賃金割増率と時間外労働の賃金割増率との「逆転現象」が起きることになったのだ。
■労働時間の限度に「二重基準」が
労働基準法36条2項に基づく「限度基準」では、45時間超えはあくまでも特別の場合であるとして例外的に取り扱っている。事実、全国の労働基準監督署においては、「特別条項付き協定」という特例を認めることで、「時間外労働は1ヵ月45時間を超えてはならない」という原則を守るように指導している。
これに対して、今回の法改正によって労働基準法37条には「月間時間外労働時間が60時間を超えた場合は、5割増の割増賃金を支払わなければならない」と明記された。法条文で「60時間を超えたら5割増」と定めたことにより、「時間外は45時間を超えてはならない」のではなくて、「60時間になっても構わない。60時間を超えても、5割増を払えばいい」と判断される恐れがある。
ただ、これらの問題点については、2010年4月の施行までに、何らかの施行規則等が通達されるものと思われる。人事担当者としては、行政の動きに当分目が離せない状態が続く。
(2)人事労務の実務面での対応
■情報システムへの影響が出てくる
前述したように、今回の改正では「時間単位」の有給休暇取得が可能になるなど、大きな変更点が挙げられている。そのため、各企業での就業規則の規約改定や見直しに伴う情報システムへの影響が、いろいろと出てくると予想される。
賃金計算システムの変更準備以外にも、法的に対応すべき事項がある。 特に「60時間超えの代償休日」と「年休の時間単位付与」に関しては、就業規則や社内規定の改正、労使協定の締結の準備などを、今から進めておく必要がある。
そして、この機会に「月60時間を超える時間外労働の防止」に関して、じっくりと取り組むことを考えていくべきではないか。例えば、「時間外割増賃金率」の変更について、中小企業では当分の間、今回の改正法は適用されない。これがある意味でポイントとなる。会社により割増賃金率が異なるということは、就職をする際の一つの「指標」となることが予想される。つまり、求職者からすれば、中小企業ではなく割増率が高い大手企業に就職したいと思うのは当然のことである。中小企業に配慮した点が、こと採用という点では“裏目”に出たと言えるのではないか。いずれにしても、割増率は法令に適用させて、実際は時間外労働をさせない取り組みを行うことが求められよう。
また、これまで労働慣例上、「ハンドン」「半日有給」「半休」などと言われていたものが明文化されることになった。半日という表現が具体的ではないので、1時間単位での付与という形式に落ち着いたようだ。
こうした点を受けて、会社の就業規則においても、半日休暇を認めている場合は表記を1時間単位と具体的にすることが必要になる。例えば、定時時間が9時~18時の場合、昼休憩の前後で半日を決めていることが多いが、これは具体的ではない。今回の法改正の狙いからいっても、好ましくないと思われる。
以上、見てきたように、今回の改正によって、企業はもちろん働く側にとっても、時間・休日管理の面で、大きな意識改革を迫られることになった。特に人事担当者にとっては、給与計算システムや勤怠管理システムなどについて、新たに導入する場合も、またプログラムを修正する場合にも、早めの対策が必要になってくるのは間違いない。今や人事管理システムは、適切なマネジメント運用のカギとなっているからだ。
変化のスピードが著しい現代、人事管理システムには、さまざまな動きに迅速且つ柔軟に対応できる工夫が求められる。もちろん、人事担当者自身も、将来的に起こる法改正などを見越して、早い段階からどのような対策が必要なのか、しっかりと検討しておく必要があるだろう。
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