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有賀 誠のHRシャウト! 人事部長は“Rock & Roll”【第39回】
CHROを考える(その3)
人事戦略のフレームワーク

株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト本部長

有賀 誠さん

有賀 誠のHRシャウト! 人事部長は“Rock & Roll

人事部長の悩みは尽きません。経営陣からの無理難題、多様化する労務トラブル、バラバラに進んでしまったグループの人事制度……。障壁(Rock)にぶち当たり、揺さぶられる(Roll)日々を生きているのです。しかし、人事部長が悩んでいるようでは、人事部さらには会社全体が元気をなくしてしまいます。常に明るく元気に突き進んでいくにはどうすればいいのか? さまざまな企業で人事の要職を務めてきた有賀誠氏が、日本の人事部長に立ちはだかる悩みを克服し、前進していくためのヒントを投げかけます。

みんなで前を向いて進もう! 人事部長の毎日はRock & Roll だぜ!――有賀 誠

本連載では、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生からの「日本には真のCHRO(Chief Human Resources Officer)が不足している」という問題提起を受け、人事担当役員(関係性の人)とCHRO(パフォーマンスの人)の違いについて私の考えを紹介し、世の中のニーズからくるCHROの兼業の可能性や、CHRO養成のために兼務を考えるべきであることを述べてきました。

CHROは、経営戦略としての人事を考え、それを推進実行しなければなりません。今回は、その際に参考になるであろう「人事戦略のフレームワーク」をご紹介します。これは、私がビジネススクールで学んだ内容や、これまでに勤めた複数の企業での経験からまとめたものです。

環境分析

人事戦略は経営戦略の一環ですから、当然のことながら、まず押さえるべきは「A. ビジネスの現状と展望」です。世界経済や業界の状況、競争相手の動向や新規参入の脅威を、できるだけ客観的に分析します。

次に、上記で踏まえた分析結果を受けて、それが人や組織の面において「B. わが社を取り巻く環境」にどのようなインパクトを及ぼすのかを考えます。具体的には、優秀な人材の採用は可能なのか、社員の引き抜きの脅威はないか、為替や金利の変動に対して人件費を一定にコントロールできるのか、将来的な法改正への対応は想定してあるか、といったことです。

人材戦略のフレームワーク
人材戦略のフレームワーク

強みと課題

さて、人と組織の面で、業界内や市場における「C. わが社の強み 」は何でしょうか。優秀な社員や充実した教育体制などといった、通り一遍の項目を羅列しているだけではいけません。競争相手に対して本当に自社は勝っているのか、冷静に分析してください。優位性とは相対的なものです。競争相手や世の中の水準と比較して明確に優れている場合のみ、「強み」と呼ぶことができます。

そして、次は「D. わが社の課題」です。冷静に自社を見つめてください。第三者の目が極めて有効なテーマなので、転職してきたばかりの社員や、外部コンサルタントの意見を謙虚に聞くことをお勧めします。現経営陣のあとを継ぐ世代に優秀なリーダー候補はいるのか、彼らに経営者になるための試練を課しているか、優秀な社員が離職してはいないか、旧態然とした人事制度を今の時代に押し付けていないか、勤怠や健康管理やハラスメントのリスクはないかなど、組織として考えうる脅威をすべてリストアップします。

兆候としての課題(サクセッション・プランの失敗、高い離職率、メンタル事例の多発、ESサーベイの低スコアなど)が見えているなら、それは氷山の表層のほんの一部分であり、必ず底に「E. 真因(Root Cause)」があるはずです。ぜひ「なぜ、なぜ、なぜ」と自問し、その真因に迫ってください。そうでなければ解決策を考えることはできません。

さらには、その課題と真因を放置した場合、どのような「F. ホラー・シナリオ」が待っているのかを仮想してみます。ここでは、あえて最低最悪のケースを考えてみてください。例えば、次世代の経営リーダーを発掘・育成することができずに業績が下降する、優秀な社員が競合に引き抜かれて主要事業の組織が崩壊する、労務問題が大きな裁判につながり企業としての評判が地に落ちる……。

ここで一旦、手を止めて、次はポジティブなことを考えます。

あるべき姿とアクション・プラン

現状からの積み上げではなく、夢の企業、理想の組織を作れるとしたら、それはどのようなものでしょうか。その「G. あるべき姿」こそが、人事部門のパーパスかもしれません。そして、現状とあるべき姿のギャップを埋める施策群こそが、人事戦略におけるアクション・プランになります。

「H. 強みを伸ばす施策、課題を克服する施策」を考えうる限りリストアップします。チームでブレインストーミングを行えば、どのような企業でも100件以上のアイデアが出てくるはずです。そしてそれらは、上述の「現状とあるべき姿のギャップ」を埋めるアクション・プランの候補なのです。

次にそれらを、「I. 施策優先度(緊急度×重要度)」のマトリックスの中にプロットしてみます。自社にとってのマトリックスの座標軸は、緊急度、重要度ではなく、有効度、即効性、自社らしさといった項目であるべきかもしれません。いずれにしても、自分たちの置かれた環境と目指す世界観との関係性の中で、ベストな組み合わせを設定することが大切です。それが、3次元ということもありえるでしょう。

ここまでくれば、あとは優先度の高い施策を、リソースや予算を勘案して「J. スケジュール」や人事部門の業務目標に落とし込むことになります。仕上げのプロセスとして、このアクション・プランを実行すれば、「G. あるべき姿」を実現でき、また「F. ホラー・シナリオ」に陥る事態を防げることを確認しておきます。

これで、人事戦略の完成です。「もっと〇〇の情報収集を」「優先順として〇〇の方が上ではないか」といった声は出るかもしれませんが、分析・検討のロジック自体が否定されることはないはずです。ぜひこの人事戦略のフレーワークを活用してみてください。あなたが優れたCHROとなるための、第一歩かもしれません。

有賀誠の“Rock & Roll”な一言
戦略には必ずフレームワークがあるもの。
人事だってそれは同じだぜ!

有賀 誠
有賀 誠
株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 人材ファースト統括

(ありが・まこと)1981年、日本鋼管(現JFE)入社。製鉄所生産管理、米国事業、本社経営企画管理などに携わる。1997年、日本ゼネラル・モーターズに人事部マネージャーとして入社。部品部門であったデルファイの日本法人を立ち上げ、その後、日本デルファイ取締役副社長兼デルファイ/アジア・パシフィック人事本部長。2003年、ダイムラークライスラー傘下の三菱自動車にて常務執行役員人事本部長。グローバル人事制度の構築および次世代リーダー育成プログラムを手がける。2005年、ユニクロ執行役員(生産およびデザイン担当)を経て、2006年、エディー・バウアー・ジャパン代表取締役社長に就任。その後、人事分野の業務に戻ることを決意し、2009年より日本IBM人事部門理事、2010年より日本ヒューレット・パッカード取締役執行役員人事統括本部長、2016年よりミスミグループ本社統括執行役員人材開発センター長。会社の急成長の裏で遅れていた組織作り、特に社員の健康管理・勤怠管理体制を構築。2018年度には国内800人、グローバル3000人規模の採用を実現した。2019年、ライブハウスを経営する株式会社Doppoの会長に就任。2020年4月から現職。1981年、北海道大学法学部卒。1993年、ミシガン大学経営大学院(MBA)卒。

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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東京都 情報サービス・インターネット関連 2023/04/20

 

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【用語解説 人事辞典】
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