“社員を“幸せ”にする企業経営のあり方とは
法政大学大学院政策創造研究科 教授
坂本 光司さん
社員を幸せにするために、人事部が取り組むべきこと
人材教育の重要性と社員の幸せとの関連について、どのようにお考えですか。
人間には、成長したいという欲求があります。その欲求を満たすためには、個人の努力が必要ですが、会社として支援することも重要です。社員を幸せにすることが会社の目的だからです。人は成長していなければ、幸せと感じることができません。個人でやるべき問題は別ですが、会社としても個人が成長できる環境を準備するべきです。
具体的には、社員教育に関してもっと費用や時間を取るべきでしょう。というのも、会社の教育訓練費用、教育訓練時間と会社の業績を調べてみると、正の相関関係があるからです。考えてみれば、これは当たり前のことです。人を教育することは、人を伸ばすということであり、能力やスキルだけでなく、人をより魅力的にすることです。これは良い商品を作るだけでなく、お客様に対して良いサービスを提供し、良い関係を構築していくことにもつながります。それが結果として、会社の業績を高めることになるのです。
社員を幸せにするために、効果的な福利厚生施策はありますか。
社員とその家族の永遠の幸せを実現するという考えにおいて、福利厚生は非常に大事な要素だと思います。本人と家族に何かあった時に保障がされている、支援の仕組みがあるというのは、とても重要なことです。本人だけでなく、家族に対しても大きな支えとなります。
特に、法定外福利厚生に対する気配りがポイントとなります。一例を挙げるなら、「メモリアルデー」。社員の誕生日にはランチを用意するなどして、職場の皆で祝ってあげます。また、その日は残業をさせないで、定時に帰ってもらいます。その際、バースデイケーキを持たせてあげるといいでしょう。さらに、社員の家族の誕生日にも、メッセージカード付きのお祝いの品を贈ってあげることです。こうしたちょっとした工夫と心配りで、会社が社員とその家族を大切にしていることを理解してもらえます。
また、社員食堂にも力を入れるといいでしょう。日本企業は生産設備にはお金をかけますが、社員食堂にはあまりお金をかけないケースが多い。しかし、忘れてならないのは、社員食堂は会社内の「憩いの場」であるということです。午前中の疲れを癒して午後の仕事に向けての鋭気を養う場であり、社員同士のコミュニケーションの場です。だからこそ、社員がくつろげるように、できるだけ良い環境を用意したいものです。会社が社員を大切にしているという想いは、モチベーションにつながります。これらのようなことからも、福利厚生には大きな意味があると思います。
社員を幸せにしていく上で、人事部門はどのようなことを心がけ、実践していけばいいのでしょうか。
人事部は組織の要となる部門です。私は、人事部の動きによって、組織としての成績が決まると思っています。なぜなら組織にとって、人ほど大切なものはないからです。
人事部は社員を管理するのではなく、伸ばしていくこと、個性を発揮させることを考えるべきです。あるいは、困っている時に助けること、そして、何よりも社員を幸せにすることを念頭に置かなければなりません。その点で、部下と直接的に対峙するライン長とは立場が異なります。
人事部により、社員は活かされもしますが、活かされなくなることもあります。だからこそ、一人ひとりの社員が幸せだと感じられるような人事施策を行ってほしいと思います。そのためにも、1年に1度は「社員満足度調査」を実施するべきです。場合によっては、嫌な結果が出てくるかもしれません。しかし、そうした「事実」をつかんでおくことが重要なのです。できれば記名にして、どんどん意見を言ってもらうことです。もし私が人事担当ならば、厳しい意見を書いた人には、詳しい説明を聞きに行きます。そして、それを組織や制度の改善・改革へと活用していくことを考えます。もし実行に移されれば、社員は大きな感動を覚えるでしょう。また、自分の意見を聞いてくれたことで、人事部に対する信頼も高まるでしょう。人事の皆さんには、社員の幸せのためにも、このような取り組みをぜひ行ってほしいと思います。
本日はお忙しい中、貴重なお話をうかがうことができました。ありがとうございました。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。