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「願望」と「可能性」を基に来日する外国人材
その個性と強みを生かすため日本企業に必要なこととは

独立行政法人 国際協力機構(JICA)
国内事業部 審議役 次長(市民参加推進担当) 外国人材受入支援室長

小林 洋輔さん

「願望」と「可能性」を基に来日する外国人材 その個性と強みを生かすため日本企業に必要なこととは

多くの日本企業が人手不足に悩む中、新たな労働の担い手として期待が高まっているのが外国人材。「日本で働きたい」と希望する外国人は増加傾向にあります。一方で、外国人材を巡る労働条件のトラブルや人権侵害などの問題も発生しています。今後、日本がより外国人材から選ばれるような国になるためには、どうすれば良いのでしょうか。外国人材の受け入れに関する現状と課題について、独立行政法人 国際協力機構(以下、JICA)で外国人材受入支援室長を務める小林洋輔さんにお話をうかがいました。

プロフィール
小林 洋輔さん
独立行政法人 国際協力機構
国内事業部 審議役 次長(市民参加推進担当) 外国人材受入支援室長

こばやし・ようすけ/1997年、国際協力事業団(当時)に入団。近年は、西アフリカ・エボラ対策支援、米国国際開発庁との連携促進、法制度整備支援、警察協力、児童労働撤廃支援等の総括業務を経験。ベトナム及び米国の在外事務所では現地職員の労務管理の総括業務にも従事。現職では、外国人材受入事業のほか、本邦NGOとの連携事業等も統括。個人のボランティア活動として、外国ルーツの子どもなどへの日本語学習支援や学校の勉強の手伝いにも取り組んでいる。

専門部署を設置し、外国人材の受け入れを支援するJICA

JICAの概要と外国人材の受け入れに向けた取り組みについてお聞かせください。

JICAは、長年、政府の開発援助を実施する機関としての役割を担っています。特に、開発途上地域に向けた技術協力や資金協力を行うことによって、地域の開発を支援することを使命としています。

海外から来日する労働者の方々に対する支援を始めたのはここ数年で、日本政府が特定技能人材の受け入れを開始するタイミングでした。外国人材の受け入れは、ある意味で民間同士(PtoP)の世界であり、「なぜ政府対政府(GtoG)の枠組みの中で事業を行うJICAが関わるのか」と疑問を持つ方がいらっしゃるかもしれません。外国人材の受け入れは、日本にとって大きな社会課題であると同時に、途上国の経済発展に大きく寄与します。そのため、開発援助の実施機関として可能な範囲で支援しているのです。

小林さんが管掌される外国人材受入支援室の役割についてもお聞かせください。

2021年4月に当部署が設立されて以来、JICAにおける外国人材受入事業の司令塔的な機能を担っています。具体的には、外国人材の受け入れに向けた協力の戦略立案のほか、JICA内の事業部門や国内機関などとの折衝・調整、情報の共有などを行っています。

途上国出身者を中心に外国人労働者数が増加

日本における外国人材受け入れの現状についてお聞かせください。

日本に在留している外国人の数は341万人(法務省調べ、令和5年現在)を超えています。このうち、労働者は約205万人(厚生労働省調べ、令和5年現在)で、その大半は開発途上国出身です。コロナ禍ではその数字が若干落ち込んだものの、基本的には伸びています。特に昨年度は、過去最多を記録しました。

その背景には、「日本で働きたい」という外国人の増加と日本側の受け入れニーズの高まりがあります。人手不足で「外国人材を迎え入れたい」と考える日本企業が多くなっているのです。

JICAは、今後も日本に必要とされる外国人労働者の数が増加すると予想しています。ただし、現時点でのシミュレーションによると、期待される外国人労働者数と実際に来日する労働者数の間にはギャップが生じ、2030年には約77万人、2040年には約97万人の不足が発生すると見込まれています。

「2030/40 年の外国人との共生社会の実現に向けた調査研究:将来の外国人の受入れに関するシミュレーション(需給推計2024年更新版)」JICA緒方貞子平和開発研究所(2024)

出典:「2030/40 年の外国人との共生社会の実現に向けた調査研究:将来の外国人の受入れに関するシミュレーション(需給推計2024年更新版)」JICA緒方貞子平和開発研究所(2024)

日本社会で働く外国人材の現状についてお聞かせください。

まず、「在留資格」という概念があり、身分に基づく資格を除けば、来日する外国人材が就ける仕事は基本的に決まっています。大ざっぱに主要なものを申し上げれば技能レベルが低い順で、「技能実習」「特定技能」があり、その上に「技術・人文知識・国際業務(技人国)」があります。いわゆる、ホワイトカラーです。

「技能実習」「特定技能」で来日するのはベトナムや中国、インドネシアなどの方々が多くなっています。「技術・人文知識・国際業務(技人国)」は欧米の方も一定の割合を占めますが、やはりアジアの途上国の方が大半を占めますね。

「技能実習」「特定技能」の方々が就く業種は、製造業、建設業、介護、農業・漁業などが多いのですが、政府は特定技能の対象分野をさらに広げつつあります。

来日する際に保有しておくべき日本語能力は、在留資格によって異なります。技能実習生に関してはこれまで明確な基準がありませんでした。ただ、技能実習制度が育成就労制度(※1)に切り替わるなかで、今後は日本語能力試験「N5」レベル(基本的な日本語をある程度理解することができる)が目安になる予定です。特定技能は元々「N4」レベル(基本的な日本語を理解することができる)が必要とされています。

※1:改正法の概要(育成就労制度の創設等)厚生労働省

外国人労働者は「願望」と「可能性」を基に日本への移住を決断

外国人材の方々は、なぜ「日本で働きたい」と考えるのでしょうか。

さまざまな学術的理論があるのですが、私たちが参考にしているのは、アムステルダム大学教授のHein de Haasさんが提唱している「アスピレーションズ・ケイパビリティーズ・フレームワーク」です。「アスピレーション」は、移住したい願望。「ケイパビリティー」は移住できる可能性を意味します。それらによって、どの国にどれだけの人が実際に移住するかが決まるとするモデルです。

「日本で働きたい」という願望には、「賃金が高い」「安全だ」「文化やアニメが好きだ」など、金銭的、社会的、文化的にさまざまな要素が含まれています。

雇用状況の差も「日本で働きたい」理由の一つでしょう。途上国では圧倒的に仕事が足りていません。特に若手は深刻です。たとえばインドでは、大学を卒業しても、3割前後は職がないとされます(※2)。逆に日本は人手不足が加速していて、地方では、途上国からの技能実習生がいなければ仕事が回らないケースが多くなっています。

※2:ILO(国際労働期間)のレポート(India Employment Report 2024: Youth employment, education and skills | International Labour Organization (ilo.org) )に基づく

ケイパビリティーは、各人が日本に行くための資金を用意できるのか、そのための仕事を紹介してくれる人を知っているのか、その仕事に就くための技術を持っているのか、移住願望を実現するための環境・機会・能力を有しているのか、ということです。

ちなみに「技能実習」「特定技能」の世界では、いわゆる送り出し機関を経由した移住が多くなっています。そうした機関と直接つながりのある方は少なく、機関と提携している日本語学校やブローカー的な役割を担う村長や長老などのルートを頼る傾向があります。

国による特性の違いや、配慮すべきことはありますか。

受け入れる人材が信仰する宗教によっては、企業側に対応が求められることがあります。例えばインドネシアの人材にはイスラム教を信仰している方が多いので、お祈りの時間を確保する、お酒を通じてのコミュニケーションではなくランチ会で交流を図る、といった工夫が必要です。また、同じ国でも地域によって特性が違うこともあるので、事前に確認しておかなければなりません。

外国人材を巡る労働条件のトラブルや人権侵害が発生

日本社会で働く外国人材に関して、労働条件のトラブルや人権侵害なども発生していると聞きました。

労働条件のトラブルや人権侵害に関しては国際的な批判が強く、国としての反省もあって、技能実習制度を育成就労制度に変化させようとしています。

悪質な人権侵害としては、パスポートを取り上げて移動の自由を制約する、休日に近隣の方々と会話することを禁止する、といった事例もあると聞きます。また、ある調査では、いわゆる労働基準法違反が疑われる技能実習実施者に対して、労働基準監督署が監督指導を行ったところ、73.3%に当たる事業所で法令違反が認められました。最も割合が高かったのが建設で、二番目が農・畜産業でした。他方、こういった法令違反の割合は、雇用している方の国籍に関係なくみられるものであり、日本全体の労働環境の改善が必要なことを表しているともいえます。

現行の制度の下では、技能実習生は簡単に転職できませんが、日本への渡航にあたって借金を抱える中で、日本国内の悪徳ブローカーから「失踪したら高い給料が得られる」などとそそのかされ、失踪に踏み切ってしまう方が後を絶ちません。

今後、新たな育成就労制度が施行されることで、手数料を企業側が負担する仕組みが加速するほか、転職もしやすくなります。また、事業所における人権侵害が起きないよう監理する団体のパフォーマンスを向上させていくなど、複層的な取り組みによって課題を解決していこうとする動きがあります。

問題が発生する原因は何だとお考えですか。

一つは、企業側に「外国人イコール安い労働力」という意識があることです。外国人を人として尊重しない扱いをしてしまっていることも多い。

例えば人権侵害の事例を見ると、技能実習中に妊娠し出産した女性労働者に対して、監理団体や会社(実習実施者)が「国に帰ってください」と宣告したケースがあります。一人の人間として認めていない、コストとしてしか捉えていない、という状況がうかがえます。

移住労働者は脆弱(ぜいじゃく)な存在です。一定期間しか日本にいられません。問題が発生した際に相談できる仕組みがあったとしても、最終的には裁判で決着するとなると、かなり時間が掛かってしまうので、途中で帰国しなければならないかもしれません。救済へのアクセス自体が実効的ではないのです。

ただし、来日した技能実習生のすべてがトラブルに遭遇しているわけではありません。調査の結果をみると、全体の7、8割は「日本に来て良かった」と言っています。メディアなどでは悪いニュースが取り上げられがちなので、「技能実習制度イコール悪」というイメージで捉えられていますが、満足している方が多いことも認識してほしいですね。

送り出し前の採用段階で人権侵害が発生するケースも

小林さんは受け入れ側だけでなく、送り出す側となる母国からつながっている問題だとおっしゃっています。

移住労働者の人権侵害は、送り出し前の採用段階で発生するケースが多くなっています。一つは、送り出しのプロセスに関するガバナンスの問題です。送り出す際に悪質なブローカーが関わると、来日のための費用が高くなってしまいます。ブローカーを介さずに正確、かつ透明な求人情報が求職者の方に届けられるようにすることが重要だと捉えて、JICAも取り組みを進めています。

日本での雇用のために必要な訓練費用や募集費用を、求職者に押し付けている例も見られます。国際的には雇用者が負担すべきだという考え方が基本なのですが、実態はそうではないことも多いのです。さらには、技能実習生を母国から日本へ送り出す機関や、その実習生を管理する監理団体に対して発生するキックバック費用を、求職者である技能実習生に負担させているケースもあります。

技能レベルのミスマッチの問題もあります。日本で必要とされている技能レベルに到達していなければ、来日しても思い描いていたような経験を積めません。送り出し前の技能水準を上げることが必要です。

こうした問題を解決するためには、日本からの情報発信も重要です。現状では、日本がどういう国なのか、日本でどんな仕事ができるのかなど、正しい情報にアクセスできないケースも多い。そのため、「思い描いていた日本と違った」といった印象を持たれてしまうのです。

外国人材の受け入れ側、送り出し側双方の問題解決に取り組む

受け入れ側、送り出し側の問題に対して、JICAではどのような取り組みを行っているのでしょうか。

受け入れ側に対しては、外国人労働者の受け入れを進める官民連携のプラットフォーム「JP-MIRAI」の活動を側面支援しています。この団体が発足したのは2020年11月。外国人労働者の労働環境・生活環境を整備し、責任をもって外国人労働者を受け入れ、「選ばれる日本」となることを目指して、志を共有する企業と一緒にさまざま取り組みを推進しています。

具体的には、送り出し国におけるプロセスの現状と課題を理解するためのスタディーツアーの実施や、企業における優良事例の共有やアプリを活用した外国人労働者との情報共有、人権被害にあった外国人のための相談窓口の運営などを行っています。

そのほか、JICAでは、地方自治体やNGOなど地域で外国人の受け入れに関わるさまざまなアクターとの連携事業や、国内の大学との連携事業である留学生の受け入れ事業も展開しています。たとえば、アフリカの方には、単に日本に留学してから祖国へ帰るだけではなく、日本にいる間に日本企業とのつながりを持ってほしいという狙いで、若者が大学での教育・研究に加えて日本企業でのインターンシップを経験できる留学プログラム「ABEイニシアティブ(アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ)」を実施しています。

送り出し側に対しては、先ほど述べたように、悪質なブローカーを介することなく求人情報が求職者に伝わるための取り組みを進めたり、送り出し国の技術水準の向上に取り組んだりしています。外国人材が日本で働く上での技術を持っていれば、受け入れ側にとってはプラスとなります。最適なマッチングを実現するために、人材育成面での支援を個別の分野で始めています。

もう一つは、日本の制度を諸外国に周知する活動です。日本の制度を正しく理解できていなければ、最終的にはミスマッチにつながってしまいます。そうならないために、現地の政府へ日本から専門家を派遣することも行っています。

外国人材の人権に関する問題を日本企業が解決するためには何が必要でしょうか。

まずはJP-MIRAIに参加していただくのがよいと思います。JICAとしても、JP-MIRAIとの連携を通じて、企業の方々と一緒に外国人材の人権に関する問題の解決に貢献していきたいと考えています。

独立行政法人 国際協力機構 国内事業部 審議役 次長(市民参加推進担当) 外国人材受入支援室長 小林 洋輔さん インタビューの様子

外国人材の強みを生かし、共生していける社会・職場づくりが重要

外国人材が働きやすく、働きがいを持てるようにするために、日本企業ではどのような取り組みが行われていますか。

JP-MIRAI入会企業の事例を二つ紹介します。

食品会社の株式会社ニッスイは、直営工場と国内グループ会社を対象に、毎年、外国人労働者の労働環境調査を実施。一部の事業所において外国人労働者に関する課題が確認されたため、グループ各社へ通達を行いました。また、わかりやすく説明された多言語ツール、工場で働く外国人従業員向けの教育ツール、ピクトグラムなども導入しています。グループ会社の従業員向けの人権eラーニングなども実施しています。

静岡県磐田市を拠点とする、繊維製品、帆布製品、車両用シート表皮の裁断縫製メーカーである平野ビニール工業株式会社は、約20年前から外国人労働者を積極的に受け入れ、多様性を強みとして成長を促進しています。国籍や性別を問わず有能な人材を管理者として登用し、DXやコミュニケーションの工夫を通じて業務効率の向上を実現。また、外国人労働者の人権デューデリジェンスに取り組み、働きやすい環境を整えることで企業価値の向上を目指しています。

日本企業は、外国人材が働きやすく、働きがいのある職場をつくるために何をすべきでしょうか。

外国人と一口に言っても、人によって国籍や言語、宗教、価値観、ライフスタイル、能力、技術などはさまざまです。DE&I(ダイバーシティ・エクィティ&インクルージョン)の考え方に基づいて、外国人材一人ひとりの個性や強みを自社の中でどう発揮してもらうかを考えることが重要です。当然、日本人と同じような人材に育てる必要はありません。

また、外国人材に歩み寄る姿勢、寄り添う姿勢を持つことが大事です。日本語をあまり理解できない人には、できるだけやさしい日本語で話す。お祈りの時間が必要な人がいれば、そのための部屋を用意する。日本で働くことによってどのようなキャリアアップが図れるのかをしっかりと示す。外国人材の個性や強みが生かされ、日本企業や日本社会と外国人材が共生できる社会をつくっていきたいですね。

独立行政法人 国際協力機構 国内事業部 審議役 次長(市民参加推進担当) 外国人材受入支援室長 小林 洋輔さん インタビューの様子

(取材:2024年10月1日)

企画・編集:『日本の人事部』編集部

Webサイト『日本の人事部』の「インタビューコラム」「人事辞典「HRペディア」」「調査レポート」などの記事の企画・編集を手がけるほか、「HRカンファレンス」「HRアカデミー」「HRコンソーシアム」などの講演の企画を担当し、HRのオピニオンリーダーとのネットワークを構築している。

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