就職率100%! 国際教養大学の教育プログラムに学ぶ、
“全人力”を養う人材育成の極意とは
国際教養大学 理事長・学長
鈴木典比古さん
国際教養大学はなぜ就職率100%を実現できるのか
とはいえ、雑木林型のリベラルアーツ教育を一貫して実践する国際教養大の就職率は100%で、まさに引く手あまたです。なぜこれほど企業から評価されるのでしょうか。
学生がそれぞれ個をきちんと持てるような、対話による教育が徹底されているからではないでしょうか。英語で「君はどう思う」と問われて、英語で「私 はこう思う」と意見を明確に伝えられないと、教室で隠れる場所なんてないんです。1クラス15人程度の少人数教育ですから、そういう状況に追い込まれるん ですね。それを4年間続けて、しかもそのうちの1年間、つまり、3年次には海外留学のために“追い出される”わけです。学生全員に提携校への海外留学を義 務づけていますから。そうして4年間で徹底的に個を磨き、ものの見方や考え方を鍛え、国際教養を身につけていく。そういう人材が欲しいという企業側のニー ズは、確実に高まっていると思います。
教育プログラムや進級・卒業要件の厳しさでも有名ですね。
ストレートに4年で卒業する学生の割合は、おそらく6割を切ると思います。たとえば3年次に海外留学に出すと言いましたが、誰でも出られるわけでは ありません。かなり要件が厳しくて、一つにはGPA(Grade Point Average)というハードルがあります。簡単に言うと、全科目の成績の平均値が2.5以上でなければ留学できない。さらには、TOEFLも550点以 上とらなければいけない。GPA2.5以上というのは結構大変なんです。リベラルアーツですから、数学も物理も歴史も音楽も、満遍なく単位をとる必要があ ります。「広く浅く」ではなく、「広く深く」です。しかも授業はすべて、英語で行われますからね。
また、首尾よく留学できても、安心はできません。留学先の提携校は164校あり、原則一校に一人の留学ですから、留学生で群れることはできません。 慣れない環境にポツンと放り込まれて、30単位以上を取得しなければならないんです。その30単位を含めた124単位と、GPAで2.0以上がないと、本 校を卒業することはできません。
なるほど、4年で卒業する学生が6割前後というのもうなずけます。
もっとも、この6割という数字には、せっかく3年次に留学していろいろなことを学んだのに、帰ってきていきなり就職活動になだれ込むのはちょっ と……という学生たちの気持ちも大きく影響しているんですね。何も4年で卒業するために、シャカリキになって就職活動を行わなくてもいいんじゃないか。そ のかわりもっとじっくり学びたい、という風潮があるようで、私はむしろ感心なことだと評価しているんですよ。
学生が大学に通うということ自体、経済的には保護者からすると大きな投資です。そのような投資の対象としての学生が大学に籍をおいていても、ちゃん と勉強しなければ、投資がムダになる。これではハイリスク・ローリターンですよね。逆に、勉強は一生懸命すればしただけ、100%本人の身につくわけだか ら、まさにノーリスク・ハイリターン。どちらに掛けるかは自明でしょう。学生も保護者も、そして社会もこの原理に気づくべきだというのが私の持論なんで す。
しかし企業の採用現場で、学生が大学で何をどれだけ学んだかが話題にのぼることはそう多くありません。面接で聞かれるのはサークルやバイトのことばかり、採用担当者はもっぱら出身大学の名前やランキングに目を向けているといいます。
それは企業の人事部に、人工植林型のメンタリティーがまだ根深く残っているからでしょう。原理原則でいけば、採用はその学生の個、全人力というもの を正しく見ていかなければいけませんが、何百人、何千人もの応募が集まるとなると、現実的には難しい。スクリーニングするにも、学歴や出身校、サークルな どの要素でアバウトに選別していくしかないですからね。先ほども言ったように、グローバル化の時代には自分で物事を決められる、個を持った人材が必要なん だと気づきはじめた企業は、確実に増えているんですよ。ただ、気づいてはいるけれど、その方向性を実際の採用活動や人材戦略のしくみに落とし込むのが容易 ではない。人事担当者も、大きなジレンマを感じているところではないでしょうか。
さまざまなジャンルのオピニオンリーダーが続々登場。それぞれの観点から、人事・人材開発に関する最新の知見をお話しいただきます。