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悩みごとの相談相手は、人間よりAI?

第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 副主任研究員 福澤 涼子氏

   

悩みごとの相談相手は、人間よりAI?

AIに悩みを相談する時代に

生成AIの爆発的普及により、AIに悩みを相談する人が増えている。ある民間の調査(注1)によると、親友や配偶者よりも対話型生成AIの方が気軽に相談ができる相手であると認識されている。別の調査(注2)でも、若い世代を中心に対話型AIに対して感情の吐露を行う人が増えていることが明らかになっている。AIはいつでも手軽に、かつ親身に応じてくれることから、メンタルヘルス支援等への活用が期待される一方、その依存性への懸念も指摘されている。本稿では、AIが急速に発展・普及する現在において、改めて「相談相手としての人間」の価値を、AIとの対比のなかで考察したい。

未婚男性の半数が悩みの相談相手がいない

資料1は、悩みの相談相手の有無を、性別・未既婚別に示したものである。性別では男性に、未既婚別では未婚者に相談相手のいない場合が多く、未婚男性の約半数が相談相手を持たない。このような相談相手がいないという人たちにとって、AIが代替的な支援者として機能する可能性がある。

資料1: 悩みの相談相手有無

外部サービスに代替されにくかった情緒的支援

そもそも、悩みの相談相手の有無を問う調査は、相談行動そのものを調べるというよりも、個人がどの程度のソーシャルサポート、とりわけ情緒的支援ネットワークを持つかを把握する目的として世界各国で用いられてきた。言い換えれば、「あなたには身近に助けてくれるつながりがありますか」という問いを投げかけていることになる。

私たちはこれまで、多様なソーシャルサポートが、人とのつながりから外部のサービスへと代替されていく過程を目にしてきた。例えば、醤油が切れたときに、隣近所に借りに行くようなつながりは、コンビニやスーパーに代替された。子どもを育てるうえで重要な情報を提供してくれるママ友との関係性もインターネット上の情報に代替されつつある。孫の世話を担っていた祖父母とのつながりも、保育所や学童保育といった制度に置き換わってきた。サービスが充実し、生活が便利になるほどに、つながりの出番は減っていく。

それでも、「悩みの相談に乗る」という情緒的支援は、手段的支援や情報的支援と比べて、外部化が難しいとされ、専門のカウンセラーへの相談というわずかな例を除いて、主として友人や家族、SNSなど対人関係を介して担われてきた。だが、現在はAIがその領域にも入り込みつつある。相談行動のAIへの外部化は、私たちの「つながり」にどのような影響をもたらすのだろうか。そして、人間同士の相談行動における残された価値とは何だろうか。

人間への相談行動の意義や効果

この点を考えるためには、相談行動の意義や効果に立ち返る必要がある。悩み相談には、相手から助言や解決策を得ること、感情を表出して心理的負担を軽減することなどの効果がある。だが、これらはAIに相談しても得られる場合が多い。むしろ、AIは昼夜問わず気軽に相談できるため、人間よりも相談相手として利便性が高いともいえるだろう。

では、AIではなく、あえて人間に相談することには、どのような意義があるのだろうか。その一つは、相談行動が親密な人間関係を形成するうえで重要なきっかけとなる点である。言い出しにくい悩みや弱音を開示し、それが相手から受け入れられることで人間関係が深まることは、心理学的にも示されている。かつて友人や恋人に悩みを打ち明けた瞬間を思い返してみると、勇気を出して悩みを相談し、相手に受け入れられたとき、相手との関係がより深まったと感じた経験はなかっただろうか。悩みの相談をきっかけに、親密な関係性が形成され、そのような関係性だからこそ、さらに相談できるようになる、この循環によって深い人間関係が築かれていくのである。そして、この親密な人間関係によって、日々の孤独感を緩和することができる。さらに、弱点を含めた自己を他者から受容されている感覚は、自分はありのまま生きていてよいのだという自己の本来感を支える重要な要素となる。

人間に相談するリスクとAIに相談する安心感

一方で、AIの方が人間よりも気軽に相談しやすい存在だと認識されている背景には、その手軽さだけではなく、AIと人間の応答の違いがあると考えられる。AIの場合、相談者に寄り添う共感的な応答をするのに対して、人間を相手とする場合には、否定されたり批判を受けたりするリスクが存在する。

先にも述べたように、ありのままの自己を受容される経験は他者との親密な関係性を育む。しかし、否定的な態度を向けられた場合には、相手への信頼が損なわれるだけでなく、自尊感情が傷つく可能性もある。もちろん、時には他者からの厳しい助言が自己の成長を促すこともあるだろうが、否定的な反応を受けた直後は、相手に嫌悪感を抱くことにもなりかねない。このようなリスクを回避し、安心して悩みを打ち明けられる存在として、AIが選好されるようになっていると考えられる。

人間同士の相談行動を残していくために

資料1で示したように、現代において「悩みの相談相手がいない」という人も少なくなく、そのような人びとにとってAIは、強力な情緒的支援者となるであろう。過度な依存を避ける必要はあるものの、自分の感情を吐き出したり、解決策を模索するためにAIを活用することは、メンタルヘルスの観点から一定の有効性を持つと考えられる。

一方で、悩みの相談をきっかけに親密な関係が形成される場合、それが孤独感の緩和や自己の本来感の獲得に寄与するという人間同士の相談行動の意義も揺らがないはずである。今後はAIを適切に取り入れながら、人への相談によりつながりを深めることも重要であろう。

ただし、現代において醤油が切れても隣近所に借りに行くことが難しいように、ある行動が外部化されると「人に頼むこと自体が不自然に感じられる」という傾向が生じやすい。人間への相談行動を維持し続けるためには、私たち自身がその価値を改めて認識し、勇気をもってその実践を継続することが求められるのである。

注1) 株式会社Awarefy(アウェアファイ)「『対話型生成AI』と人との関係性についての最新調査」2025年8月
注2) 株式会社電通「対話型 AI との関係性に関する意識調査」2025年7月

株式会社 第一生命経済研究所

第一生命経済研究所は、第一生命グループの総合シンクタンクです。社名に冠する経済分野にとどまらず、金融・財政、保険・年金・社会保障から、家族・就労・消費などライフデザインに関することまで、さまざまな分野を研究領域としています。生保系シンクタンクとしての特長を生かし、長期的な視野に立って、お客さまの今と未来に寄り添う羅針盤となるよう情報発信を行っています。
https://www.dlri.co.jp

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