男性の育休取得の現状(2024年度)-過去最高の40.5%へ、産後パパ育休で「すそ野拡大」効果も
生活研究部 上席研究員 久我 尚子氏

2024年度の民間企業の男性の育休取得率は初めて4割台に達し(40.5%)、前年度と比べて+10.4ポイント上昇した。全16業種中11業種で上昇し、首位は「鉱業,採石業,砂利採取業」(67.7%)、2位「金融業,保険業」(63.6%)、3位「学術研究,専門・技術サービス業」(60.7%)、4位「情報通信業」(58.1%)と続く。継続的に上位を占める金融・IT分野に加え、産後パパ育休制度の「すそ野拡大」効果も確認された。
一方、育休取得率が低いのは「生活関連サービス業,娯楽業」(15.8%)や「不動産業,物品賃貸業」(19.9%)、「教育,学習支援業」(23.5%)で、前年度首位だった「生活関連サービス業,娯楽業」は大幅に低下した。コロナ禍収束後の需要回復に伴う人手不足や業務特性が影響している可能性がある。ただし、「卸売業,小売業」では約10ポイント上昇するなど、低取得率業種でも改善の兆しが見られる。
事業所規模別には、100~499人規模(55.3%)が500人以上(53.8%)をやや上回る逆転現象が生じた。組織的な制度導入の効果が見て取れる一方、小規模事業所(5~29人:25.1%)との格差は依然として大きく、政策効果の浸透に差が生じている。代替要員の確保困難や制度に関する情報不足といった構造的課題が残る。
政府は2025年度に男性の育休取得率50%、2030年度に85%との目標を掲げている。2024年度は40.5%達成により目標に着実に近づいているが、今後は制度の量的拡大から質的充実への転換期を迎える。代替要員の確保と同僚の負担軽減、小規模事業所への支援強化、産業特性に応じた柔軟な制度運用が重要な課題となる。職場全体の働き方改革を通じた「お互い様」の組織文化醸成が求められる。
1――民間企業勤務の男性の育休取得率~2024年度調査は初の4割超、前年より10ポイント上昇
厚生労働省「令和6年度雇用均等基本調査」によると、2022年10月1日から2023年9月30日までの1年間における民間企業勤務の男性の育児休業取得率は40.5%となり、初めて4割台に到達した(図表1)。前年度(2023年度30.1%)から10.4%pt上昇しており、上昇幅の大きさが際立つ。なお、2023年度も前年度と比べて13%pt上昇しており、男性の育休取得率は2年連続で急激な伸びを示している。
この背景には、2022年10月に創設された「出生時育児休業制度(産後パパ育休)1」の浸透がある。近年の働き方改革の推進により男性の育休取得は徐々に進んできたが、制度の柔軟化により取得のハードルが大きく下がり、企業・従業員双方にとって利用しやすい環境が整ったことが追い風となっている。2024年度調査では、産後パパ育休を取得した割合は24.5%であり、男性育休取得者全体の60.6%を占める。
一方、女性の取得率は86.6%に達しており、依然として男女差は大きい。ただし、男性の育休取得率の上昇ペースを踏まえると、この差は着実に縮小しつつある。データからは、男性の育休取得が変化の潮目を迎え、「男性も育児に参加する」という価値観が社会に根付きつつある様子が伺える。
政府は男性の育休取得率を2025年度に50%、2030年度に85%とする目標を掲げている。この実現に向けて、企業に対する男性の育休取得状況の公表義務を段階的に拡大している。2023年4月から従業員数1,000名以上の企業が対象となり、2025年4月からは300名以上に拡大されている。さらに、100名以上の企業については、男性育休取得率等の数値目標の設定が義務付けられる。
本稿では、このような環境変化を踏まえ、厚生労働省「雇用均等基本調査」等を用いて、民間企業の男性の育休取得状況について産業や事業所規模等の違いに注目しながら分析する。
1 男性が従来の育休に加えて、子の出生後8週間以内に4週間まで2回に分割して取得可能。2週間前までに申し出ればよく(従来は1ヵ月前)、休業中も一定の範囲で就業可能であるなど柔軟な仕組み。同時期に従来の育児休業制度も改正され、育休を2回に分割可能となった。
2――産業別・事業所規模別の育休取得率~制度浸透の加速と業種間格差、政策効果の波及に差
1|産業別の状況~金融・IT等で継続的な高水準、産後パパ育休が「すそ野拡大」に貢献
産業別に2024年度の男性の育休取得率を見ると、首位は「鉱業,採石業,砂利採取業」(67.7%、2023年度より+42.6%pt)となり、次いで「金融業,保険業」(63.6%、同+19.8%pt)、「学術研究,専門・技術サービス業」(60.7%、同+17.9%pt)、「情報通信業」(58.1%、同+20.1%pt)までが5割を超えて続く(図表2・3)。直近5年ほどを振り返ると、「金融業,保険業」と「学術研究,専門・技術サービス業」、「情報通信業」は安定して上位に位置している(図表4)。
全16業種中11業種で育休取得率が上昇し、8業種では10%pt以上の大幅な上昇を示している。特に「鉱業,採石業,砂利採取業」の上昇が目立つほか、「情報通信業」や「金融業,保険業」、「製造業」(48.7%、+18.5%pt)、「医療,福祉」(31.7%、+18.0%pt)、「学術研究,専門・技術サービス業」でも2割前後の上昇となっている。背景には、前述の「産後パパ育休」の本格的な活用や、男性育休取得状況の公表義務化が企業の取り組みを加速させたことがあると考えられる。
産業別に男性の育休取得者のうち「産後パパ育休」を取得した割合を見ると、育休取得率の高さと必ずしも比例しない(図表5)。確かに育休取得率の高い「金融業,保険業」(73.9%)では取得者の7割超が「産後パパ育休」を利用しているが、その他の上位産業では半数程度にとどまる。一方で、育休取得率が相対的に低い「不動産業,物品賃貸業」(85.4%)や、平均程度の「複合サービス事業」(81.6%)では8割を超えている。これは、「産後パパ育休」制度の柔軟性(短期・分割取得や部分就業が可能)が、従来育休を取得が難しかった業種や職種でハードルを下げる効果を発揮していることを示唆しており、制度改正の狙い通り「育休のすそ野拡大」が進んでいると評価できる。
一方、2024年度に男性の育休取得率が3割を下回ったのは「生活関連サービス業,娯楽業」(15.8%、▲39.5%)、「不動産業,物品賃貸業」(19.9%、同+3.0%)、「教育,学習支援業」(23.5%、同▲0.6%)、「卸売業,小売業」(29.9%、+9.7%)である。特に「生活関連サービス業,娯楽業」は前年度に55.3%で首位であったにもかかわらず、大幅に低下した。この急激な変化には統計上の変動要因の可能性もあるが、調査期間(2022年10月~2023年9月)がコロナ禍収束による消費行動の平常化と重なっていることも影響している可能性がある。旅行・レジャー需要などの急回復により業界全体が人手不足に直面し、育休取得を申し出にくい状況が生まれた可能性も考えられる。こうした一時的要因に加えて、サービス業特有の繁忙期の不規則性や顧客対応の必要性といった構造的な業務特性と合わせて、継続的な注視が必要である。
その他の低取得率業種については従来から制度利用が進みにくい傾向が見られるが、「卸売業,小売業」では前年度から約10ポイント上昇しており、制度浸透の兆しも見える。これらの業種では人手不足や不規則な勤務体系、パート・アルバイトなど多様な雇用形態の存在が制度周知や環境整備の課題となっているが、徐々に改善の動きも広がりつつあるようだ。
なお、既出レポート等2でも、男性の育休取得率が高い産業は共通点があると指摘している。(1)ダイバーシティ経営の強化に向けて戦略的に男性の育休取得を促進している企業が多いこと、(2)育休等の両立支援制度を利用しやすい正規雇用者が比較的多いこと、(3)職場に女性が多いために従来から比較的制度環境等が整っている、あるいは利用しやすい雰囲気があること、(4)裁量労働制やフレックスタイム制など柔軟な勤務制度が浸透し、業務における個人の裁量の幅が比較的大きいこと、などである。
こうした要因を踏まえると、継続的に上位を占める「金融業,保険業」「学術研究,専門・技術サービス業」「情報通信業」などは、組織的な取り組みと業務特性の両面で男性育休を取得しやすい環境が整っていると考えられる。一方、相対的に取得率の低い業種では、こうした環境整備が今後の重要な課題となるだろう。
女性の育休取得率を見ると、いずれの業種でも男性と比べて格段に高く、2024年度では全16業種中12業種で8割、6業種で9割を超えている。一方、8割を下回るのは「宿泊業,飲食サービス業」(57.3%、同▲11.8%pt)、「鉱業,採石業,砂利採取業」(63.2%、同▲36.8%pt)、「建設業」(66.9%、同▲22.1%pt)、「運輸業,郵便業」(77.5%、同▲12.3%pt)である。
「宿泊業,飲食サービス業」や「運輸業,郵便業」では、男性でも育休取得率が比較的低く、その背景には、パート・アルバイトなどの非正規雇用者の多さや人手不足があげられる。総務省「労働力調査(2024年)」によると、雇用者のうち非正規の割合は、全体では男性20.8%、女性51.0%だが、「宿泊業,飲食サービス業」では男性48.0%(全体より+27.8%pt)、女性75.7%(同+24.7%pt)、「卸売業,小売業」では男性25.5%(同+4.7%pt)、女性55.3%(同+2.3%pt)である。非正規雇用者も「子が1歳6か月までの間に契約満了することが明らかでない」場合は育休を取得可能だが、正規雇用者と比べると利用しにくい雰囲気や制度周知の徹底に課題があると考えられる。
さらに、「宿泊業,飲食サービス業」では、コロナ禍の収束以降に消費行動が平常化し、インバウンド需要も一層増す中で、人手不足により休業を申し出にくい状況も続いている可能性がある。
2 久我尚子「男性の育休取得の現状~「産後パパ育休」の2022年は17.13%、今後の課題は代替要員の確保や質の向上」、ニッセイ基礎研レポート(2023/08/29)
2|事業所規模別の状況~中規模事業所での上昇が際立つ一方、小規模では停滞
事業所規模別に見ると、男性の育休取得率はこれまで規模が大きいほど高い傾向があった。しかし、2024年度では100人以上の事業所で大幅に上昇したため、100~499人規模(55.3%、2023年より+23.8ポイント)が500人以上(53.8%、同+19.6ポイント)をやや上回っている(図表6)。一方、5~29人規模以下では25.1%(同▲1.1ポイント)と、前年を若干下回っている。
この背景には、男性育休取得状況の公表義務化に向けた組織的な制度導入の進展があると考えられる。特に100~499人規模の事業所における大幅な上昇は、親会社や本社からの方針展開により制度活用が促進されたことを示唆している。
一方で、規模による格差は依然として大きい。最も取得率の高い100~499人(55.3%)と最も低い5~29人(25.1%)の間には30ポイント超の開きがあり、小規模事業所では代替要員の確保困難や制度に関する情報不足、組織的な取り組み体制の未整備といった構造的課題が残り、政策効果の浸透に格差が生じていると見られる。
女性の育休取得率についても、規模が大きいほど高い傾向は変わらない。しかし、男性ほど顕著な格差は見られず、最も高い500人以上(97.6%)と最も低い5~29人(76.0%)の差は約22ポイントにとどまる。女性については規模を問わず一定程度、制度が浸透している様子が伺える。
3――育休取得期間~男性では1か月以上が4割超で長期化傾向、産業による多様な取得パターン
育休取得期間については、2024年度は調査が実施されていないため、ここでは参考として2023年度の結果を示す(図表7)。2024年度は男性の育休取得率がさらに伸びているため、取得期間にも変化が生じている可能性がある。
2023年度調査では、男性は「1か月前後」、女性は「1年前後」に集中しており、依然として男女差は大きい。ただし、2018年度には男性の約7割が2週間未満に集中していたのに対し、2023年度には4割弱へと半減し、「1か月以上」が約4割を占めるようになっており、男性の育休取得期間は長期化している。
産業別に見ると、男性の育休取得期間は大きく二つに分けられる。1つは短期間中心の産業であり、「宿泊業,飲食サービス業」(2週間未満83.7%)や「金融業,保険業」(同76.1%)、「複合サービス事業」(同60.6%)などが該当する。もう1つは1か月以上が半数を超える産業であり、「教育,学習支援業」(1か月以上64.2%)や「鉱業,採石業,砂利採取業」(同60.5%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(同58.5%)、「サービス業(他に分類されないもの)」(57.6%)、「学術研究,専門・技術サービス業」(56.2%)、「運輸業,郵便業」(51.2%)などが含まれる。
つまり、育休取得率の高低と取得期間の長短は必ずしも連動していない。取得率が高くても短期間に集中する産業もあれば、取得率は低くても比較的長期間の産業もある。背景には、戦略的な促進環境の有無や雇用形態、組織風土、裁量労働制の有無など産業特性が影響していると考えられる。
男性の育休取得期間が女性と比べて短い背景には、いくつかの要因がある。第一に、育児休業給付には上限額が設けられており、男性が休業を取得すると女性に比べて世帯収入への影響が大きい世帯が多いこと。第二に、制度が柔軟化しても評価制度が従来通りであれば、数か月の休業がその後のキャリアに与える影響が不透明であること。これらが男性が長期取得をためらう要因とも考えられる。
4――おわりに~制度の量的拡大から質的充実へ、職場全体の働き方改革が次の課題
本稿では、政府統計を用いて、民間企業の男性の育休取得状況を分析したが、2024年度の育休取得率は40.5%となり、初めて4割台に達した。前年度(30.1%)から10.4ポイントの大幅上昇となり、政府目標の2025年度50%に向けて着実に前進している。
産業別に見ると、「鉱業,採石業,砂利採取業」が首位に躍り出る一方、「金融業,保険業」「学術研究,専門・技術サービス業」「情報通信業」が継続的に上位を占めていた。
また、2022年10月から開始された産後パパ育休制度の活用状況を分析すると、育休取得率が低い業種で同制度の活用率が高い状況も見え、制度改正の狙い通り「すそ野拡大」効果が現れている。一方で、前年度首位だった「生活関連サービス業,娯楽業」は大幅に低下し、コロナ禍収束後の需要回復に伴う人手不足や業務特性が影響している可能性がある。
事業所規模別では、100~499人規模が500人以上をやや上回る逆転が生じ、組織的な制度導入の効果が見て取れた。しかし、小規模事業所との間には依然として大きな差があり、政策効果の浸透は一様ではない。
育休取得期間については2023年度の結果だが、男性で「1か月以上」が4割を超え、長期化が進んでいる。ただし、産業によって短期集中型と長期型に分かれ、取得率の高さと期間の長さは必ずしも一致しておらず、この背景には業務特性や組織風土、評価制度の在り方の違いがあると考えられる。
以上を踏まえると、男性育休は量的拡大から質的充実の段階へと移りつつある。今後の課題としては、第一に、代替要員の確保と同僚の負担軽減があげられる。制度の浸透と長期化に伴い、残る職場の負担をどう分担・評価するかが鍵となる。単なる業務分担ではなく、報酬や評価制度の見直し、生産性向上による業務総量の削減も求められる。第二に、小規模事業所への支援強化がある。助成や人員計画策定支援といった具体的な支援策がなければ、格差の是正は進みにくい。第三に、産業特性に応じた柔軟な制度運用である。特に需要変動や人手不足の影響を受けやすい業種では、業界単位の取り組みや繁忙期を考慮した制度設計が不可欠である。
男性育休の浸透は、単なる制度利用の促進を超えて、職場全体の働き方や価値観の変革を促している。取得する本人と支える同僚が共に安心して働ける環境を整えるには、「お互い様」の精神を基盤とした組織文化の醸成が欠かせない。さらに、労働力不足が深刻化する中で、性別や家族構成にかかわらず全ての社員が力を発揮できる柔軟な働き方の構築が、企業の持続的成長の前提条件となるだろう。
なお、日本の男性育休制度は国際的に見ても高水準にある。OECD諸国との比較では、日本の父親に向けた育休制度は期間・給付水準ともに手厚く設計されており、給付水準を考慮した「実質的な休業期間」はOECD内で最長水準に位置する3。制度基盤の充実度を踏まえると、今後はその活用の質的向上がより重要となる。
3 「OECD Family Database」(2024)によると、父親専用の有給育児休業期間の最多は韓国(54.0週)、次いで日本(52.0週)、フランス(30.2週)、スロバキア・ルクセンブルグ(28.0週)と続く。これに育休中の給付水準(Average payment rate)を掛け合わせた実質的な休業期間(Full‑rate equivalent)の最多は日本(31.1週)、次いで韓国(29.2週)、スロバキア(21.0週)、ルクセンブルグ(20.5週)、スペイン(16.0週)と続く。
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