変わるインターンシップ
ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 研究員 坂田 紘野氏
1――インターンシップの在り方の見直し
政府が経済団体・業界団体等に対して要請している就職・採用活動日程ルールの下、2023年度に卒業・修了予定の学生を対象とした広報活動が3月1日に開始された。6月1日以降には採用選考活動も始まる予定だ。現在、就職活動に取り組んでいる学生の中には、企業等のインターンシップに参加したことのある方も多くいることだろう。2022年度に実施された内閣府の調査1によれば、7割以上の学生がインターンシップ等への参加を経験している。インターンシップは学生のキャリア形成支援や企業の魅力発信等の意義を有するとされたことから、広く実施されてきた。
その一方で、これまでのインターンシップ等には「『模擬的な作業を含め、業務を体験する場面が全くないもの』がある」「多くの学生が就職活動に直接的なメリットをもたらすと期待して短期インターンシップに参加する傾向があり、これらが最近のインターンシップ等をめぐる混乱につながっている」等の指摘もなされており、課題も存在している2。
インターンシップをはじめとした産学協働によるキャリア形成支援の在り方については、近年、経済界や大学の関係者によって構成される産学協議会を中心に見直しの議論が深められてきた。この検討の結果として2022年4月に公表された報告書の内容を踏まえ、2022年6月に文部科学省、厚生労働省、経済産業省は、「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組の推進に当たっての基本的考え方」(以下、三省合意)を一部改正した。これにより、今年度以降、インターンシップの在り方は変わっていく予定だ。
1 内閣官房「就職・採用活動日程に関する関係省庁連絡会議(第9回)」(令和4年11月30日)参考資料6より
2 採用と大学教育の未来に関する産学協議会2021年度報告書「産学協働による自律的なキャリア形成の推進」(2022年4月18日)より
2――何が変わるのか
今回の三省合意改正の特徴の1つとして、インターンシップを改めて定義し直したことが挙げられる。改正前の三省合意では、インターンシップについて、「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」として幅広くとらえられているとしていたところ、改正の結果、「学生がその仕事に就く能力が自らに備わっているかどうか(自らがその仕事で通用するかどうか)を見極めることを目的に、自らの専攻を含む関心分野や将来のキャリアに関連した就業体験(企業の実務を経験すること)を行う活動(但し、学生の学修段階に応じて具体的内容は異なる)」という定義が新たに示された。インターンシップの新たな定義においては、企業の実務を経験することが必須であるという点が強調され、産学協議会等から問題視されていた、就業体験を伴わない、いわゆるワンデーインターンシップ等はインターンシップの定義から外れていることが再確認された。
また、インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組の4つの類型への整理もなされた(図表1)。4類型のうち、新たなインターンシップの定義に該当するのは、タイプ3「汎用的能力・専門活用型インターンシップ」とタイプ4「高度専門型インターンシップ」の2つに限られる。
さらに、タイプ3、タイプ4のインターンシップを通して企業が得た学生の情報は、採用活動開始以降、企業の採用活動に活用することが可能になった。これによって、学生のキャリア形成支援に向けた取組が一層推進されると同時に、就業体験を伴う質の高いインターンシップが採用における学生と企業のマッチング向上にも資することが期待される。なお、学生等の混乱を回避するため、タイプ1「オープン・カンパニー」とタイプ2「キャリア教育」として整理された活動に対しては、インターンシップの呼称を使用することができない。
さて、4類型のうち、今後の動向が特に注目されるのが、タイプ3のインターンシップだ。新たなインターンシップの定義に該当するタイプ3とタイプ4の取組のうち、より多くの学生等が対象となりうるのはタイプ3であることから、大学、学生、企業のそれぞれに及ぼす影響も大きくなることが想定される。
この点に関連して、産学協議会は、質の高いインターンシップの普及に向け、タイプ3のインターンシップが最低限遵守すべきと考える条件として、5つの要件を挙げた(図表2)。
図表2に示したように、新たな定義におけるインターンシップには、必ず一定期間の職場での就業体験を行わなければならないことに加えて、①就業体験では職場の社員が学生を指導し、フィードバックを行わなければならないこと、②最低でも5日間以上の実施期間を設けなければならないこと、等の要件が課せられることとなった。そのため、企業等が実施するインターンシップへの募集人数は学生数に比してそれほど多くはならないかもしれない。
日本経済団体連合会(経団連)が会員企業を対象に2023年1月~2月に実施したアンケート調査3によると、新たなインターンシップの定義に関しては、多くの企業(83%)が認知していた一方で、インターンシップ実施の予定のない企業も一定程度(17%)見られる。実施の予定のない理由としては、「業務の特性により、タイプ3の5要件を満たすことが難しいから」「職場の理解や人手不足等により、タイプ3の5要件を満たすことが難しいから」等の回答が寄せられた。また、経団連は、2023年度におけるインターンシップへの学生受入人数について、総じて2022年度と比べて実施人数が少ない傾向にあるとしている。
このような点を考慮すると、インターンシップの定義から外れているからといって、タイプ1,タイプ2のキャリア形成支援の取組が、その意義を失い、企業等に活用されなくなることは考えづらい。4類型はすべて、学生のキャリア形成支援の取組であるという点で共通しており、大学、学生、企業それぞれが、各類型の取組を適切に組み合わせて活用することが期待される。
3 日本経済団体連合会「質の高いインターンシップに関する意向調査結果」(2023年3月23日)
3――見直しの背景にある社会環境の変化
ここまで確認してきた通り、インターンシップはより就業体験を重視し、大学等での学修と社会での経験を結びつけることを目指すよう見直しが進められる。もっとも、今回の三省合意の見直しは、学生が学業や研究活動に取り組むための十分な時間の確保や、より実務をベースとした質の高いインターンシップを実施する際の受入れ対応を担う企業等の負担感等、インターンシップが抱える課題点や懸念点のすべてを払拭したわけではない。そのため、具体的に取組を推進するにあたっては、産官学が一層の協働体制を構築していく必要がある。
それにもかかわらず、このようなインターンシップ等の取組の在り方の見直しが行われたのは、大学、学生、企業、それぞれに意義があると考えられたためだ(図表3)。取組の見直しが有する意義を認識し、取組を推進していくことが望ましいと思われる。
また、足もとでは我が国を取り巻く社会環境の変化も注目を集めている。90年代以降の「失われた30年」において、日本経済の潜在成長率はほとんど常に前年比1%未満にとどまっている。また、高齢者や女性の社会進出が進んだこともあり国内の労働力人口は増加傾向にあったものの、近年は横ばい状態となっており、今後は減少していくことが想定される(図表4)(図表5)。
産学協議会の設置の目的は、このような状況の下で、Society5.04で活躍できる人材の育成に経済界と大学が共に取り組むため、対話を行う場を設けることにあった。デジタル化やグローバル化が進展する世界において、日本が再び経済成長を成し遂げるためには、イノベーションによる社会課題の解決や新たな価値創造が不可欠だ。そのためには一人当たりの生産性向上、すなわち個々人が社会で能力を発揮することが必要であり、個人の専門性やスキル、能力、経験を活かすことの重要性は一層増していくだろう。ジョブ型採用やリスキリングといった専門性を身に付けることがキャリア形成のキーワードとなりつつある中、そのスタート地点ともいえるインターンシップの見直しが実施されるのは自然な流れと言えるのかもしれない。
4 「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」すなわち、「デジタル技術を活用しながら、多様な人々の想像力や創造力を融合して、様々な社会課題を解決し、価値を創造していく社会」(内閣府、経団連資料より)
4――おわりに
4月10日に、政府は専門性の高い人材の選考開始を大学3年生終了前の春休みに前倒しすると発表した。現行のルールからは3ヶ月ほど早められることになる。選考にあたってはタイプ3のインターンシップのうち学生の専門性を重視することが想定される「専門活用型」5に参加したことを要件としており、インターンシップが選考の判断材料として活用されうる方向性が具体化された。今後、専門性の高い人材に関する採用日程の弾力化は進むものと思われる。もっとも、専門性が何を意味するのかについては、未だに明確な定義がなされていない点には留意する必要があるだろう。採用日程の見直しによって、選考開始が前倒しになり、実質的な選考の早期化、長期化につながってしまうのではないか、という懸念は根強い。インターンシップが学生の専門性獲得に向けた大学等における学修の阻害要因とならないよう、引き続き、産官学で調整を進める必要がある。
岸田政権が新しい資本主義を目指す中で、「一人一人が自らのキャリアを選択する」時代へと移行しつつある。中途採用による人材確保を図る企業が増えつつある等、いわゆる日本型雇用の見直しも進んできている。インターンシップの見直しもこのような流れの一環として位置付けることができるだろう。今後、専門性を有する人材が多く社会に参入し、経済の活性化につながることが期待される。
5 なお、汎用的能力活用型は学生の適性や汎用的能力を重視することが想定されている。
ニッセイ基礎研究所は、年金・介護等の社会保障、ヘルスケア、ジェロントロジー、国内外の経済・金融問題等を、中立公正な立場で基礎的かつ問題解決型の調査・研究を実施しているシンクタンクです。現在をとりまく問題を解明し、未来のあるべき姿を探求しています。
https://www.nli-research.co.jp/?site=nli
人事の専門メディアやシンクタンクが発表した調査・研究の中から、いま人事として知っておきたい情報をピックアップしました。